ある晴れた日に
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192部分:さくらんぼの二重唱その十
さくらんぼの二重唱その十
「そうした方がいいと思うよ」
「じゃあ後で皆で聞いてくれるか?」
正道は竹山と話をしたうえで皆に対しても声をかけた。
「俺の音楽な。それでいいな」
「っていうか早く聞かせろよ」
「そうだよ」
少し喧嘩調子で彼に返したのは春華と佐々だった。
「こっちもどんなのか凄い不安なんだよ」
「下手のだったら承知しねえぞ」
「承知しねえってな、おい」
二人の喧嘩調子には正道も同じような感じで返すのだった。
「御前等何だよ、それって」
「じゃあ早く聞かせろよ」
春華の喧嘩調子は続く。
「芝居は役者と舞台だけじゃねえんだからよ」
「御前音楽に結構五月蝿いんだな」
「これでも趣味の一つなんだよ」
今度はこう正道に返してきた。
「音楽聴くのがよ」
「御前みたいなガサツな女がよ」
「ええ、これ本当だから」
「嘘じゃないわよ」
しかしこのことの証人が出て来た。それは凛と静華だった。
「春華って音楽好きなのよ」
「しかも趣味なんだよ」
「嘘だろ!?」
正道は二人に言われてもこのことを信じてはいなかった。
「それってよ」
「あのな、音無」
今度は春華本人が言ってきた。顔は怒ったものになっている。
「おめえも強情だな」
「強情も何も嘘だろ、それ」
やはり彼は信じてはいなかった。言葉にはっきりと出ている。
「御前が?どんな音楽をだよ」
「何でも聴いてるよ」
春華はきっぱりとした調子で答えてみせた。
「クラシックでも何でもよ」
「はっ!?」
正道の今度の顔は嘘の話を聞いたものでしかなかった。少なくとも今聞いた話を何一つ信じてはいなかった。それだけは確かであった。
「嘘つけよ、嘘をよ」
「これが証拠だよ」
いい加減切れたのか今度は懐から何かを出して来た。それは。
「ほら、これだよ」
「んっ!?」
「これで信じるか?」
言いながら見せてきたのはCDだった。見れば何枚もある。
「何だ!?ロックにポップスに」
ジャンルもその二つだけではなかった。
「ジャズに演歌に。ゴスペルもあるのかよ」
「これで信じたか?」
ジロリと音橋を見つつ言ってきた。
「あたしが音楽に五月蝿いってことよ」
「ああ、まあな」
流石にCDを見せられては彼も信じるのだった。
「いつも持ってるのかよ」
「磁気あるのは持って来るなよ」
春華の目は本気だった。
「そこんとこわかってるよな」
「俺はギターやってるんだぞ」
同じ音楽を、ということである。言葉はそれで充分だった。
「わかったな、それでな」
「そういうことだよ。あたしも音楽には五月蝿いんだよ」
あらためてこのことを言う春華だった。
「で、あんたの曲な」
「ああ」
「どんな感じなんだよ、それで」
「とりあえず聞いてみるか?」
正道は話をそこに戻してきた。
「俺の曲。それでいいよな」
「ああ、とりあえずな」
春華も答えた。
「聞かせてくれ。どんな感じなんだよ」
「とりあえず今の仕度が終わってからな」
正道は言いながら自分の周りを見回せてみせた。
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