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ある晴れた日に

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311部分:その日からその七


その日からその七

「ベイスターズの帽子よ。どうよ」
「どうよって言われても」
 明日夢の口が波線の形に歪んできていた。
「あの帽子が最高じゃない。違うの?」
「同意求められてもよ」
「なあ」
 野茂も坂上もそれにはどうしても答えられなかった。
「阪神なら最高なんだけれどな」
「なあ」
「まあ阪神も悪くないわね」
 彼女も阪神の帽子は認めていた。
「あれもね」
「あれもっていうかあれしかねえだろ」
「そうだよ」
 男組は全員阪神支持であった。
「帽子っていったらあの縦縞のな」
「黒と白でな」
「私はあの青のだけれど」
 恵美はぽつりと言った。
「今のも西鉄のそれを思い出していいけれどね」
「懐かしいな、おい」
「そこまで遡るか」
 男組は恵美のライオンズに対する造詣の深さに感服していた。
「私はオレンジのあれが一番よかったわ」
「ああ、あれね」
 明日夢は茜の言葉にうんうん、と笑顔で頷いていた。
「あのオレンジの帽子ね。あれもいいわよね」
「最近のもいいけれどね。メジャーリーグみたいで」
 茜の趣味も結構広いようである。
「けれどオレンジのあれがやっぱりよかったわね」
「大沢親分の時代だよな」
 佐々はこれまたかなり昔のことを言っていた。
「また古いよな」
「あの時代のユニフォームって結構いいんだよな」
 坪本も話に乗ってきていた。
「近鉄のあれなんか凄いよかったよな」
「僕あの頃の近鉄の帽子持ってるよ」 
 竹山はここでぽつりと言った。
「あの三色のね」
「へっ、いいの持ってるじゃねえかよ」
 野本はその彼の横で口を歪ませてコーラを飲んでいる。
「俺あれずっと欲しいと思ってんだけれどな」
「そういえばあんたあの帽子似合いそうね」
 茜はその野本を見てふと気付いたのだった。
「あの三色の。確かにね」
「オークションとかでもプレミアだったか?」
 野本はこのことも思い出していた。
「あの帽子よ。サイン付きだとな」
「プレミアかよ、おい」
「西本幸雄さんのサイン付きだとな」
 その人のサインだと、であった。
「もう凄いな、あれはな」
「何かそれ欲しいな」
「そうだな」
 皆その話を聞いて言い合うのだった。
「あの帽子確かにセンスいいしな」
「欲しいよな、本当に」
「じゃあ巨人の帽子は?」
 恵美は狙っていたかのようにこのチームの名前を出してみせた。
「欲しい?」
「貰ったら即ゴミ箱行きな」
「っていうかそんな汚らわしいものすぐに燃やしてやるさ」
「絶対いらねえ」
 やはりこうであった。これは全員だった。
「あんな不吉なもんな」
「触るだけでも汚らわしいな」
「そうよね。あっ、遂によ」
 ここでまた声をあげる茜だった。当然その手には携帯がある。それに届いているメールを見ながらまた皆に話すのだった。
 
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