魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第23話 新年魔法大会 【幕間】
『———ぎゃああああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎』
どこからか絶叫が聞こえてきて、会場がシンと静まり返る。そりゃあこんな声量で叫ばれたら誰でも驚くし、只事では無い事は想像つくからな。
それに、今の声は———グレースだ。
「副主任。少し、行ってくる」
「……分かった。しっかり戻ってきてね」
確か、琴葉がグレースと一緒にいるはず。となると、琴葉の身も危ない。それとも———琴葉がグレースに何かをしたのか。
「シン。琴葉も探してくれないか?」
「嗚呼、勿論だ。看守が関係しているかもしれないしな———」
「———おい、黒華は居るか!」
声が聞こえた方を見ると、白髪の看守———神白さんが、慌てた様子で立っていた。
この看守、確か大会が始まる前にも意味深な事を言っていた辺り、もしかして未来が読める魔法を得意にしているのか。未来が読める魔法はとても扱いにくく、数が少ない。だが、脱獄等の問題を未然に防ぐために刑務所や、敵の戦術を読み奇襲を仕掛ける、喰らわないようにするために戦場で等、沢山の場面で重宝されているらしい。
もし、本当に神白さんが未来予知の魔法師だったとしたら、流石第一魔法刑務所と言わざるを得ない。
———琴葉を始めとして化物じみた奴ばっかりだな、この刑務所。よく脱獄しようと思うよ。
「神白主任! 黒華主任なら、囚人番号九〇四番と共に何処かへ」
「そうか……なら、先程の悲鳴は」
「恐らく、九〇四番の声かと……」
「……“始まり”か。……助かった、神白主任。私は黒華を探す。橙条か青藍に其れを伝えておいて欲しい」
また意味深発言。やっぱり、未来が読めるのか、それとも琴葉と何かを企んでいて、その計画についてなのか。
でも、琴葉がそんなことする筈がない。琴葉は、間違った事はしない。絶対に、彼奴は。
「待て、主任。僕も連れて行け」
「……囚人番号四番か。看守に命令するな。それに、簡単に囚人を連れて行く訳にはいかない」
「後ろめたい事情でもあるのか? それに、僕は看守とグレースが心配なだけだ。連れて行かないのであれば、僕一人で行く」
神白さんにそう言い残して、去っていこうとするシン。だが、それを予知していたかの様に、神白さんは一瞬でシンに手錠を掛け、その手錠に鎖を繋いだ。
リード……ぷくくっ、とハクが呟いたのを聞き流しながら、目の前で行われた早技に目を疑う。
「……黒華に四番の事は聞いている。彼奴が“魔法の実力は囚人イチ”と自慢してくるのでな」
鎖がジャラリと音を立てて神白さんの手に巻きつく。その速さは目で捉えられる、ギリギリくらい。常人がどれだけ頑張って魔法の勉強に励み、修行を積んでも不可能な速さ。
例え未来予知の魔法師では無かったとしても、実力だけで高い位まで上がる事は可能だろう。そのくらいの、天才並みの才能も持ち合わせている様だ。
「良いだろう。着いてくると良い。ただし、私が危険だと判断したら、直ぐに逃げる様に」
———あれ、神白さんめっちゃイケメンやん。
後書き
———……さて、“一人目”の始末はこれでいいかな。“二人目”……は競技に出場するんだっけ。となると、奴は諦めるしかないか……って、此方に向かう気配が二つ……最期に面倒な土産を残しやがって……この感じ、神白と四番か。その程度なら、どうにか誤魔化せるか……? でも、未来を読まれたら……はぁ、やっぱり面倒。でも、もうすぐ次の競技は始まるから……すべき事はただ一つ、か。
「———ただいまー」
誤魔化す必要は無い。
私を探しにきた彼等に会わなければ、誤魔化す必要も無いからだ。
レンを騙すような事になるのは仕方がない。
私は大を守るために小を殺す。例え、その行為が間違ったものだとしても。
こういう時、人の心を読むことが出来る魔法を常に展開している事を、とても後悔する。気付かなければ良かったのに、と。
最悪、全部無かったことにすれば良い。
時間を戻せば、全て無くなる。
やっぱり、力があるって良いな。
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