ある晴れた日に
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215部分:思いも寄らぬこの喜びその十五
思いも寄らぬこの喜びその十五
「けれどお金賭けるわけじゃないしいいじゃない」
「ギャンブルなんてやっても何にもならないだろうによ」
実は彼はギャンブルが嫌いであった。
「まあそういうのならいいか」
「そういうこと。けれど今日は流石に参ったわ」
「ワインに和菓子とかでも最悪だな」
野本が顔を顰めさせていた。
「どっちにしろ俺はベイスターズが負けてたらこのメニューは頼まないぜ、もうな」
「それがわかってないのよ」
咲は今の野本の言葉を一笑に伏してしまった。
「女は傾奇いてこそ華よ」
「花の慶次かよ」
少なくともそのノリではある。
「だから。そういう遊びも必要なの」
「腹壊して泣くぞ」
野本は意外とこういうことには傾奇いてはいなかった。
「まあ北乃が一番傾奇いてるけれどな」
こう言った矢先であった。
「私が?」
「えっ!?」
「私が傾奇いてるって?」
見れば今その明日夢が部屋に入って来ていた。エプロンを脱いだその姿は膝までのズボンにパーカーのシャツというラフな格好だった。
「何処がよ」
「ベイスターズ応援してるってのは充分だろ」
野本は明日夢の来訪に少し驚いていたがすぐに元の顔に戻ってこう言うのだった。
「やっぱりよ」
「うちは代々横浜ファンだけれど」
皆の席の中に入りながら言う。
「それがどう傾奇いているのよ」
「充分そうだろうがよ」
野本は凛と恵美の間に座った明日夢に言う。小柄なので背の高い二人に隠れそうである。
「阪神じゃなくてベイスターズなんてよ。関西で」
「そんなに傾奇!?」
「あれだけ負けに負けて」
やはりこのことも言う。
「それでも応援する」
「それがファンじゃない」
当人はしれっとしたものである。
「違うの?それで」
「違うことはねえよ」
それはないと言う。
「しかしよ。それでも」
「それでも?」
「傾奇いてるだろ」
またこの言葉を出す。
「絶対によ」
「だから何処がなのよ」
本人にはわからない。
「横須賀とか横浜じゃ普通よ。ベイスターズファンなんて」
「横須賀や横浜だとそりゃ普通だな」
正道の今の言葉は話の核心に実に近かった。
「まあ当然だな」
「そうじゃない。だったら」
「けれどここは関西だぞ」
話の核心にさらに入る。
「ここはな。だからよ」
「それでおかしいっていうの?」
「俺も言うけれどおかしくはないさ」
それはそうではないと言う。
「けれどな。やっぱりな」
「横浜ファンであることが傾奇いてるっていうのね」
「まずそれだ」
確かにそうだがそれだけではないのであった。
「まずはな」
「それで次は」
「御前の応援の仕方もだよ」
次に言及したのはそこであった。
「応援の仕方もな。やっぱりな」
「ちょっと熱中してるだけじゃない」
「ちょっと!?」
「それはどうにも」
「かなり違うわよ」
女組が東も西も顔を見合わせてそれには疑問を呈した。このことでは恵美も茜も凛も同じであった。
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