魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第69話 過去語 二
どうやら、今回の相手は強かったらしい。
「……矢張り、戦闘前の言葉は所詮、餓鬼の戯言でしたか」
「……ぁ、っ……はぁ……っるさい……」
もう弾は残っていない。
ヤクザ共の武器も使い尽くした。
勝てない。
「わたしは……まだやれ、る……まだ……まだっ……‼︎ 魔法をつかえば……おまえなん、か……すぐっ……に……‼︎‼︎」
「おお、怖い怖い。あれだけ痛めつけたのに、まだそうやって戯言を言い続けるなんて、流石はマフィアの研究所を見事に破壊する程度の力を持つ餓鬼ですね」
今まで何度も何度も鳩尾を蹴られたり、骨を折られたりしたが、それとは比べ物にならない程の衝撃。
ガツンとハンマーで殴られた様な頭痛に、目の前が真っ白になる。
「……え…………? なんで、知って……」
「そうそう、自己紹介がまだでしたね。私、マギアの幹部の者です」
「は…………」
“マギア”。
私を作った組織。
私を魔法の実験体に使った組織。
マフィアの敵。
滅ぼすべき、敵。
「貴女の制作者である真希が貴女を連れ戻せとのことですので、遥々日本まで来てやったんです。ほら、早く行きますよ」
「は……ちょ、待って……なんで……だって、アンタは警察じゃ」
「警察は私の隠れ蓑に過ぎません。と言うか、私は諜報員ですから」
「…………え?」
だが、マフィアでは到底手が届かない。
マギアは表社会の人間も、裏社会の人間も含めて、全ての人間を操るだけの力がある。
———私一人じゃ、とても叶いっこない。
「さぁ、“マキ”が怒る前に帰りますよ……」
「そんなの、真っ平御免だっつーの。ばーか」
相手が敵対する組織の人間だと分かれば、もう容赦はしない。
「———“消滅”」
私が考えた魔法の中で、唯一マフィアにバレなかったモノ。
———よく見ろマギア。これが、お前らをぶっ壊す魔法だ。
偽警察野郎が赤黒い膜に覆われて、姿が見えなくなった瞬間、私はまた走り出した。
◇ ◇ ◇
「あ……ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
「うるせぇ、ぶっ殺すぞ‼︎」
「すすすす、すみませんッ‼︎‼︎」
一時間程走って、マフィア時代、何度も世話になった萬屋の店に逃げこむ。
全身血塗れの女が店の中に入ってきたと言うことで店主は絶叫。男のクセに情けない。
「こちとらマフィアと偽ポリ公に追われてんだよ、静かにしろ‼︎」
「……あの……以前お会いした時とすごーく印象が変わった様子ですが……?」
「マフィアは抜けた! 一年前に‼︎」
「え⁉︎」
「んで、一週間くらい前に研究所ぶっ壊した‼︎」
「えぇ⁉︎」
「だから、何時迄もマフィアでの色々を引き摺っていたくないから敬語も、マフィアでの意識も、全部やめッ‼︎」
「……はぁ……?」
「なのに全然残ってるからこうして依頼しに来たの‼︎ あと私の逃亡計画を練ってもらうため‼︎ 出来なきゃ殺すッ‼︎‼︎」
「えぇぇぇええええええ……? そりゃ、ちょっと厳しすぎやしませんかね……」
「あ゛? じゃあ今すぐぶっ殺してやっからこっち来いよ」
「すみません早急にやらせていただきますのでお命だけは……‼︎‼︎」
驚いたり謝ったり忙しい男。
今は床で綺麗な土下座を披露している。
『———琴葉、逃げろ!』
『———琴葉ちゃん‼︎ 私たちの分も、琴葉ちゃんが……琴葉ちゃんが生き、』
———あれ。あの二人は、もしかして……
「———やっぱやめた。今言った話、やっぱり全部なし」
「……え?」
「だって私と関わると、最終的にみんな死ぬでしょ?」
———否、もしかしてじゃない。
私の友達は私の所為で殺された。
「じゃあね、萬屋。今までの迷惑料ってことで、これからも金は用意してあげる。だから、もう」
そこまで言った瞬間、ドンドンドンと扉が強く叩かれた。
もしかして、もう追手が来て……
「お客さん! 奥でタオルとか着替えを探して、適当に待っててください!」
「え、ちょ……」
店主に押され、店の奥へと突っ込まれる。取り敢えず階段があって、上の方が開けた空間になっているっぽいので、急いで階段を上る。
階段を上った先は三つの扉がある廊下。取り敢えず何処でもいいやと言う事で、近くにあった扉を開け、中に入る。
「……わ、汚な……」
此処は恐らく、店主の部屋だろう。此処の店主、前からギャンブル癖が凄いと聞く。ギャンブラーらしいズボラな性格が部屋にも出ている。
取り敢えず、髪や顔についた血を落とすためのタオルと着替え。
成人男性の服が十五歳女子の体に合うわけがないが、取り敢えず黒いシャツとハーフパンツを拾う。本当に、これが洗濯済みである事を願う。
あとタオル。出来ればお風呂に入って全部血を流したかったが、そんな余裕は無い。タオルを濡らして、体に染み付いた赤をとる。
さてと、来訪者は誰だ……?
「……そろそろ借金を返してくれないと困るんですけど? 君月さん」
「すいませんすいません‼︎ 一週間くらいあれば用意できると思うんですけどぉ……」
「それ、先週も言ってたよね? 先々週も」
借金取りかよ。ビビらせんじゃねぇよぶっ殺すぞ。
大きく溜息を吐いてから、階段を下りて、店に入る。勿論、借金取りに来た奴も、店主も驚いた顔でこっちを見る訳で。
「こんにちは〜! 義兄さんに何か用ですか?」
「え、あぁ……キミの義兄さん、ウチでお金を借りて、返してくれないワケ。どうしてくれるのさ?」
「嗚呼、そうでしたか! なら、この紙にお好きな金額書いてください!」
「え……これ、小切手だけど?」
「はい! だから、お好きな金額書いてくださいって!」
「……えぇぇぇえええええ?」
全部、マフィアで稼いだ金から引かれるだけ。別に、一億くらい持っていかれたってどうってことない。
店主が借りていたのは一千万だったらしい。借金取りは小切手に数字を記入し、去っていった。
「……これだからギャンブラーは」
「ずみばぜんでじた」
「話を戻すけど、これからも金は用意してあげる。だけど、こうやって直接顔を合わすのは今日が最後ね。じゃあ、バイバイ」
私もその後に続いて、すぐに去———
「ちょ、ちょっと待てっ‼︎‼︎」
「んに゛ゃっ⁉︎」
ろうとしたら、首根っこを掴まれ、尻餅をついた。
「おま、っ、えぇ⁉︎ 服なら後で返すって……」
「服は貰っていけばいい‼︎ だけど、ウチに来なくなるのはヤダ‼︎‼︎」
いきなり店主が叫び始める。恐らく、もう五年以上仕事を任せて居た筈だが、一度も無かったはず。
「“ヤダ”……? 客が減るって意味なら電話で依頼は続けるけど……」
「“みんな死ぬでしょ”ってなんだよ‼︎ そんな意味分からないこと気にしてんじゃねえ! 俺は死なねえし‼︎‼︎」
「んなこと言ったって死ときゃ死ぬんだよ‼︎」
「俺は死なねえ‼︎」
「死ぬわ‼︎」
「死なねえ‼︎」
「死ぬわ‼︎」
「死ぬわ‼︎」
「死なねえ‼︎ ……あ」
「って事で、お客さん! これから、毎日此処に帰ってきてくださいね! マフィアから抜け出したんだったら家が無いですよね。だったら、今使ってない部屋があるので使ってください。これ、絶対ですよ‼︎‼︎」
「はぁ……?」
「今日は好きにしてくださって結構ですけど、取り敢えず夜には戻ってきてください‼︎ 絶対ですよ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
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