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ある晴れた日に

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303部分:空と海その三十六


空と海その三十六

「あいつがチューブだのどうたら言うからな」
「春華ってチューブも好きだから」
「だからか。それでか」
「そうなのよ。悪気はないから気にしないでね」
「あれで悪気があったらどうしようもないな」
 やはり言葉はきつい。
「口は悪いしな」
「それで実は家事が得意だって言われたら?」
「まず信用しねえ」
 実際にそう思っているのだった。
「それはな」
「だからあれで家事とかお料理とか好きなのよ」
「マジか」
 強張った顔で未晴に問い返す。
「あいつがか」
「皆そうよ」
 そしてそれは春華だけではないのだった。
「咲は将来お菓子屋さんの奥さんになるから今からお菓子作りしてるけれど」
「あいつはか」
「他の娘も皆そうなのよ。あれで家事とか得意なのよ」
「料理もするのか」
「切り方とか味付けも覚えてるわよね」
「ああ、そういえば」
 今日の焼きそばの野菜を切ったのは彼女達であるのだ。実は。
「今日の焼きそばも春のカレーもな」
「よかったでしょ、切り方とか」
「本当は女の子らしいのか」
「だから女の子よ」
 未晴はそこを強調する。
「女の子なのよ、皆ね」
「あんなのでもか」
「少し見ただけじゃわからないの?」
「もう四ヶ月付き合ってるけれどまだわからないんだがな」
 正道の言葉も容赦がない。
「実際のところな」
「実は違うから」
 未晴はそこをまた強調する。
「繊細だから。本当に」
「繊細か」
「そういうことってわかりにくいのよ」
 未晴はこのことを何度も語るつもりだったし実際に語っていた。
「何年も付き合ってもわからない場合もあるしね」
「何年もか」
「そうよ。何年も」
 このこともまた言うのだった。
「一緒にいてもわからなかったし」
「おたくもか?」
 正道は彼女の言葉を聞いているうちに不意に思ったのだった。
「おたくも。やっぱり気付かなかったのか」
「そうなの。五人共物凄く繊細だって」
 そのことを申し訳なさそうに語るのだった。
「気付かなかったわ。暫くね」
「そうか?気付いていたんじゃないのか?」
 正道はこの時は五人の言葉を思い出して言うのだった。五人はいつも自分達の最大の理解者は未晴だと口を揃えて言っているからだ。
「実際のところは」
「いえ、気付いてなかったわ」
 しかし未晴はこう言うのだった。
「それはね。全然ね」
「そうだったのかよ」
「気付いたのは。中学校になってからかしら」
 その時点でもう八年以上は付き合っているのだからやはり深い関係である。最早ただの友達とは言えないまでの関係になっているのだ。
「それにね」
「そうなのか」
「ええ。その時になるまでわからなかったの」
 昔を思い出すように前を向いて正道に語っている。
「皆が本当に繊細で女の子らしいって」
「それで何でそれがわかったんだ?」
「些細なことだったの」
 このことも語りはじめた。
 
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