ある晴れた日に
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
503部分:冷たい墓石その十一
冷たい墓石その十一
「咲今日絶対当たるじゃない。出席番号があれだからん」
「まあそんなこと言わない」
「よくあることだし」
他の四人がぼやく彼女をフォローする。
「それはね」
「気にしない気にしない」
「そうね。それにしても」
納得はしたがそれでも顔は暗いままの咲だった。その顔でまた言うのだった。
「何か今日は朝から大騒ぎね」
「そうね。いつもだけれど」
「今日は余計に」
そしてそれは朝だけではなかった。放課後もまた。彼女達はカラオケに行こうとする。そこをふと教頭先生に見つかって声をかけられたのである。
「ああ、君達」10
「えっ、教頭先生」
「何ですか?」
「廊下を走っちゃいけないよ」
顔がやけに長く下顎が少し出ている。鼻が高く目は垂れている。顔には皺が刻まれ髪には白いものも混ざっている。そうした顔立ちの細い身体のやや小柄な先生である。その教頭先生が五人に言ってきたのである。
「滑って危ないからね」
「あっ、すいません」
「つい」
「女の子も元気でいいんだよ」
教頭先生はそれはいいとした。
「けれどね」
「けれど?」
「怪我には気をつけなさい」
穏やかな優しい声での言葉だった。
「いいね」
「怪我ですか」
「滑って転んで顔でも打ったら」
先生の言葉は今度はかなり具体的なものだった。
「奇麗な顔に傷がつくじゃないか」
「奇麗な顔って」
「私達がですか!?」
「そうだよ。奇麗な顔がね」
ここでも優しい校長先生の言葉だった。
「傷付いちゃ駄目だからね」
「そうですか。じゃあ」
「静かに」
「ゆっくりと」
「そうしなさい」
こう五人に告げるのであった。
「いいね、それで」
「わかりました」
「じゃあ」
「急げば落ち着いて」
教頭先生は言い加えてきた。
「そして静かに行かないとね」
「急いでる時は落ち着いて?」
「それで静かにって」
こう言われた五人はついつい首を傾げてしまった。そのうえでお互いを見ながら首を傾げさせたまま言い合うのだった。
「何か矛盾しているような」
「大丈夫かしら、そうやって」
「大丈夫なんだよ。落ち着いて周りを見て」
しかし教頭先生は言うのだった。
「それで進まないと大変なことになったりするよ」
「その怪我とかですか」
「そういうことだよ。怪我をしたら何にもならないよ」
また五人に対して言うのだった。
「わかったね」
「ええと、あまりよくは」
「申し訳ないですけれど」
ここでは実に素直に言う五人だった。
「わからないです」
「ちょっと」
「今はわからなくてもそのうちわかるよ」
教頭先生はこう言った。
「そのうちにね」
「そうなんですか」
「そのうちに」
「じゃあ落ち着いて行きなさい」
ここまで話して、であった。
ページ上へ戻る