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ある晴れた日に

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263部分:その吹く風その二十


その吹く風その二十

「もうすぐだよな」
「ええ、すぐよ」
 未晴はまた彼に述べた。
「もうすぐだから。そろそろ見えるかしら」
「そろそろか」
 正道は彼女の言葉を受けてこれから自分が行くその道の先を見た。道の左右には電柱があり向こうから初老の女の人がジャージ姿で走って来るのが見える。
「ほら、見えてきたわ」
「んっ!?」
 未晴が言ったその時だった。道の右手に入り口が見えてきた。
「あそこよ」
「あそこか」
「そう、あそこ」
 未晴はその右手の入り口を指差していた。
「あそこなのよ。あそこに入ったらね」
「その公園か」
「ええ。行きましょう」
 もう声が弾んできていた。
「あそこだから」
「また随分楽しそうだな」
「最近あまり行ってなかったし」
 正道に言われても言葉はまだそわそわとしていた。
「だから余計に」
「そんなにお気に入りの場所なんだな」
「好きなのよ」
 またかなり率直な言葉だった。
「静かで豊かな緑の場所だから」
「だからか」
「緑。好きだから」
 未晴はまた言った。
「だからね。早く見たくて」
「おたくってそんなに緑が好きか」
「お花もあるし」
 未晴は花も好きなのだった。これは正道ももう知っていた。
「今の時間は朝顔はもうないけれど」
「そういえばもうそんな季節だな」
 言われて朝顔のことを思い出した正道だった。
「もうな」
「ええ。けれど昼顔はあるし」
 それもあるというのだった。
「お花も豊かでいい場所だから」
「花か。確かにいいよな」
 正道も実際のところ花を見るのは嫌いではない。むしろ好きな方である。
「あれを見ているとな」
「気持ちが。楽しくなるわよね」
「落ち着きながらな」
「だからよ。行きましょう」
 顔が綻んできた彼にまた言ってきたのだった。
「あの公園にね」
「ああ」
 二人はその公園の中に入った。公園にはまず中央に池がありそのほとりに草があった。そこに無数の青い花もあり緑と青が見事な対比を見せていた。
 その緑と青を見て。正道はまず青について言った。
「菖蒲か」
「ええ、菖蒲は好き?」
「嫌いじゃない」
 本心は少し隠しての言葉だった。
「青い花は好きだ」
「そう、好きなのね」
「紫も好きだが青はやっぱりいい」
 こう言うのだった。
「見ていると落ち着くからな」
「特に水辺にあるとそうなるわよね」
「それが今だな」
 その通りだった。今その菖蒲は池のほとりに咲き誇っている。そしてその下には緑が広がっているのだ。目に優しい美しさだった。
「この青と緑がな」
「お池もいいでしょ」
「こんな公園があるなんて思わなかった」
 今度の言葉はこれだった。
「こんないい公園があるなんてな」
「穴場なのよ」
 静かに微笑んでの今の未晴の言葉だった。
「私も最初。さっき言ったけれど」
「小学生の時だったな」
「ええ。その時にはじめて見て」
 またその時の話になった。未晴は今は過去と現在を同時に見ていた。
 
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