魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第22話 新年魔法大会【異変】
「はぁ……ごめんね」
「それ何回目……」
溜息を吐いて謝罪をするという流れを、第二種目が終わってから既に五十回以上繰り返す琴葉。そろそろ頭を心配した方が良いのだろうか。
だが、「大丈夫?」と声をかける前に、琴葉はふと顔を上げて、急に立ち上がった。勿論、驚かない訳がなく、グレースなんかは一瞬椅子から浮いた。「ぴえっ⁉︎」と奇声を発しながら。
……「ぴえっ」? ぴえってなに?
まぁ、それは置いておいて———
「琴葉、どうしたんだ?」
「い、いや……なんでもない……なんでもない、はず……」
明らかに何かあったな。何か言えないことを気付いてしまったとしか思えない。一体何が。
「要。ちょっと行ってくる。絶対、レンから目を離さないで。グレース、来て」
「……はーい」
グレースもおかしい。テンションがいつもより数段低い。それに、「ぴえっ」はありえない。ひよこの真似っこかよ全然似てないしひよこに失礼だわ。
琴葉はグレースの腕を引っ張って、どこかへと向かった。
◇ ◆ ◇
「ねぇ、琴葉ちゃん。どうしたの?」
「黙れ」
「……どこに行くの?」
「黙れ」
「…………」
ひたすら歩く。大会の会場から離れるために。
誰かを犠牲にするなんて、したくないから。
「……ねぇ、琴葉ちゃん? 痛いから、腕、離してくれないかなぁ?」
「黙れ」
「……会場から離れてるよね?」
「黙れ」
「本当にどこ行くの?」
「黙れ」
「ねぇ、琴葉ちゃん!」
「黙れ……‼︎ 」
後ろを振り返って、グレースを睨み付ける。怯んだように動かなくなるが、それが演技だという事は分かっている。
私はグレースの肩を押して、壁まで追いやる。グレースが驚いたように目を見開いて、抵抗するように体に力を込める。このままだと普通に押し返されてしまうので、私はグレースの顔の横スレスレの位置に———
ナイフを刺した。
「……琴葉ちゃん?」
「黙れって言ったでしょ……? その通りにしていれば、もう少し優しくしてあげたかもしれないけど、御前は黙らなかったよね?」
この場所は、主任看守や放送部が厳重な警備をしていない限り、ノーガードとなる。だから、こんなことをする時には、とても役立つのだ。
「……“グレース・アートルム”。残念だったよ。私の初めての“人形”」
「……え? 琴葉ちゃん、何言ってんの? オレは孤児だから、ただのグレースだけど……それに、人形って?」
「そっか、知らないフリしなきゃいけないんだよね。御前があげた成果は中々の物だったよ。私が“設定”した通り動いてくれてありがとう」
「琴葉ちゃん……?」
「ばいばい。御前の仲間が私たちを殺す前に———“処分”してあげる」
グレースの肩を掴んでいる方の手で魔法を発動させる。
魔法の対象に設定したグレースを包むように、赤黒い膜が張られて、その後断末魔が廊下に響き渡った。
膜が消えたところに残る物は何も無い。血も、骨も、灰さえも残らない。
「さようなら、お人形さん」
後書き
滅茶苦茶更新停止してしまい、すみませんでした!
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