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ある晴れた日に

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302部分:空と海その三十五


空と海その三十五

「そのつもりだけれど」
「いや、わかってくれている」
 このことがよくわかるのだった。
「おたくはな。わかってくれている」
「そう。だったらいいけれど」
「嬉しいさ。やっぱりな」
 そしてまた言うのだった。
「それがな」
「そう。よかったわ」
「ああ。それで今日はこれからどうする?」
「今日?」
「そうだよ。まだ遊ぶか?」
 こう尋ねるのだった。未晴に対して。
「遊ぶんなら付き合うぜ」
「お酒は飲んだし」
 それはもう満足だというのだ。
「景色も見たし。皆とも明るく遊んだし」
「いいこと尽くめだったな」
「楽しいことはあらかたしたわね」
「歌も聴けたしか?」
 自分が歌ったあの歌のことなのは言うまもでもない。
「それもな」
「あっ、それは満足していないわ」
 しかしここで思い出したように言う未晴だった。
「それはね」
「満足してないって?」
「話聞いたら聴きたくなったわ」
 少し微笑んで正道に言うのだった。
「少しね。いいかしら」
「ああ、いいさ」
 彼もそれに頷くのだった。未晴のその言葉に。
「それじゃあ。ちょっとしたら行くか」
「ちょっとって?」
「一応何時でも何処でも歌えるんだよ」
 正道は言った。
「そういう心構えはしてるのさ」
「何時でも何処でも。そうね」
「ああ。ストリートミュージシャンだからな」
 いつも路上で歌っている。それならば当然であった。
「歌えるさ。じゃあ何処で歌う?」
「ちょっとそこに公園があるけれど」
 未晴はそっと右手を指差したのだった。
「そっちにね。どう?」
「そうだな。じゃあその公園の中でな」
「ベンチもあったから」
 正道にとっては都合のいい話であった。
「そこに座ってね。聴かせてね」
「ああ。曲は何がいいんだ?」
「それは任せるわ」
 また微笑んで出した言葉だった。
「音橋君にね」
「そうか。だったらバラードにするか」
「バラードなの」
「夕方だからな」
 時間を考慮しての言葉だった。
「だからな。バラードがいいな」
「夕方はバラードなの」
「そういう気分にならないか?」
 そして未晴にこんなふうに尋ねるのだった。
「夕方はな」
「そうね。何か一日の終わりになって時間が過ぎていって」
「そういう気分になるな。そうだよな」
「ええ。言われてみれば私も」
 未晴にしてもそれは同じなのだった。
「夕方は。どうしても静かな気持ちになるから」
「だからさ。じゃあバラードでいいよな」
「ええ。それを御願いするわ」
 微笑んで正道にも答える。
「それでね」
「わかったさ。それにしてもあの時は」
「海でのことね」
「ああ。あの時は何か歌うのでもやたらと揉めたな」
「そうだったかしら」
「伊藤のせいか?」
 どうしても春華が話に出てしまうようである。
 
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