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ある晴れた日に

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304部分:空と海その三十七


空と海その三十七

「本当にね。ちょっとしたことで」
「中学校の時何があったんだ?」
 正道はそのこと自体について問う。
「それで。何があったんだ?」
「咲がね。慶彦さんと喧嘩したのよ」
「その例の彼氏とかよ」
「理由は忘れたけれど。大したことじゃなかった筈よ」
 つまり理由も覚えていない程詰まらない理由だったのである。
「理由自体はね」
「そんなはじまりだったのか」
「けれど。喧嘩自体は物凄くて」
 理由は下らなくとも喧嘩は派手になるものだ。時として戦争もそうであるが下らない理由から途方もない騒ぎにまで至ってしまうのである。
「もう咲連日大泣きだったのよ」
「まずはあいつがか」
「それを皆聞いてね。どうしようこうしようってなって」
「その時にかよ」
「そう。皆咲の為に必死になってあれこれ動いて考えて」
 学生時代にはなきにしもあらずの話である。
「どうしようこうしようってなって」
「それで話は終わったんだな」
「話は終わったけれど」
 それでもなのだった。
「その時にわかったの。皆咲のこと細かいことまで考えて慶彦さんも傷付けないようにって注意して考えてそれで話を解決させて」
「色々と大変だったんだな」
「無神経だったら。絶対話は終わらなかったわ」
 未晴はまだその時のことを見ていた。
「絶対にね」
「そんな大層な話だったのか」
「今思うと大した話じゃなかったけれど」 
 振り返ってみると些細なことだったということもまたよくあることだ。その時はわからなくとも後になってわかる。これもまた人生である。
「その時はね。わからなかったわ」
「それで他のことがわかったんだな」
「ええ」
 結論としてはそうであった。
「わかったわ。皆のことが一層ね」
「そんなものか。後になってわかるか」
「それまでただ気の友達って思ってたの」
 本当にそれだけなのだった。
「けれど。お互いにそういうのも見てわかったのよ」
「そういうことか」
「そういうことよ。だから皆は」
 その五人のことである。
「女の子よ。誰が何て言っても」
「いい友達なんだな」
 正道は空を少しだけ見上げていた。
「あいつ等。おたくにとってもお互いにとっても」
「そうよ。だからあまり悪く言わないで」
 それもまた未晴にとってはよく思えないことであった。
「悪気はないのはわかっているけれど」
「悪気はないさ」
 それは正道自身もそうだった。
「悪気はな。ただな」
「言いたくなるのね」
「言いたくなるとそうでない奴がいるだろ?」
 これはクラス全員に言えることだった。彼等のクラスは本当にお互いかなり言いやすい。それは正道も入れてのことである。無論未晴もだ。
「だから言ってるんだけれどな」
「それでも。誤解はしないでね」
「ああ、わかったよ」
 未晴の言葉に対して頷いてそのうえでまた述べた。
「人は見掛けによらないんだな」
「内面も幾つもあるのよ」
 人の顔は一つではない。そういうことだ。
「だから。それはね」
「わかったよ」
 その未晴の言葉に対して頷いたのだった。
「まだ信じられないけれどな」
「そのうちわかってもらえるかしら。それでね」
 未晴はここまで話していいと判断して話を変えてきた。
「今度だけれど」
「今度は二人で何処かに行こうか」
「そうね。それがいいわね」
 正道の提案に静かに微笑んでみせての言葉だった。
「何処がいいかしら」
「そうだよな。遊園地でも行くか?」
 彼はふとそこに行くことを考えたのだった。
「あそこなら結構遊べるしな」
「遊園地ね」
「ああ。テーマパーク八条」
 言うまでもなく八条グループが経営しているテーマパークである。日本でも有数の巨大で色々な施設のある遊園地である。
「あそこならどうだ?」
「いいわね」
 テーマパーク八条と聞いて微笑む未晴だった。
「そういえば私最近あの遊園地行ってないし」
「俺も小学校の卒業記念に行ったっきりだったな」
「私は中学の卒業と高校合格を兼ねて」
 その時に行ったのだという。
「それで行ったんだけれど」
「またあのメンバーでかよ」
「まあね」
 それには少し照れ臭そうになる。
「六人でだけれど」
「やっぱりその面子か」
「そうなの。その時以来ね」
 そのことを思い出しながら話すのだった。
「行くとなったら」
「そうか。じゃあ行くか」
「ええ。二人でね」
 こうして話は決まった。話は決まってそのうえで今日はこれから公演で歌うのだった。正道はケースからギターを出してそのうえで演奏をはじめようとしていた。
「じゃあバラードな」
「ええ、御願い」
 正道と未晴は笑顔でベンチに並んで座り音楽を楽しんだ。そうして今は二人の時間を過ごすのだった。二人静かに並んで夕闇の中で。


空と海   完


               2009・5・7
 
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