魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第70話 過去語 三
はぁぁああああああああふざけんなよ。
だっておかしいでしょ。
なんで萬屋でギャンブラーの男と二人暮らしとか。
まじふざけんなよ。
「……あー、“喧嘩すんな”って言われたって、突っかかってくるのは向こうなんだよ……」
約束なんて全部ナシ。
あの時の言葉は全部ウソ。
そう思いながら外へ出たのだが、直ぐに店主の野郎に携帯を持たされてしまった。
普通なら直ぐにぶっ壊してバイバイなのだが、「これ、一台しかないから‼︎ なけなしの金叩いて買ったやつだから‼︎ お願いだから壊さないでください⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎ お得意様の番号も入ってるんです‼︎」と言われながら、土下座までされたら……もう、壊すわけにはいかない。
めんどくさい。
加え、携帯を渡されただけでなく、「喧嘩はしないこと‼︎ 路地裏を通らないこと‼︎ 暗い道に行かないこと‼︎」などの“お約束”を言い渡された。
小学生か。
……帰ったら絶対ぶっ殺す。
「———この辺りで、マフィアの黒華琴葉見ませんでした?」
……マズイ、マフィアの構成員か。
今構成員が居るのは恐らく二メートル先に行ったところにある路地裏。普通に歩いていったら、普通に気付かれる。
流石に、この黒髪黒目の変装じゃ、誤魔化しに限界があるよな。
店主に借りたパーカーのフードを被って、髪と目の色を考える。店主と同じ赤と黄色でも良いのだが、あんな面倒臭いのとお揃いなんてヤダ。
数秒迷った後に、魔法を遣って髪を白く、目を灰色にする。なんとなく、その組み合わせが頭に浮かんだのだ。
そして、そのままフードを被ったまま、マフィアの構成員がチンピラに目撃情報を求めている路地裏を通り過ぎる。十秒程そのまま歩き続けた後に一度振り返ってみるが、誰かが追ってきそうな雰囲気は無い。どうやら無事に切り抜けられたようだ。
久し振りに滅茶苦茶緊張した……
「……ハッ。マフィアのクソ犬共に緊張するとか……私も、廃れたモンだなぁ……」
自嘲気味に呟いた言葉。それは目の前に見えてきた大通りの賑やかな声に掻き消されて消えていく。
———私の存在も、声と共に掻き消してはくれないだろうか。
◇ ◇ ◇
萬屋を出て六時間以上も歩いたのだろうか。辺りは静かな闇に包まれていた。
こんな無計画に外を出歩くなんて、人生初体験かもしれない。
後ろを振り返ると、そこにあるのは普通のアスファルト。いつか見た、赤い道じゃない。
手には数着の服が入った紙袋。自分で選んで、買ったもの。
今日は、色々初体験をしたなぁ……
と、漸く萬屋のぼろっぼろな店が見えてきた所で、私は足を止めた。
———店の前にスーツを着た男が、何十人も居る。
借金取りか……? でも、そんな大人数で押し掛ける訳……昼間に一人対処したばかりじゃないか。
このままあの集団の中に突っ込んでいっても良いのだが、万が一を考えて透明化と暗視の魔法を掛ける。そして、近くの林の中を通って、萬屋の近くまで行く。
「……店主……と喋ってるの、誰……あれ……?」
店主は店の外に出て、男共のリーダーらしきヤツと喋って居る様だ。男共に囲まれて喋っているので、あのビビり店主は後で泣きついてくるに違いない。めんどくさ。
まぁそれは置いておいて、取り敢えず……ミエナイ、キコエナイ‼︎‼︎
盗見系、盗聴系の魔法全掛けでもう一度店主の方を見る。
『だぁかぁら、黒華については……あ、れ……? ……あ、知らないって!』
ん……? 何か、今おかしな反応を……ま、ビビり店主だし、しょうがないか。
『……そうですか、分かりました。では』
……折角魔法を遣ったのに、直ぐに終わりやがって。
男共はぞろぞろと帰って行く。
…………あれ、一番後ろに居る、さっき店主と喋っていたやつ……もしかして……
— パキッ
……しまっ……⁉︎
幾ら透明化したとしても、体は存在する。だからボタンも押せるし、枝も踏める。
———オワッタ。
店主と話していた奴が音に気づいたらしく、此方へ近づいてくる。
此処で思いっきり逃げた方が良いとは思うが、一応この場所に留まってみる。
———これで私に気付いたら、“奴等”の魔法研究が何処まで進んでいるのかが分かるから。
「あれ、確かこの辺だった気が……」
見覚えのある顔。聞き覚えのある声。
間違いない。此奴はマギア幹部の偽ポリ公。
「気の所為でしたかね……?」
……気付いてない。
今は木陰で小さくなって座って居るのだが、気付かれていないっぽい。
マギアの魔法研究も、やっぱり大したことな———
「ね? 琴葉さん」
前言撤回。
マギアの魔法研究は相当なものだ。
偽ポリ公は、私の透明化を見破った。それに加え、正体まで見破った。
恐らくこの偽ポリ公の目には、“黒髪黒目の”黒華琴葉が、木陰でしゃがみこんでいる様に見えている。
それに、偽ポリ公は私が殺した筈だ。“消滅”の魔法に因って。
しっかりと自分の目で、奴が魔法に呑み込まれていくのも見た。
———相当な魔法の遣い手。
「魔法で幾ら姿を隠しても、私には無駄ですよ」
「……今度こそ、殺す」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。生き返る術があるとは言え、死ぬのは御免です。“魔法遣い”としての貴女が強い事は十分に分かりました。なので、此処で抵抗する貴女を無理矢理連れて行くことは避けたいのですが……」
パッと目の前から偽ポリ公の姿が消える。
そして、偽ポリ公が自分の死角に転移した事に気付いた時には、体を持ち上げられ、布で口を押さえられていた。
「ん゛ンッ……‼︎‼︎」
「やれやれ、相当強いクスリを選んだ筈なんですけどね……」
「ンッ……‼︎‼︎」
「こら、暴れるな……‼︎ と言っても……もう終わりなんですけどね」
段々と意識が薄れていく。マズイ……此処で寝ちゃだめ……
「ぁ……あ……」
そして、目の前が真っ暗になった。
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