ある晴れた日に
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537部分:柳の歌その四
柳の歌その四
「暫くはね」
「何時かは言わないといけないけれど」
恵美も彼に目をやった。彼女にはその背中は敗れようとする人間のものではなかった。しっかりと目指すものを見ている目であった。
「絶対にね」
「それができないのならやれることをやってその時を待てばいいのよ」
「そういうことね」
「じっくりとね。それじゃあ」
ここまで話してそれで今は終わった。その放課後だった。皆で病院に向かう正道を見送った。そのうえで話をするのだった。
「さて、これからね」
「どうしたものかしら」
「どうする?」
皆教室から校舎を出て校門を見る彼を見ていた。彼等のクラスは二階にある。そこのベランダに並んでそこから見るのだった。
「それでだけれど」
「裏方だよな、桐生さんよ」
「そうだよ」
春華の問いに頷いてみせた。
「今はね」
「それはわかったけれどよ」
彼の言葉を聞いたうえでまた問う春華だった。
「具体的にはどうするんだよ、何をすればいいんだよ」
「例えばだけれど」
ここで具体的な例を出してみせたのであった。
「喉とか」
「喉!?」
「喉っていうと!?」
皆桐生の言葉に一斉に注目した。
「っていうと」
「どんなの?」
「飴とかね」
それを話に出したのであった。
「飴。喉にいいじゃない」
「そんなのがいいんだ」
「何かありきたりね」
「ありきたりでも大事だよ」
しかし桐生は真剣だった。言葉も本気である。
「そういうのもね」
「飴ねえ」
「じゃあこういうの?」
凛が早速それを出してきたのだった。それは黒い喉飴であった。
「黒砂糖よ」
「ああ、いいじゃない」
それを見てまず明るい声を出した桐生だった。
「それがいいよ、持ってたんだ」
「飴好きだから」
だからだというのだ。
「っていうか飴ならいつも持ってるじゃない」
「それを考えたら好都合ね」
「確かにね」
皆このことにまずは満足した。
「じゃあそれをあいつにあげて」
「喉のセーブね」
「そういうことだね」
また言う桐生だった。
「音橋君あってなら彼のガードをしっかりしないとね」
「何か御前が一番まともに考えてねえか?」
「だよな」
野茂と坂上は桐生の飴に対して素直に賞賛の言葉を出した。
「こういうことまで考えが及ぶなんてな」
「しっかりしてるぜ」
「その他にはあるか?」
「飴の他には」
今度は坪本と佐々が言ってきた。
「何かあいつの為によ」
「できることはよ」
「そうだね。後は」
桐生は二人の言葉を受けてまずは腕を組んだ。そのうえで出してきたものは。
「あれだね。指だね」
「指!?」
「指かよ」
「ギターは指だよ」
今度話に出してきたのはそこだった。指だというのである。
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