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ある晴れた日に

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488部分:歌に生き愛に生きその十


歌に生き愛に生きその十

「一回からこれじゃあな」
「ドラゴンズも容赦ねえな」
「そういう日もあるわよ」
 明日夢は実に苦しそうな顔でコメントした。
「たまにはね」
「まああえて言わないからな」
「今はベイスターズのこと忘れろ」
「そうしろ」
 巨人以外のチームには実に寛容な彼等であった。阪神ファンの美徳の一つであると言ってもいい。ただしあくまで巨人以外に、であるが。
「まあとにかく向こうの先発は内海か」
「負けろ負けろ」
「さっさと打たれろ」
 三塁側スタンドを見ながら言う彼等であった。
「それで阪神が優勝だ」
「胴上げしてもそれで終わりと思うなよ」
 誰もがその声に怨念めいたものを込めていた。見ればそれは一塁側全てであった。
「さて、そろそろだけれど」
「はじまりね」
「ああ、そろそろな」
「試合がはじまるよ」
「それじゃあ」
 見ればナインがグラウンドに出て来ていた。いよいよだった。
 そうして試合がはじまった。試合自体は彼等にとっては満足のいく流れだった。
「よっし!」
「兄貴見事!」
「上手くいってるわね!」
 皆金本がタイムリーを打ったところで喜びの声をあげた。
「そこで打ってこそ!」
「兄貴ね!」
「やるじゃない!」
「そうだよ。それが兄貴だよ」
 野本は我がことであるかの様に言うのだった。
「ここぞっていう時にこそ打ってな」
「しっかしよ、小笠原にラミレスって」
「グライシンガーもクルーンも」
 どれも巨人の選手である。
「金で巨人に入って」
「恥ずかしくないのかね」
「さあ」
「世の中金なんだろ?」
 巨人がよく言われることである。世の中が不況であっても何故か巨人だけは大金を積んで選手をかき集めることができていたのである。
 他にはこんな話もある。巨人ではないが庶民の為だの世の中は不況だの毎晩テレビで言っていたキャスターの一年の報酬が五億であった。少なくともこの男と不況は無縁であることは間違いない。マスコミという世界は不況を煽り市民を苦しめるが自分達は不況を知らないのだ。これこそが特権階級であろう。
「結局よ」
「へっ、今のうちだな」
 佐々が口を歪ませて言うのだった。
「驕る平家はってな」
「そうそう」
「何時までもあると思うな親と金」
 まさしくその通りの言葉であった。
「何時かお金がなくなって」
「後は転落だけ」
 実際にマスコミの広告収入は落ちそのうえ視聴率や発行部数も下がり続けている。これこそまさに栄枯盛衰である。彼等は認めようとしないが。
「巨人がずっと最下位だったらどれだけいいか」
「全く」
 そして一塁側全体で叫ぶ言葉は。
「地獄に落ちろジャイアンツ!」
「負けろ!負けろ!」
 こう叫んでいく。
「いいぞボロ負けジャイアンツ!」
「全敗ジャイアンツ!」
 中日の歌をもじられた歌さえ出て来た。まさに良識ある日本国民の声であった。巨人は日本人にとって正義ではない。倒すべき悪なのだから。
 その試合は阪神の勝利だった。巨人は見事敗れた。一行はそのことに機嫌をよくさせてそのうえで甲子園を後にしているのであった。
「さて、巨人に勝ったり」
「善き哉善き哉」
 上機嫌で話している。
 
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