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ある晴れた日に

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265部分:その吹く風その二十二


その吹く風その二十二

「どちらもな。かけがえのないものだよな」
「私がかけがえのないものなのね」
「そうなったさ。じゃあ明日もな」
「ここに来るの?」
「他の場所もおいおい回っていってな」
 それだけではないと言うがここは外せないとも言った。
「けれど明日は」
「ここね」
「ああ。それでいいよな」
「ええ」
 正道の今の言葉ににこりと笑ってこくりと頷いた。
「それじゃあ明日も」
「これからもな」
「そうね。・・・・・・あっ」
 ここで風が出て来た。
「風って・・・・・・」
「今まで吹く素振りもなかったのにな」
「ええ」
 少し困ったような顔になる未晴だった。しかしここで言う。
「けれどね。いいわ」
「いいのかよ」
「だって。暑かったから」
 だからだと言うのである。
「おかげで。公園にいるのがもっとよくなったわ」
「涼しくなったからだだよな」
「ええ」
 正道の今の言葉にこくりと頷く。
「だからよ。おかげで」
「そうだよな。実を言うと俺も少し暑いと思っていたんだよな」
「そうだったの」
「夏だから当たり前だけれどな」
 こう述べて少し苦笑いを浮かべた正道だった。
「けれどな。おかげで涼しくなったしな。それに」
「それに?」
「何か風が吹いて余計によくなってないか?」
 こんなことを言い出してきたのである。
「余計にな」
「よくなったって何がなの?」
「見てみろよ、ほら」
 言いながら前を指差す。その草と花を。
「風に揺れてな」
「あっ、そうね」
 未晴もその草と花を見て気付いたのだった。その気付いたものは。
「風にゆらゆらと揺れて」
「何か違うよな」
「生きてるのがはっきりわかるわ」
 揺れ動いていることによってだ。それでわかったのである。
「ああして静かに動いてると」
「そうだよな。それでな」
「風はただ揺らしてるだけなのに」
 それでもであった。
「それでも。感じ取れるなんて」
「風も見せてくれるんだよ、生きてるのをな」
 正道は顔を微笑ませてこう述べた。
「ちゃんとな」
「そうね。ちゃんとね」
 未晴はその揺れ動くのをまだ見ながら述べた。
「生きてるの見せてくれるのね」
「こんなのはじめてわかったよ」
「私もよ」
 これは二人共であった。
「まさかね。こんなことでね」
「ああ。死んでるのとか造花とかだったらな」
 正道は生きているものではなくそうしたものも話に出してきた。
「動き方が違うだろ?何かこう」
「ええ。ただ揺れ動いているって感じで」
「けれどな。今あの草とか花はな」
「そうよね。ちゃんと風に合わせて動いていて」
「それで何処か抵抗していてな」
「生きているのがわかるわ」
 その生きている揺れ動きを見ているのだった。
 
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