ある晴れた日に
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291部分:空と海その二十四
空と海その二十四
「全く。少年もちゃっかりしてるっていうか」
「しっかりしてる?」
「最後の最後で自分のお店のこと入れるんだから」
「別にいいじゃない」
しかし当の明日夢は平気なものであった。そのまま平然とボールを見上げて追いながら女組のその言葉に対して応えるのだった。
「私だってこれで生きてるんだし」
「お家がお店だからね」
「お店の売り上げがそのままお小遣いに直結するの」
こんなことも言うのだった。
「もうね。そのままね」
「シビアね。それって」
「厳しいのね、結構」
「私の家もよ」
恵美も同じだというのである。
「喫茶店のお客さん次第でね。お小遣いが増えたり減ったりするわ」
「おい、じゃああれか?」
佐々は二人の話を聞いて驚いたように言ってきた。
「売り上げがよかったら小遣いかなり多いよな」
「まあね」
「その通りよ」
二人もそれはその通りだと言うのだった。
「けれど。悪かったら悲惨よ」
「流石に貰えないってことはないけれどね」
二人の表情は佐々のそれとは逆にシビアなものであった。
「けれど。少ない時もあるから」
「厄介ではあるわよ」
「けれどよ。多い時は天国じゃねえかよ」
佐々はあくまでポジティブであった。ただ単に話をわかっていないだけかも知れないが。それでも多い時のことばかりを考えているのであった。
「いいよな、それってよ」
「あんた月のお小遣い幾ら?」
「三千円か?」
静華に応えて述べるのだった。述べながらレシーブで自分のところに来たボールを打ち返す。見事な動きでそれをしたのであった。
「あと一日のバイト料で千円な」
「結構貰ってない?」
「年中無休のお店だから月三万三千?」
単純な計算だがそうなるのだった。
「やっぱり多いよな」
「ねえ」
皆で言い合う。しかしそれでも佐々は不満そうであった。
「けれどよ。毎日十時まで働いてそれだけだぜ」
「だと少ない?」
「そうかも」
彼は彼で大変なのだった。
「まあよ。飯は食い放題で飲み放題だけれどな」
「やっぱりよかね?」
「そうよね」
皆の意見は面白いまでに変わる。竹山がそんなやり取りを見てぽつりと述べた。
「何かドラえもんでネッシーの話の時の皆の意見みたいだね」
「それどういう意味だよ」
「滅茶苦茶移り変わってるってこと」
そういうことであった。
「実際かなり移り変わってるじゃない、意見が」
「そういやそうか」
今の佐々の言葉に対する反応はまさにその通りだった。野本も中にいてそれを実感するのだった。
「聞いていればな」
「まあ多いか少ないかはわからないけれど」
そして竹山もまた言うのだった。
「とりあえず。皆お金稼ぐの頑張ってるんだね」
「一応ボクシング部のマネージャーもしながらね」
「御前そっちも続けてるんだな」
「こっちはあまり出て来れないけれど」
当然ながら家の仕事の方が大変だからである。
「それでもやることはしっかりやってるつもりよ」
「ならいいけれどな」
「それでな」
皆それを聞いて納得はした。
「とにかくお仕事は大事だから」
「そうなのよね」
明日夢も恵美もこの辺りは本当にシビアであった。
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