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ある晴れた日に

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185部分:さくらんぼの二重唱その三


さくらんぼの二重唱その三

「ちゃんとしておいてね」
「あっ、悪いな」
「済まねえな」
「安全第一でね」
 トンカチをさらに使いながら二人に言うのだった。
「忘れないでいこうね」
「悪い悪い」
「もっと気合入れていくか」
 二人はあらためてそのことを反省した。そのうえで作業を続けていくのだった。
 作業は順調だった。そしてその中には正道もいた。
「おい音橋」
「ああ」
 佐々の声に応える。彼は今舞台を築く為に舞台にあがって作業をしていた。
「これ何処に入れるんだ?」
「それはそっちだったと思うぜ」
 佐々が持っている木の片を見て答えた。
「それはな」
「そうか。こっちか」
「ああ、そっちな」
「わかった。それじゃあ」
 ここでトンカチと釘を出す佐々だった。
「つけておくな」
「頼むな」
「おい音橋」
 今度は春華が彼に声をかけてきた。見れば女組も作業に加わっている。めいめいトンカチやら鋸やら持って男組と一緒にやっている。
「釘あるか?釘」
「釘かよ」
「こっちなくなってきてるんだよ」
 見れば彼女は静華や奈々瀬達と一緒に舞台の取り付け作業にあたっていた。
「あったらくれよ」
「そっちに箱ごとないか?」
「箱ごと?」
「ああ、あるだろ」
 こう春華に言うのだった。
「そっちにな。どうだ?」
「あるのかよ」
 春華は彼の言葉を受けて周囲を見回した。女組はジャージかジーンズになって仕事をしている。春華は青いローライズのジーンズだった。
「何処にだよ」
「それ位自分で探せよ」
「探してるけどないんだよ」
 いつもの調子で言葉を返す春華だった。
「だから聞いてるんだろ?」
「そういえやそうか」
「そうだよ。で、何処なんだよ」
「加山とかも持ってなかったか?」
「あいつ今いねえよ」
 春華は今度はこう正道に返した。
「ちょっと先生のとこ行ってんだよ」
「そうか、いないのかよ」
「ああ。それで釘な」
 春華は話を戻してきた。
「持ってねえか?十本位」
「十本かよ」
「あったらくれよ」
 かなりダイレクトに彼に言ってきた。
「こっちも必要なんだよ」
「ちょっと待てよ」
 春華に応える形でジャージのポケットに手を入れる。そうしてそこから袋を出してきた。
 その袋から釘を取り出した。そしてそれを側に来ていた春華に手渡した。
「ほらよ」
「ああ、悪いな」
「いいさ。それでそっちはどうなんだよ」
「順調だよ」
 春華は楽しげに笑って言葉を返した。
「こっちもな」
「そうか。それならいいんだけれどな」
「けれど釘がな」
 楽しげな笑みはすぐに苦笑いになった。
「すぐ減るんだよな」
「それはこっちもだよ」
 正道もだというのだった。自分で。
 
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