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ヒュアデスの銀狼

作者:蜜柑ブタ
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SS3  食べちゃいけないメインディッシュ

 
前書き
プレイアデス聖団との遭遇?


でも、姿は見せてないので未遂。 

 

「まただ…。」
 カオルは、廃ビルの中を見回し、転がっていた洗剤を蹴った。
「反応は?」
「……先日と同じね。」
 海香がソウルジェムを片手に持ち、その場の魔力の名残を調べていた。
「ってことは、例のオオカミの魔獣?」
「おそらくは。」
「また先を越されたってことか…。」
 二人は、近頃、あすなろ市で出没するオオカミの魔獣が、魔女を襲い、グリーフシードを奪っていく(実際には食べている)事件について調べていた。
 彼女らは、プレイアデス聖団と名乗る魔法少女の集団の一員である。
 あすなろ市を中心に活動しており、当然だが魔女退治もやっている。
 ただ、他の魔法少女達と違う点は……。

『魔獣か。魔女とどう違うのか見てみたいものだね。』

 体と耳と尻尾は黒、顔は白の体色をした愛らしい猫ぐらいの大きさの動物が現れた。
『それにしてもグリーフシードごといなくなっちまうなんて、これじゃあオイラの食い扶持がなくなっちまうよ。』
「そこが不可解なのよね…。」
 海香が言った。
「時々グリーフシードを落とさない魔女はいるけれど、ほとんどの魔女は倒されればグリーフシードを残す。やっぱり、グリーフシードごと食べられた? っと考えるべきかしら?」
「『悪い子のところには、オオカミが来るよ』…か。その悪い子ってのは、魔女のことなら、お話のヤギの子みたいに丸呑みされたってことか。」
 カオルが、気分悪そうに頭をかいた。

「ううん。きっとズダボロにされてから食べられたんだよ。ムシャムシャとね。」

 そこへ、残るプレイアデス聖団の一員達がやってきた。
 里美、みらい、ニコ、サキ、全員魔法少女である。
「どうだったの、そっちは?」
「反応は、前と同じ。きっと、オオカミの魔獣の仕業。」
「そっちもか…。」
「やっぱり、噂の出所を調べた方がいいんじゃない?」
「魔獣を見た者、遭遇した者は死ぬという噂だ。情報は不確かだが、用心するに越したことはない。」
「けど、こうして、調べてる内に遭遇しちゃったら…?」
「だからこそ、用心してるんだ。もしも、一人になったところを襲われたら、確実に死ぬだろう。」
 確認できているだけでも、4件の魔女がオオカミの魔獣に喰われて消えているのだ。
 あすなろ市を中心に、活動しているらしいことは、今日までの調べで分かったことから、オオカミの魔獣があすなろ市にいることはほぼ確定だろう。
「それに……。」
 あとひとつ気になる話があった。

 それは、魔法少女の行方不明。

 魔法少女は、その性質上死んだとしても遺体ごと失われる可能性が高い。
 知人である別の地区の魔法少女から、また人づてで聞いた話なので、あすなろ市を中心に広がっているオオカミの魔獣の話より確証は薄い。
 プレイアデス聖団は、魔法少女がいずれ魔女になることを知っていた。
 だからこそ……、それを覆す方法模索していた。
 それがどれほどに残酷な方法だということを、彼女らが分かっていてるのかは、分からない。
「ともかく、単独での行動はできる限り控えよう。もし魔法少女の行方不明が、オオカミの魔獣の仕業なら危険だ。」
 サキがそう締めくくり、一同はその場から撤収することにした。
 しかし、カオルだけが、その場に少しの間残った。
「……この魔力…、どこかで?」
 そのほんの少しの間だった。
 グニャリッと空間が歪んだ。
「なっ!?」


『悪い子のところには、オオカミが来るよ』

「この声…! まさか!?」

『悪い子は、オオカミに食べられちゃうよ』


 カオルは、一瞬のうちに魔法少女としての姿に変じた。
 すると、グルルル…っといううなり声が聞こえ、空間が、楽園のような世界へと変わろうとして……。
 元に戻った。
「はっ?」
「カオル!」
 異変に気づいたらしい仲間達が駆けつけてきた。
「い、いま…。」
「ああ、聞こえたよ。」
「ほ、本当にいたんだ…!?」
「姿は見た?」
 ニコが聞くとカオルは、首を横に振った。
「噂は本当だったんだね…。でも…。」
「多勢に無勢と思って逃げた?」
「それはそれでおかしくない?」
「……けど、これでハッキリした! オオカミの魔獣の根城は、このあすなろ市にある!」
「居場所さえ絞れれば、あとはつまみ出すだけだね。」
「か、勝てるのかな?」
「やるっきゃないよ! いくら魔女を駆除してくれるからって放っておいていいとは思えないし。僕らが力を合わせれば絶対勝てるって!」
 心配する里美に、みらいが強きに言った。
「…あのさぁ……。」
「とにかく、また襲ってくる前にいったんここを離れよう。今度は離れないように。」
 カオルが何か言いかけたが、サキの言葉に阻まれ言えなかった。
 カオルは、一瞬だけ自分の背後を見つめ、それから全員でその場から離れていった。




 プレイアデス聖団が、いなくなった後……。

「だめじゃない。カズ。」
「ごめん…。」
「アイツらは、メインディッシュであり、デザートなんだから。最後に食べなくちゃ。美味しいモノは、最後に取っとかないと。」
「…カンナ、オレのこと嫌い?」
「もう、どうしてそうなるの? 一回や二回の失敗で見捨てたりしないよ?」
 泣きそうな顔をするカズの頭を、カンナが撫でた。
「だから、次からは気をつけてね?」
「うん…。」
「けどどうしようかな~。アイツに、オオカミがこの市にいるってことがバレちゃったから…。」
「ごめん…。」
「もういいの。バレるのがちょっと早くなっただけって思うから。」
「うっ。」
 何度も謝るカズのおでこを、カンナがデコピンした。
「でも、そろそろ、いいよね。」
 カンナは、口元を歪めて笑った。
「そろそろ、私達も動こう。そのための“スパイス”は出来てる。」
 そう言ってカンナは、ポケットからグリーフシードに似てるようで似てない、奇妙な種のようなモノを取り出した。
「それは…。」
「イーブルナッツ、とでも名付けようか。さっきの奴らの中の二人の魔法を使って、作った、グリーフシードの贋物みたいなものよ。こいつを移植すれば、魔女もどきが簡単にできあがる。でも、これは前菜に過ぎないからね。食欲を増進させる前菜があって、初めてメインディッシュが引き立つんだから。」
 アハハハっと、カンナは、腹を抱えて笑った。
「そのためにも、まずは『かずみ』を強奪して迎える準備もしなくっちゃ。」
「かずみ…。」
「そんな顔しないで。だいじょうぶ。あなたの“妹”は、私達が迎え入れなきゃ。そうでしょ?」
「…うん。」
「きっと喜ぶはずだよ。“お兄さん”がいるって聞いたら。だから、そのためにも、カズは死んじゃダメ。全人類を滅ぼして、私達ヒュアデスが繁栄するためにもね。いい?」
「分かった。」
「良い子ね。カズ。私のオオカミさん。」
 カンナは、ニッコリと笑って、カズの頭を抱きしめた。
 カズは、カンナの胸に顔を押し当てる形になり、その温もりに身を委ねるように目を閉じた。


 
 

 
後書き
あすなろ市にいることがバレる。
でも遅かれ早かれバレることは分かっていたので、次回からは漫画本編かも。 
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