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ある晴れた日に

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539部分:柳の歌その六


柳の歌その六

「そういうことでね」
「話は決まりね」
「よし、後は」
 最後に言う桐生だった。
「実行に移していこう」
「じゃあ早速」
 まずは凛が言った。それと共にその飴玉を出すのだった。
「あいつにこれ渡してくるね」
「うん、頼んだよ」
「ちょっと行って来るわね」
 飴を五個程持ってそのうえで正道のところに行く。彼はずっと楽譜を見ていた。それでギターに手をやっていたがその彼に後ろから声をかけたのだった。
「ねえ音橋」
「んっ!?」
 流石に声をかけられると気付いた。凛の方に顔を向ける。
「何だ?」
「これあげるわ」
 素っ気なくを装って彼にその数個の飴玉を差し出すのだった。
「食べていいからっていうか舐めていいから」
「そうか。くれるのか」
「はい、どうぞ」
 こう言ってまた差し出すのだった。
「あげるから」
「悪いな」
「御礼はいいわよ。美味しいから皆に配ってるしね」
「美味いからか」
「そうよ。美味しいものは皆でね」
 言っているのは演技だが実は彼女自身もそう考えていたりする。
「分けて食べないとね」
「そうか。じゃあ貰うな」
「そうしておいて。じゃあね」
 正道にその飴を渡し終えた。それから皆のところに帰って右目でウィンクしてみせる凛だった。するとここで江夏先生が教室に入って来た。それから朝の話は完全に何事もなかったかのように普通のホームルームがはじまるのだった。
 恵美は家に帰るとだった。そのライトブルーの店のカウンターのところにいる母に声をかけた。見れば彼女と実によく似た顔と雰囲気である。
「ねえお母さん」
「どうしたの」
「レモンあるかしら」
 こう母に問うのだった。
「あのレモンを蜂蜜に浸したのあるかしら」
「ああ、あれね」
 あれと聞いて頷く彼等だった。
「あれ食べるの」
「食べるのは私じゃないわ」
 自分ではないことは答えたのだった。
「まあそれでだけれど」
「誰かにあげるの」
「駄目だったらいいけれど」
「別にいいわよ。隠してるものでもないし」
 母は気さくに娘に告げた。
「持って行きなさい、好きなだけね」
「有り難う。じゃあ貰っていくわ」
「ただしよ」
 カウンターの出入り口にあるその扉から家に入ろうとする娘に対して一言告げる母だった。
「出した分は作っておいてね」
「わかってるわ」
 母の方に振り向いて答える娘だった。
「それはね」
「だったらいいわ。持って行きなさい」
「ええ」
 こうした話の後で自分の家の冷蔵庫を空ける恵美だった。それからそれを取り出してから。カウンターに戻って冷蔵庫から持って来た様々な野菜をミキサーに入れるのだった。
「今度は何なの?」
「ジュース作ってるの」
 こう横から見ている母に告げるのだった。母は今客に出すコーヒーを淹れていた。
 
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