戦国異伝供書
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第四十九話 小田原へその十二
「ですから」
「はい、わたくしが子をもうけないなら」
「それなら養子となりますので」
「ならですね」
「丁度長尾殿にはご子息がおられますので」
「あの者をですね」
「是非です」
直江は政虎に強い声で薦めた。
「あの方を跡継ぎに」
「それはわたくしも考えていました」
政虎は直江にすぐに答えた。
「跡継ぎはです」
「あの方ですね」
「まだ幼いですが」
「それでもですね」
「姉上のお子でもあるので」
血縁から言ってもというのだ。
「あの者しかいません」
「さすれば」
「このことも決めました」
今しがたというのだ。
「その様に、では」
「はい、跡継ぎのことは」
「整いました、そしてですね」
「あの方が殿の後にです」
「上杉家の主となり」
「天下の公を担われます」
「そうなりますね、ですが天下の公は」
ここでだ、政虎は月、優しく青い光を放っているそれを見た。この夜の月は青く夜の世界を濃紫の空の中で照らしていた。
「定まるかも知れません」
「殿の手により」
「若しくは」
「武田殿か、ですか」
「織田殿の手によって」
信長のことも言うのだった。
「そうなるかも知れません」
「あの方は尾張の大うつけなぞでなく」
「天下の器、蛟龍です」
それが信長だというのだ。
「そのことはこれからすぐにわかります」
「そしてそのうえで」
「あの方がです」
「天下をですか」
「一つにするやも知れません」
「そして公をですか」
「そうも思います」
こう言うのだった、そのうえで政虎は今は月を見ていた。久方ぶりに飲まずに見る月は妙に澄んで穏やかだった。彼はその光を見つつこれからのことも考えていた。
第四十九話 完
2019・5・8
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