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戦国異伝供書

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第五十話 再び向かい合いその二

「出陣するぞ」
「そうしてですな」
「再び向かい合う、しかしな」
「出来ればですな」
「戦にならぬならな」
 それならばとだ、晴信はこうも言うのだった。
「よい」
「それが兄上のお考えですな」
「そうじゃ、戦をするよりはな」
「むしろですな」
「今はことを避け」
 そのうえでというのだ。
「信濃の足場を固めてじゃ」
「そうしてから」
「美濃に向かいたい、だが」
「若し上杉の軍勢が隙を見せれば」
「それはないと思うが」
 政虎ならばとだ、こうも言うのだった。
「しかしな」
「隙を見せれば」
「攻めてじゃ」
 そうしてというのだ。
「打ち破る」
「そうされますか」
「しかし無理はせぬ」
「相手は上杉殿だけに」
「下手にこちらが動けばな」
「逆にやられると」
「そうなるからじゃ」
 だからだというのだ。
「この度もな」
「出来るだけ、ですか」
「守りを固めてじゃ」
「我等は戦わぬ」
「干戈を交えるだけが戦ではない」
 晴信は確かな声でこうも言った。
「戦の目的を適えればな」
「干戈を交えずともですな」
「よいのじゃ、この度はな」
「上杉家の軍勢を退ければよいですな」
 昌幸がこう言ってきた。
「さすれば」
「うむ、そうなればな」
 その通りだとだ、晴信は昌幸に答えた。
「それでよい」
「だからですな」
「この度はな」
「戦わずそのうえで」
「あの者達が帰るのを待つ」
「信濃は敵地ですし」
 これは上杉家から見てだ、当然武田家から見れば逆になる。
「それならば」
「敵もじゃ」
「やがて退きますな」
「我等はそれを待てばよい」
「そうであるので」
「ここはあくまでな」
 守りを固めてというのだ。
「戦わぬ様にするぞ、それは源助も同じじゃ」
「海津の城において」
「守りを固めてじゃ」 
 そうしてというのだ。
「攻めずな」
「敵が去るのを待つ」
「そうしてもらう、とかくじゃ」
 この度もというのだ。
「戦わぬ様にするぞ」
「わかり申した」
「では出陣じゃ」
 晴信は戦わないことを徹底して言ってだった、そのうえで二万の軍勢と主な家臣達を連れて川中島に赴いた。そうしてだった。
 彼は自分の言葉通り守りを固めた、政虎は動かない武田家の赤い軍勢を見て言った。
「やはりですね」
「武田家の軍勢はですな」
「動きません、こちらから攻めても」
 例えそうしてもというのだ。 
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