ある晴れた日に
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201部分:さくらんぼの二重唱その十九
さくらんぼの二重唱その十九
「何でなんて?護衛役によ」
「わかってるからよ」
未晴は正道のその言葉に微笑んでから答えた。
「だから。一緒にね」
「帰ろうって声かけたのかよ」
「どういうわけかわからないけれど」
今度はこう前置きしてきた。
「安心できるし」
「安心!?」
「そう、音橋君がいてくれたら」
こう言うのである。
「隣にね」
「俺なんかでいいのかよ」
「いつも咲達と一緒じゃない」
「ああ」
このグループが壊れることはなかった。やはり女同士の絆には強いものがある。それは未晴にしろ同じで彼女もその中にいるということなのだ。
「その時も安心できるけれど」
「俺と一緒にいる時もってことかよ」
「そういうこと」
そしてまた正道に対して言った。
「その時とはまた別の感じでね」
「とにかく信頼されてるって思っていいんだよな」
正道はこう捉えることにした。
「それってよ」
「そう考えてもらっていいわ」
未晴もそれでいいと返す。
「それでね」
「そうか。じゃあそう考えるな」
「ええ」
「そんなこと言われたのははじめてだな」
正道は自分の言葉に感慨を込めた。
「そんなことってな」
「そうだったの」
「女の子と付き合ったことはあるぜ」
正道は自分の過去のことも話した。
「これ今まで言ったことなかったけれどな」
「私も聞いたのはじめてよ」
「けれどあったことはあったんだよ」
そのことをあえて言うのだった。
「中学の頃な。けれどそれでもな」
「そういうことはなかったのね」
「そこまで言われたことはないな」
また言った。
「けれど。悪い気はしないな」
「よかった」
未晴は今の正道の言葉を聞いて笑顔になった。
「そう言ってもらって」
「いいのかよ」
「私も。言われて気分がよくなることはあるから」
「それが今の俺の言葉ってわけかよ」
「そういうこと。それでね」
「ああ」
「また。いいかしら」
また正道に顔を向けて問うてきた。
「こうして一緒に歩いてもらって」
「そっちさえよかったらな」
これが彼の返事だった。
「俺の方は何時でもいいさ」
「有り難う。だったらまた」
「また今度な」
「今も。御願いね」
話を今の時点にも言及してきた。
「今もね」
「今もかよ」
「このまま。歩いていたいから」
「それで何処まででいいんだ?」
「何処までって?」
正道の言葉に対して問うた。
「それって」
「だから。そっちの家までか途中までか」
正道はストレートに未晴に尋ねるのだった。
「どっちなんだ?俺はどっちでもいいんだけれどな」
「どっちでもって」
「護衛役は最後まで守るのが仕事だけれどな」
言いながらその顔を正面に向ける。こうして一旦未晴から顔を離したうえで話すのだった。その動作は心なしか照れ隠しのように見えた。
「だからな」
「じゃあ私のお家まで?」
「どっちでもいいさ」
彼はまたこう言った。
「俺はな」
「だったら」
未晴は彼のその言葉を聞いて顔を少し俯けさせた。そのうえで考えるのだった。
少し経ってから顔を彼に向けてあげた。そして言った。
「今は」
「今は?」
「いいわ」
今はいいと言うのだった。
「今度。御願い」
「今度かよ」
「今日はそんなに遅くないしまだね」
ついついまだと言ってしまった未晴だった。
「そこまでは。図々しいから」
「図々しいのは嫌じゃないさ」
正道はまた言った。
「別にな」
「それでもいいわ」
未晴はまた俯いて述べた。
「今日はね」
「だったらな」
「ええ」
危険かどうかは今はあえて無視していた。そこまで危なくはないと思っていたこともあるが他の理由が最も大きかった。しかしそれも言わないのだった。
「じゃあ二人でね」
「帰るか」
こうして夜にはじめて二人で歩くのだった。芝居の用意の後で静かに夜を歩く。二人の絆は少しずつだが確実にその仲を進展させていくのだった。
さくらんぼの二重唱 完
2009・2・22
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