ある晴れた日に
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508部分:冷たい墓石その十六
冷たい墓石その十六
「それで音橋のこと聞きたいのよね」
「何で少年と知り合いなのかもわからないけれどね」
「あっちゃんとは塾が一緒だったの」
それで知り合いだったというのである。
「それでなのよ」
「ああ、塾でなの」
「塾が一緒だったの」
「それで音橋とはあれよね」
奈々瀬が彼女に問うた。
「同じ中学校だったのよね」
「そういうこと」
まさにその通りだというのである。
「中二の時は一緒のクラスだったわよ」
「あいつその頃からいつもギター持ってたの?」
凛が尋ねたのはこのことだった。
「高校入学してからずっと担いで時間があったら弾いてるけれど」
「ええ、そうよ」
そうだというのである。
「軽音楽部だったしね」
「成程」
「そうだったの」
五人だけでなく明日夢も彼女の今の言葉に頷いた。
「それはその時からだったのね」
「変わらないんだ」
「性格は無愛想で」
これも同じなのだった。
「それでもまあ付き合いはそれなりにあったわね」
「今と同じみたいね」
「そうね」
五人は話を聞いてこう言い合った。
「それで親しいお友達とかは?」
「家族の人とかやっぱりいるわよね」
「家族はいるわよ」
陽子はこの問いにも答えた。
「ちゃんとね」
「ああ、いるの」
「やっぱり」
「いない筈がないじゃない」
くすりと笑って皆に話すのだった。
「あいつだってね」
「まあそれはそうだけれどね」
「あいつも人間なんだし」
言われてみればまさにその通りである。しかし五人にしても双方の間にいて仲介の形を取っている明日夢にしてもそう簡単に想像できないことだった。
「いて当たり前よね」
「考えてみればね」
「それでだけれどね」
また話す陽子だった。
「あいつの家族ね」
「ああ、それね」
「どういう人達なの?」
「御両親は普通の人達よ」
そうだというのである。
「あの人達はね」
「そうなんだ。あの無愛想男の親御さんはまともなのね」
「普通なの」
「至って普通よ」
「実際ね」
このことも知った彼女達だった。正道のことは本当に何一つとして知らなかったのである。話を聞いて驚いている部分もあった。
「その普通の御両親から生まれたのに」
「あんなふうになったの」
「まあ色々あってね」
陽子はここで言葉を濁してしまった。
「それでなのよ」
「色々って何?」
「何があったの?」
「何がっていうかね。ちょっと失恋もあったし」
陽子はこれまで明るくはきはきとしていたが急に暗い言葉にさせてしまった。表情もその声と共にトーンの低いものになってしまっていた。
「それで性格が変わったのよ」
「性格がなのね」
「そっから変わったんだな」
「一時期人も避けて誰とも打ち解けようとしなくなって」
それだけ傷付き殻に閉じ篭もったということなのだ。
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