ある晴れた日に
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282部分:空と海その十五
空と海その十五
「王さん取らないでね。いいわね」
「別に。取らないけれど」
明日夢はその真剣になっている咲の言葉に少し引いていたがそれでも言葉を返した。
「ベイスターズの選手じゃないし」
「一は。まあいいわ」
それは許すといった感じだった。
「何処のチームにもあるしね」
「っていうか秋山さんって」
恵美がふと気付いたように話に入ってきた。
「あれじゃないの?元は西武じゃない」
「ソフトバンクって南海時代から結構秋山さんに打たれてなかった?」
「だよな、確か」
「それも相当な。守備でも足でもな」
皆そのことに気付いた。現役時代の秋山のこともよく知っているのだった。
「で、何でそんなにこだわるんだよ、秋山さんに」
「かつての宿敵だったのによ」
「昨日の敵は今日の味方よ」
しかし咲は皆に対して胸を張って堂々と宣言した。
「だからいいのよ」
「何か凄い強引っていうか」
「まあ言われてみればそうだけれど」
「じゃあ小久保なんかは?」
「憎むべき読売帝国主義よ」
咲の言葉はさながら北朝鮮になっていた。右手を拳にして振りかざしてさえいる。
「取り戻してよかったわよ」
「あの強奪はなかったからね」
「酷過ぎたよな、確かにな」
「巨人許すまじ」
本当に心から巨人が嫌いな一同であった。彼等にとって巨人はまさに悪である。やはり関西ではどうしてもそうなってしまうのである。
「まあとにかくよ。秋山さんはホークスの秋山さんなのよ」
「じゃあうちはどうなるのかしら」
恵美は何か置いていかれたように思い首を右に捻っていた。
「それこそ黄金時代のメンバーなんてあらかた出たから」
「二十二番は?」
「あの人は。もう」
西武での二十二番も主張できないのだった。
「阪神でしょ、やっぱり」
「ああ、田淵さんな」
「阪神で二十二っていったらやっぱりな」
「だからそれも主張できないのよ」
どうしても西武の田淵と言えない。本人からして自分は阪神の人間だと思っているからこればかりはどうしようもないのだった。
「あと五番とか四十七番も」
「全部出たのよね」
「そう、皆」
茜に憮然としだして答える。
「皆奇麗なまでにいなくなったから。久信さんが戻ってくれただけでも嬉しいわ」
「何かそれ考えたら阪神って恵まれてるよな」
「なあ」
大多数の阪神ファンの面々はあらためて自分達の幸福を噛み締めることになっていた。
「永久欠番もあるしな」
「そこまで考えたらな」
「かなりね」
「恵まれてるか、阪神は」
「十一なんてどうかしら」
静華は能天気なまでに明るい顔で皆に話してきた。
「この番号。最高によくない?」
「っていうかその番号はもうな」
「神だよな」
「ねえ」
皆その静華の言葉に頷く。
「その番号になるとな」
「本当に神様の番号だよ」
「十一番もう復活しないのよね」
凛はこのことがかなり寂しそうだった。
「あの人だけだから」
「だよな。惜しいことだけれどな」
「仕方ないよな」
皆しんみりとしだす。しかしここで話が終わったと見た正道が早速ギターを奏でだした。そうして序奏の後で歌いはじめたのである。
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