ある晴れた日に
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314部分:その日からその十
その日からその十
「ここでぐっとな、おい音橋」
勝手に彼に声をかけている。
「手を強く握ってそれからな」
「下手なことしたらね」
静華の右手が拳になっていた。
「その時点で突入して急所攻撃だから」
「だから御前それは止めろよ」
「それだけはよ」
こんな調子で貼り付き続けている。そんな一同を他の乗員達は思いきり顔を顰めさせて見ていた。そのあまりものマナーの酷さに遂にやたらと人相の悪いスキンヘッドのおっさんが注意してきた。
「なあ兄ちゃん等」
見ればアロハシャツがよく似合っていて首を右に傾げた動作もぴったりである。
「ちょっとは電車のマナー守ったらどないや?」
「あれっ、電車の中に蛸がいるぞ」
「何でよ」
彼等は二人を見るのに夢中なあまりこのおっさんを見るのをおろそかにしてしまっていた。
「水族館から逃げ出してきたのかしら」
「いや、魚屋じゃねえのか?」
「なあ、兄ちゃんに姉ちゃん等その言葉何や?」
おっさんは速攻で切れていた。こめかみがピクピクとしている。
「わしはあんた等注意しとるんや。何やったらいわすぞ」
「いわすぞってまさかこの蛸って」
「あっちの筋の人?」
「アホ、わしは警官や」
何とそうであったのだ。彼は警官だったのだ。
「兵庫県警の刑事や。覚えとかんかい」
「えっ、お巡りさん!?」
「ヤクザ屋さんじゃなくて?」
「わしの何処がヤクザに見えるんじゃ」
思いきりガラの悪い言葉で一同に言い返す。
「れっきとした公僕や。覚えとかんかい」
「全然そうは見えないけれど」6
「っていうか何でお巡りさんがここに?」
「最近電車の中も危ないからな」
その刑事は腰に両手を当てて述べた。
「そやからこうして時々乗って見回ってるわけや」
「そうだったんだ。警察官も大変だな」
「そうね」
「わかったら大人しくしとくんや」
刑事は厳しい声で一同に告げた。
「ええな。今度変なことしたらホンマに警察にしょっぴくぞ」
「俺達そんな悪いことしたか?」
「してないわよね」
「御前等ホンマのアホやろ」
刑事は顔を見合わせて言い合いだした彼等にまた言ってきた。
「冗談とホンマの区別もつかんのかい」
「っていうか今の言葉下手したら脅しになって」
「マスコミに知れたら。ねえ」
「だからや。警察の決まり文句やろが」
この刑事も割かし乗りがいいようである。
「わしが言ってるのはや」
「何だ、そうなんだ」
「驚いてがっかりしたぜ」
「わかったら大人しくしとくんや」
とりあえず話はこれでまとめようとしてきた刑事だった。
「わかったな」
「はあい。っていうか」
「俺達マナーの悪い小学生みてえだな」
「それを厳しく教えるのがわし等大人や」
刑事はまだ彼等に言うのだった。
「ほら、わかったら席にきちんと座るんや」
「ちぇっ、折角どうなるか楽しみだったのに」
「残念無念」
しかし警察官の言葉には逆らえず彼等も大人しく席に座った。しかしそれでもずっと二人の方を見て様子を伺い続けるのだった。
刑事も何処かに行っていた。しかしそれでも席には座り続けている。また見つかってしまったら厄介なことになってしまうことがわかっているからだ。
「何か電車の中じゃ大人しいな」
「そうね」
見ながらまた言い合う彼等だった。
「電車の中でももっといちゃいちゃすればいいのにね」
「そうよね」
明日夢と凛はここでも隣同士だった。そのうえで話していた。
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