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ある晴れた日に

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482部分:歌に生き愛に生きその四


歌に生き愛に生きその四

「きっと前にね」
「歩き出せるようになりますから」
「そうね。きっとね」
 半分は自分自身に向けてであった。今の晴美の言葉は。
「きっとなれるわね」
「ええ。きっとです」
「じゃあ私も」
 ここまで話を聞いて言う晴美であった。顔をあげていた。
「信じるわ。何があっても」
「こいつをですね」
「そして貴方も」 
 未晴だけではなかった。彼に対してもだった。実際に彼を見てその言葉を出したのである。
「何があっても信じるから」
「じゃあ俺は奏でます」
 正道も言うのだった。彼女の言葉を受けて。
「それでいいですよね」
「歌も歌ってね」
 しかし注文はしてきた。ささやかだがそれでも大きい質問であった。
「未晴歌も好きだから」
「そうですね。歌もですね」
「だから御願い」 
 あらためて正道に告げた言葉であった。
「それもね。歌もね」
「わかりました。それじゃあ」
 ここでライフが終わった。するとすぐに別の歌をはじめた。その歌は。
「確かその歌は」
「チェッカーズです」
 それであった。あの久留米から出て来た伝説のグループである。その穏やかな曲を奏ではじめたのである。
「夜明けのブレスですけれど」
「それを歌ってくれるのね」
「はい。これを」
 言いながらであった。早速歌う正道であった。テノールのその高い男の歌声を聞きながら晴美はまた娘を見た。泣いてはいなかった。祈るような目になっていた。
「未晴、きっとよ」
 その祈るような目で娘に対して告げている。
「きっと起き上がってね。きっとね」
 この日はそのまま歌った。次の日もまた次の日もだ。そうした日々を過ごしているうちにだ。春華がクラスで正道に対して尋ねてきたのである。
「なあ音無」
「その仇名で呼ぶな」
 まずはいつものやり取りからだった。しかし話される内容がいつものものではなかった。
「最近おめえさ」
「何だ?」
「ストリートミュージックやってるか?」
 こう彼に問うてきたのである。
「最近な。どうなんだよ」
「していない」
 これは彼の返答だった。
「最近はな」
「そりゃまた何でだよ」
「そういう気分じゃない」
 だからということにしたのだった。
「だからだ」
「気が乗らないっていうのかよ」
「そうだ。だからしない」
「気が乗らないっていうのはいいけれどよ」
 春華はそれはいいとした。しかしここでまた彼に対して言うのであった。
「けれどよ。ギターも奏でないとよ」
「何だ?」
「腕が落ちるぜ」
 このことを言うのであった。
「腕がよ。元々下手なのにそれ以上落ちてどうするんだよ」
「ギターはやっている」
 しかし彼はこう春華に対して返した。
「それはな。安心しろ」
「何処でやってるんだよ」
「それは言わない」
 実にぶしつけな返事だった。
 
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