ある晴れた日に
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202部分:思いも寄らぬこの喜びその一
思いも寄らぬこの喜びその一
思いも寄らぬこの喜び
舞台の準備は予想よりも順調に進みいよいよその本番が間近になっていた。誰もが、特に主役の二人は激しい緊張の中にいた。
「いよいよ三日後ね」
「そうね」
凛が明日夢の言葉に頷いていた。
「三日後。遂にね」
「用意はいい?」
明日夢は真剣な顔で凛に問うた。
「もう何でもいけるわよね」
「それはちょっと」
凛は不意にその声を困惑させたものにした。
「今一つね」
「不安なの?」
「まあちょっとは」
隠すことはできなかった。
「そうした気持ちはあるわ」
「だから大丈夫よ」
明日夢はそんな凛に対して微笑を作って話すのだった。
「それはね。大丈夫よ」
「本当に?」
「大丈夫と思ったらそれでいけるのよ」
「要は度胸ってことね」
「そういうこと。腹を括ってね」
凛に対してまた言う。
「いいわね。腹をね」
「じゃあまずは」
「はい、これ」
早速懐から何かを出してきた。それは。
「お酒?」
「学校じゃ流石に出せないわよ」
その問いには少し笑っていた。
「それはね。別のよ」
「ってこれってコーラじゃない」
「一杯飲んで落ち着いて」
そのコーラを出しながらまた話すのだった。
「何かお腹に入れたらそれで全然違うわよ」
「コーラに。それに」
「はい、これも」
明日夢は他にも出して来た。それは。
「今度はポテトチップね」
「とにかく何かお腹に入れて」
また凛の前に差し出す。
「そうしたら違うからね」
「有り難う、少年」
凛は明日夢が差し出してきたその二つを受け取った。二人は教室の凛の席にいる。
二人だけでなく皆も大なり小なり緊張していた。三日前だがまるで今から本番がはじまるといったような状況の中にいるのだった。
それは正道も同じだった。やはり彼も緊張した面持ちで自分の席でギターを持っている。机の上には楽譜が置かれその緊張した顔でそれを見ている。
その彼に声をかけたのは桐生だった。やはり彼も眼鏡の奥に緊張した目を置いている。彼もまた舞台に向けて緊張しているのだった。
「僕は役者としては出ないけれどね」
「それでも緊張してるか」
「うん」
こう彼に答える正道だった。
「いよいよだと思うと余計にね」
「特に中森がすげえよな」
正道はその凛を見て言う。
「もう身体もガチガチだな」
「北乃さんが必死にほぐそうとしてるけど」
「あいつもあいつで緊張してるな」
今度は明日夢を見ていた。
「だからな」
「まずいってこと?」
「あいつは強がってるから余計に下手したらまずいことになるな」
言いながらまた明日夢を見る。
「こけたら一気になるぜ」
「一気にね」
「あいつもあいつで誰かほぐさないとな」
そしてこう言うのだった。
「誰かいたらいいんだけれどな」
「それなら安橋さんと高山さんがいるじゃない」
桐生はその二人のことを話に出した。
「あの二人が。ほら」
「早いな」
その二人が早速明日夢のところに来ていた。そうして彼女にあれこれと話している。すると今まで強張ったままだった明日夢の顔が少しずつだが和らいでいた。
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