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ある晴れた日に

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491部分:歌に生き愛に生きその十三


歌に生き愛に生きその十三

「だから別に大学にも行かないしな」
「そうか」
「じゃあ会えたら本当に運がいいわね」
「そうだな。そう思って今から帰るさ」
 言いながらその駐車場の方に向かって行く。こうしてまず彼女が別れた。
「じゃあ俺達はよ」
「このままね」
「電車に乗って」
 他の面々はそれで帰ることにした。これでこの日は終わった。少なくとも電車に乗った面々はである。
 正道はこの日も未晴の前でギターを奏でそのうえで歌も歌った。気付けば夜遅くまでそうしていた。晴美に言われてやっとそれに気付いたのである。
「あの、もう」
「時間ですか」
「そろそろ帰った方がいいわ」
 そう彼に告げるのだった。今も未晴の横にいてそこで奏で歌っていたのである。
「十時過ぎたし」
「もうそんなにですか」
「御家族だって心配するし」
 このことも言うのだった。
「だからね」
「わかりました」 
 ここで彼女の言葉に頷く正道だった。
「それじゃあ今日はこれで」
「有り難うね」
 ギターを収めはじめた正道に対して申し訳なさそうな顔で告げるのだった。
「いつも。来てくれて」
「いえ、いいです」
 だが彼はそれはいいというのである。
「俺も来たくて来てますから」
「だからなのね」
「はい、これで少しでもこいつに伝わって」
 未晴を見る。しかし彼女は相変わらず虚ろな目のまま何も語らない。何も変わってはいなかった。
「元に戻ればいいんですけれど」
「そうよね。本当に」
「それでですけれど」
 ここであらためて晴美に問う正道だった。既にギターはケースに収めている。
「身体の方は」
「骨折とかはまだ治るには時間がかかるわ」
 まず骨折等について話す晴美だった。暗い部屋の中に彼女の言葉が響く。
「酸素マスクはもう少しよ」
「そうですか」
「車椅子もまだ無理だけれど」
 ここで顔を俯けさせて述べるのだった。
「それでもね。治ってきているから」
「身体はですね」
「ええ。身体は少しずつね」
 治ってきているというのである、それだけはである。
「けれど。心は」
「そうですか。心はですか」
「動きもしないわ」
 首を空しく横に振っての言葉だった。
「全くね」
「そうですか」
「けれど」
 それでもと。さらに言いはしたのだった。
「私は信じてるから」
「こいつがまた起き上がることをですね」
「目だって動くようになるわ」
 晴美は娘の顔を見ながら言った。今は虚ろなままで全く動くことのない娘のその目を。
「絶対にね」
「ええ、そうですね」
 そして正道も彼女のその言葉に頷くのだった。
「きっと。また目も動きますよ」
「声だって出して」
「そうですね。きっと」
「心は必ず元に戻るから」
 何故娘が今こうなってしまっているかもよくわかっていた。むしろわかり過ぎるまでにわかっていて辛いのが今の晴美なのだ。
「だから。御願い」
「わかってます」
 静かに応えて頷く正道だった。
 
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