ある晴れた日に
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200部分:さくらんぼの二重唱その十八
さくらんぼの二重唱その十八
「ちょっと」
「行かないのかよ」
「ええ。今日はお休み」
また正道に答える。
「今日はね。お休みさせてもらうわ」
「そうなのかよ」
「それでね」
幸い皆の目が彼から離れていた。そのうえでまた話すのだった。
「御願いがあるんだけれど」
「御願い?」
「女の子一人だと危ないじゃない」
今は正道の目を見ていた。そのうえで彼に話してきている。
「だからね」
「送って欲しいっていうのかよ」
「駄目かしら」
ここでも彼の目を見つつ話をしている。
「よかったらだけれど」
「確かに危ないよな」
正道はすぐには答えずにまずはこう述べた。
「もう夜だしな」
「ええ」
「最近物騒な話も聞くしな」
「物騒な話?」
「何かあちこちの学校で動物が殺されてるらしいな」
正道は最近界隈で噂になっている話を未晴に話すのだった。
「確か。そうなんだろ?」
「噂にはなってるわね」
未晴も少し考える顔になって述べた。
「あと公園とかでも鳩が殺されてたりお花畑が滅茶苦茶に荒らされたり」
「はっきりしたことはわからねえけれどな」
正道はさらに言葉を続ける。
「本当だったらな。女一人でそうしたことする奴に会ったらな」
「危ないっていうのね」
「だからな。まあそっちがよかったら」
少し照れ臭そうだったがそれでも言葉は続ける。少し無理をしている感じになっている。
「それでいいか?」
「ええ、だから御願い」
また言う未晴だった。
「それでね」
「わかったさ。それじゃあな」
「ええ」
今度は笑顔で頷く未晴だった。
「それじゃあ。御願いね」
「わかった。それじゃあな」
「今のうちにね」
今度は今のうちにと言う未晴だった。
「行きましょう」
「今のうちにかよ」
「だって。皆今は私達に気付いてないから」
そっとその皆の方を見る。見ればまだ明日夢と凛を中心にカラオケやプリクラのことで騒いでいる。そこに二人にとっては都合のいいことに男組も加わっていた。
「じゃあ今からな」
「繰り出して」
完全に正道と未晴から目を離していた。
「行くか」
「皆仲良くね」
「じゃあ音橋君」
未晴はそっと正道に囁く。
「帰ろう」
「ああ、それじゃあな」
二人はこっそりと体育館を後にした。それに気付くのは誰もいなかった。やはりカラオケの話に興じていて気付かなかったのである。
そんな皆をよそに帰路につく二人。外の世界は完全に夜になっている。二人は電灯が照らす道を二人並んで歩いている。遠くには家の灯りや車のライトが見える。夜といっても暗くはないがそれでもそういった光の他は光はない。やはり夜の世界であった。
その夜の世界を歩きつつ正道は。未晴に声をかけてきた。
「それでよ」
「何?」
未晴もそれに応える。正道に顔を向けて声をあげたのだ。
「いやさ、何で俺なんかって思ってな」
こう未晴に言う正道だった。
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