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ヒュアデスの銀狼

作者:蜜柑ブタ
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SS2  オイシイゴハン

 
前書き
オリ主(?)のカズ君は、強いけどチートではありません。 

 

 どうして?

『ミチルは、女だろ!? なんで男になるなんだよ!?』

 どうして、オレは……。

『失敗だ。すぐに破棄しよう。』

 オレは……。

『なに!? 攻撃を仕掛けてきたわ! まずいよ!』

 オレは…!

『いやあああああああ! 来ないでぇぇぇぇぇ!!』

 ……どうして、『かずみ』になれなかったんだろう?






「カズ? カズ。」
「…カンナ……。」
 カズは、びっしょりと汗をかいた状態で目を覚ました。
 横に座っているカンナが、カズの頭を撫でた。
「悪い夢でも見てた? うなされてたよ?」
「…『かずみ』になれなかった、夢…見た…。」
「そう。それは辛かったね。よしよし。」
 カンナがカズの頭をなで回した。それこそ、本物の犬にやるみたいに。
 クシャクシャとなる短い黒髪。
「それで? 体の調子はどう?」
「…だいじょうぶ。」
「それにしても、普通に喋れるようなってきたね? ちょっと前で片言っぽかったのに。」
「テレビとか、カンナで覚えた。」
「ふーん。偉いね。」
「オレ、偉い?」
「偉い偉い。偉い子。私のオオカミさんは、とっても偉い子。さあ、今日も街に行こうね。美味しいご飯(魔女)を食べて、もっと強くならないと。」
「うん。」
 カズは、カンナと共に立ち上がり、夜の街へと出発した。





***





 夜風が吹き抜ける、建物の窓から差し込む人工の明かりが転々とする街。
 カンナが自らの願いで手に入れた、コネクト(接続)を使い、人から人へ、そしてやがて魔女の呪いである魔女の口づけを受けた人間を見つけ出す。
「…いた! 行こう、カズ。あっちだよ。」
「うん。」
 カズの背中に翼が現れ、そしてカンナがその背中に飛び乗り、カズは、翼を広げて飛び立った。
 欠けた月が浮かぶ夜空をカンナを乗せて飛ぶ。
 やがて、人気の無い廃ビルの屋上に降りた。
「偉いね、カズ。ここだよ。」
「……匂う。…オイシイゴハン(魔女)の匂い…。」
「行っておいで。ここで待ってるから。」
「…うん。」
 カズは四つん這いになると、屋上の出入り食いへと走って入って行った。
 階段を獣のように駆け下り、やがて……。

 今まさに、集団自殺を図ろうとする人間の集団を見つけた。

 洗剤を混ぜることで毒ガスを発生させようとする寸前で、カズが入って来たことで、彼らはピタリッと止まる。

 彼らに共通することは、首筋に奇妙な模様の痣があることだった。

「オイシイゴハン…どこだ!」
 カズが叫び、そしてアオオオオンっと、吠えた。
 途端、世界が変わる。
 グニャリッと空間が歪み、やがてクレヨンで描いたような花畑の景色に変わった。その頃には、人間達はいなくなっていた。

 ここは、魔女の結界。通常なら魔法少女、あるいは、それになれることができる素質を持つ人間にしか見えない場所。
 そして、ここを支配するのは。


 オ~ハナ サカセマショ~


 魔女。

 クレヨンの花畑の主であると言わんばかりの、大きなヒマワリのような花の異形がそこにいた。

 先ほど集団自殺を図ろうとした人間達は、魔女の口づけという呪いを受けて操られた人間達だ。
 魔女は、こうして人間を戯れに襲い、呪いをかけたり、結界に迷い込ませたり、手下にして自身の分身である魔女の手下を使い人間を殺す。
 カズは、その正体がなんであるか知っている。
 そもそも…、自分が生まれるきっかけともなったのだということを生まれながらに知っていた。

 魔女とは、魔法少女がやがてなる成れの果て。

 ソウルジェムという魔法少女の力の源にして、彼女達自身である魂の結晶たる石が濁り、やがてグリーフシードへと変じた結果生まれるのが魔女だ。
 魔法少女は、力を使ったり、感情の動きによってソウルジェムが濁る。
 そのため、定期的に濁りを取るため、魔女を狩り、グリーフシードを手に入れなければならない。
 しかし、多くの魔法少女は、魔女の正体を知らない。
 そして、知れば絶望する。
 そして、その絶望はソウルジェムを濁らせる。
 そして、ソウルジェムが濁りに濁ると魔女となる。
 つまり、どうあがいても魔法少女は、魔女となる運命なのだ。

 アカ~イオハナ アオ~イオハナ タクサンタクサンサカセマショ~

 魔女が歌う。
 クレヨンの花畑の花びらが舞い上がり、そして、宙でいったん止まると、まるで弾丸のようにカズに向かって飛んできた。
 カズが吠える。
 直後、結界の景色が半分、カズの結界である楽園のようなものに浸食された。その景色の中にさしかかったとき、花びらがかき消えた。
 メキメキバキバキとカズの体が変化し、二本足の狼男のような姿へと変わる。ただし、四つ足のオオカミと同じく山羊の角と鳥の翼はある。
 カズが跳ぶ、その速度に魔女がハッとした途端、魔女の腹部辺りにカズの跳び蹴りが入っていた。
 魔女の巨体が飛んでいく。カズは、凄まじいスピードで吹っ飛んでいく魔女を追い、拳を連続で振るった。
 格闘ゲームで言う、打ち上げのように宙で浮かされた状態で強烈すぎる打撃を受け続け、魔女が口らしき場所から吐血した。
 魔女が弱まっていくと、結界がどんどんカズの結界に浸食され、やがてすべての景色が楽園のような世界に変わった。
 地面に叩き付けられた魔女は、血を流しながらピクピクと痙攣していた。
 そしてカズは、パカッと口を開けた。その口から灼熱の炎の火球が放たれ、魔女に触れた瞬間、爆発した。
 爆炎が楽園のような世界に舞い、やがて炎が鎮火すると、そこにはグリーフシードだけが残された。
 カズは、鋭い爪の生えた指で、グリーフシードを摘まむと、それをそのまま口に運んだ。
 ガリ、ボリ…っと、音が響く。
 そして、やがてゴクンッと飲み込んだ。
「う…ぐ…!」
 カズは、自分自身の体を抱きしめるようにして、その場にうずくまった。
「はあ…、ハア!!」
 カズの体が徐々に狼男の姿から、人間のソレへと変化していった。

 カズは、他の魔女…いやグリーフシードを喰らうことで、力を身につけられる。
 それは、長所なのか短所なのかは分からないが、相応に痛みも苦しみもあった。
 これが何なのか、カズには分からない。かつて魔法少女だった者が味わった苦痛だろうか、絶望だろうか? それが痛みという“味”で現れるのか。
 マルフィカ・ファレス……、魔女の肉詰めという歪な存在であるがため、存在が不安定なのだろうか?
「かえ…らなきゃ…。カンナが…待ってる…。」
 自分を拾ってくれた存在。
 自分にとって、名前をくれた存在。
 自分を必要としてくれる存在。
 カズにとって、カンナがすべてだった。
 カズは、激痛が走る体をおして、立ち上がり、結界に手をかざして、穴を空け、そこから外へ出た。
 廃ビルの中に戻ると、そこには、バタバタと床に倒れた人間達がいた。魔女が死んだことで魔女の呪いも解けたのか、首筋の痣は消えていた。
 カズは、そんな人間達を無視して、足を引きずって屋上へ向かった。

「おかえり。」

 屋上に行くと、月を眺めていたカンナが振り向いて、そう言って出迎えてくれた。
 カズは、その姿と声を聞いて、ホッとしたのか、その場に倒れた。
「……カズ。」
 カンナがカズに近寄り、その場に膝をついた。
「…美味しかった?」
「………うん。美味しいご飯…、もっと食べなきゃ…。」
「…そうだね。もっと食べて強くなって。そして…、アイツをあっと驚かせるオオカミにならないと。」
「カンナ…。オレ…、カンナ、必要?」
「うん。必要だよ。だから、拾ったんだよ。」
「…うん。オレ…カンナのため、生きる…強くなる…。」
「死んじゃダメだからね? じゃないと、許さないから。」
「……。」
「あれ? 寝ちゃった? もう…。しょうがないなぁ。」
 眠ってしまったカズに、カンナは、苦笑し、膝を貸し、膝枕をしてあげたのだった。
 
 

 
後書き
生まれた段階から歪な存在であるため、都合良くはいかない。
グリーフシードを食べるたびに強くはなるけど、その代償に……。

カズにとって、カンナがすべて。生きるも死ぬも。
そしてカンナは…? 
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