戦国異伝供書

　　　　　　　　　　　　　　　　第五十話　　再び向かい合い
　上杉家を継ぎ名もあらためてだった、政虎は上洛のことも考えていた。だがその前に彼はやるべきことがあった。
　村上と小笠原にだ、彼は春日山城において強い声で話した。
「再び関ヶ原にです」
「出陣されるのですか」
「信濃に」
「そしてです」
　さらに言うのだった。
「必ずです」
「武田家を破り」
「そうしてですか」
「信濃を然るべき形に戻します」
　小笠原家を守護とし国人達が元通りになっている、というのだ。
「その様なものに」
「そしてその際ですか」
「上杉殿は」
「領地はいりません」
　一切という言葉だった。
「そのこともです」
「言われるのですか」
「その様に」
「既にわたくしは越後一国と佐渡があり」　
　そしてというのだ。
「上野にも領地を持ちました、これだけあればです」
「領地はいい」
「そう言われますか」
「そうです、ですから」
　だからだというのだ。
「信濃の領地はです」
「いらぬ」
「あくまで」
「左様です、これは公のことです」
　そうなるからだというのだ。
「わたくしはです」
「信濃のご領地はですか」
「いらぬと言われるのですか」
「そうです、その土地は貴方達のものです」
　まさにというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「この度の戦で勝たれても」
「それでもですか」
「領地は求めらませぬか」
「一切。全ては貴方達にお返しします」
　またこう言うのだった。
「では出陣の用意に入ります」
「上杉殿」
　村上は政虎の言葉そしてそこにある心に感じ入った、それで自ら彼に対してこう申し出たのだった。
「この度の先陣は」
「村上殿がですか」
「はい」
　まさにと言うのだった。
「そうさせて頂きたいのですが」
「それがしもです」
　村上に続いて小笠原も言ってきた。
「是非です」
「先陣にですか」
「お願いします」
　先陣を任せて欲しいというのだ。
「この度は」
「それでは」
　政虎も頷いてよしとした、こうしてだった。
　越後から信濃に兵が再び動いた、晴信は海津城の狼煙からそのことを知るとすぐに家臣達を集めて話した。
「また越後から来た」
「長尾殿、いえ上杉殿が」
「うむ、源助から狼煙が来た」
　海津城にいる高坂からとだ、晴信は信繁に答えた。
「今越後から動いてな」
「そしてですか」
「信濃に入ろうとしておる」
「ではこれより」
「二万の兵を以てな」
　そのうえでというのだ。