ある晴れた日に
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526部分:空に星は輝いているがその十三
空に星は輝いているがその十三
「あいつの後ろ」
「今からね」
「よし、それじゃあ」
皆も彼等の言葉に頷いた。これで決まった。
皆すぐに扉に近寄る。鍵がかかっていればそれで諦めるしかなかった。しかし正道はここでは迂闊であった。
野本が扉のドラノブに手をかけるとだった。開いた。皆ここで顔を見合わせた。
「開く」
「ねえ」
「行けるわ」
決しさせた目をそれぞれ合わせるのだった。そうしてだった。
隔離病棟の中に入る。その中は暗く非常口を示す矢印の薄緑の灯りがあるだけだった。その他には何の光もない場所だった。
彼等はその中をひっそりと進む。そうしてだった。
「なあ、ここって」
「普通の場所じゃねえな」
「そうだな。名前聞いただけでわかるけれどな」
「これはかなり」
坪本と佐々がその暗い廊下の中を進みながら小声で話していた。廊下の左右には扉が並んでいる。そこが患者の部屋やそういったものであることは明らかだった。
「妙っていうかな」
「何か出て来そうだな」
「それによ」
茜はその暗い世界を見回りながら言うのだった。
「ここって」
「ここ?」
「普通じゃないのはもうわかってるけれど」
「誰が入院してるのかしら」
彼女が言うのはこのことだった。
「一体誰がなの?」
「そう言われると」
「やっぱりあれ?伝染病の人とか」
「頭がどうなった人とかじゃないのか?」
皆小声で話し合うのだった。
「そういう人が中にいるんじゃないの?」
「治るまで出られないようにして」
「それかあれね」
恵美がここで言った。
「人に会えない状況の人がいるかね」
「人に会えないって」
「そんな人もかよ」
恵美の言葉を聞いた皆の顔がここで曇った。
「あいつ、そういう人に用があるのか?」
「少なくとも尋常じゃない状況の人に会うみたいだけれど」
「誰なのかしら」
そんなことを話しながら正道を探す。しかし隔離病棟に入ったことがなく方向感覚に弱い彼等にこのことがわかるかというと無理な話だった。
ここでも道に迷ってしまった彼等だった。暗い病室の中を彷徨うことになった。
「あれっ、ここじゃないな」
「ここさっき通らなかった?」
「そうじゃないのか?」
「確か」
全員一度来た場所を通る度にこんなことを言う状況だった。
「あれ、ここも」
「ここもだぜ」
「どうなってるんだ?一体」
愚痴まで出ていた。彼等は完全に道に迷っていた。
それでも碌に何も見えないその病棟を歩き回っているとだった。不意に。
何かが聴こえてきた。それは。
「あれっ、これって」
「ギター!?」
「そうだよな」
それはギターの音だった。彼等はその音を確かに聴いたのである。
「聴こえたわよね」
「ああ」
「間違いないわ」
「確かによ」
顔を見合わせてそれぞれ言い合うのだった。
「ギターってことは」
「あいつね」
「この近くにいるわ」
そのギターの音を聴いて次にはこのことを確信したのであった。
正道がいることをだ。それも近くにである。
「いるな」
「近くね」
「けれど何処?」
今度はそれが問題になった。
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