提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・40
~金剛:英国式ティータイムセット~
「さて、セットって位だから恐らくはアフタヌーンティーの事だろうな。細々準備が必要だが……頑張りますか」
何せ恋女房の為だ。他の奴には悪いが気合いの入り方が違う。
~一方その頃、執務室の外では……~
「いいですカ?チャンスは一度きり。darlingの事デスから一回逃したらもう捕まってくれないヨ?」
「任せろ、このビッグセブンしくじる事は……あんまりないぞ!」
「おい長門、そういうのをフラグと言うんだぞ?」
「あらあら、何だかんだ皆やる気なのね?」
「まぁ、たまにはこういうお祭り騒ぎもいいんじゃないですか?ねぇ加賀さん」
「そうですね。いつもやられっぱなしは正直癪なので」
「ベッドの上だと全敗だけどね……」
「時雨、そういうのは言わないお約束っぽい」
「ふふふ、合法的に提督に抱き付くチャンス……!」
「あらぁ~?高雄、目が血走ってるわよ~?」
……怪しげな集団が何かを企んでいた。
『それ』が部屋に飛び込んできた瞬間、俺は咄嗟に目を閉じ、耳を塞いでいた。投げ込まれたのはM84スタングレネード。アメリカ軍で正式採用されている非殺傷兵器……所謂フラッシュバンって奴だ。起爆すれば170デシベル以上の爆音と、100万カンデラの閃光を撒き散らす。防護していない相手に対しては突発的な目の眩み、難聴、耳鳴りを発生させる割とえげつない代物だ。ボン、という炸裂音と共に瞼の向こうで閃光が瞬くのを感じる。指を突っ込んで耳を塞いだが、完全な防御にはなっていないせいで耳がキンキンしやがる。三半規管も揺さぶられたせいで、軽い目眩もあるな。こりゃあどっかの組織の襲撃か?なんて思ってたら、ドアの向こうから何人もの人影が飛び出して来やがった。
「ヘイdarling、大人しくするネー」
「こ、金剛!?テメェ何のつもりで……!」
「すまんな提督、暫く拘束させてもらう」
長門がそう言いながら、俺を紐でぐるぐる巻きにしていく。あ、これ明石が作ってた強化繊維じゃねぇか!?……って締め付けが強すぎて痛いんだが!?俺縛る趣味はあっても縛られる趣味は無いんだが(錯乱)。
「おいこらメスゴリラ、幾らなんでも締めすぎだ。……まぁ、提督の事だから緩めたら逃げそうだしな、そのままにしておけ」
「む、武蔵テメェもか……」
どうにか逃げようともがいていると、近寄ってきた武蔵に手錠を填められた。
「大人しくして下さい、提督」
「動くと撃ちますよ?……麻酔弾ですけど」
俺を拘束している一団の後ろでは、赤城と加賀が此方に銃口を向けていた。……え、何これクーデター?
「darlingには暫く大人しくしててもらいマース!……ゴメンね?」
金剛は申し訳なさそうな顔をして、俺にヘッドホンを装着し、その上から袋を被せて視界を奪った。取り敢えず、大人しくしてればこれ以上事態は悪化しないみてぇだし、暴れないでおくか。
今俺が置かれている状況を説明しよう。ロープでぐるぐる巻きにされ、手錠を掛けられ、頭にはヘッドホンと麻袋を被せられた状態で手を引かれて歩かされ、何処かの椅子に座らされた。その最中、ずっと背中にデカいクッションが押し付けられてたんだが……ありゃなんだ?まぁそれはいい。座ったままで目隠しも外されないまま、ヘッドホンからは那珂の奴が自費で出してる曲のニューシングルが延々とリピートされている。洗脳かな?いや、マジでクーデターとかなら洒落にならないんだが。と、延々と流されていた那珂の歌が止まり、ヘッドホンから声が流れ始めた。
『ヘイdarling、元気ー?』
「よく言うぜ、拉致った犯人がぬけぬけと……」
どうやら、金剛の奴がマイクとヘッドホンを繋いだらしい。
『あはは、あのくらいしないとdarlingの抵抗は止められないと思ったネー……やり過ぎ?』
「……いや、速攻で抑え込まれなければ何人かは返り討ちにしてたと思うぞ?」
縛られたのは上半身だけだったから、蹴りは撃てたしな。幾らでもやりようはある。
『あ~……まぁ、こっちの準備も出来たし、そろそろネタバラシの時間デース!』
金剛のかけ声と共に、麻袋がガバッと外される。外に連れ出されていたらしく、目に差し込む陽の光が眩しい。そして目の前には……
「ふふーん!私のリクエストの『英国式ティータイムセット』だヨ~!」
どや顔の金剛が説明する通り、大きめの円卓にティーポットやカップ、茶菓子等が所狭しと置かれている。
「おぉ……ってお前らが用意したのか」
「That's right!シークレット&サプライズネー!ビックリした?」
「ビックリどころか死を覚悟したわ」
流石の俺も艦娘全員が敵に回ったら勝ち目がない。個々には潰せても、やがては物量差でじり貧だろう。
「Oh……サプライズが過ぎたネ」
「当たり前だ、阿呆が」
「ううぅ……だって、今日はdarlingのバースデーだから」
「あん?……そうか、今日は俺の誕生日か」
言われて思い出した。今日は9月29日ーー俺の誕生日じゃねぇか。忙しすぎてテメェの誕生日忘れるとか、マジか。全く、いつの間にやら俺もヤキが回ったもんだ。
「はぁ……安心したら喉乾いたな。金剛、紅茶くれ」
「あれ、コーヒーじゃなくていいの?」
「お前のリクエストは『英国式ティータイム』だろ?今日くらいは嫁さんの趣味に付き合ってやるさ」
「OK!じゃあ急いで淹れて来るヨー!」
鼻唄混じりでご機嫌だねぇ、ったく。
「はいdarling。私の特製ブレンドだよ!」
「おぉ、香りが良いな。……これブランデー入れてあるだろ?」
一口飲んで解ったが、紅茶にブランデーが入れてある。というより、ブランデーの香り付けに紅茶が入れてある位の割合だろ?コレ。
「一応まだ執務が残ってるんだが?」
「大丈夫です、司令」
「霧島!?……って、何だその格好」
霧島が俺の背後に立っていた。それも、メイド服で。……あ、ミニスカじゃなくてクラシカルな方な、一応。
「提督への誕生日プレゼントにと、皆さんが分担して執務をやってくれています」
榛名もメイド服か。大人しめな雰囲気も合わさって、お淑やかな感じだ。
「あの……榛名のメイド服、変……ですか?」
「いんや、全然。むしろ似合ってるぞ?霧島もな」
「サラッと既婚者を口説くのは止めて下さい、司令」
「おいおい、褒めただけで口説いた事になんのか?」
「まぁ、darlingはスケコマシだからネー」
「おい本妻コラ」
人をハーレム野郎みたいに言いやがって。違うぞ俺は。
「しかし、こんだけの量をよく一人で作ったなぁ」
テーブルの上には様々なお菓子や軽食が乗せられている。
「あ~……実を言うと、私が作ったのはまだテーブルの上には無いんだよネ」
「はっ?」
「これは、鎮守府の皆がdarlingの誕生日をお祝いしたいからって、分担して作った……言わば皆の力とLOVEの集大成なんだヨー!」
「まぁ、darlingの作るお菓子や料理よりは美味しくないかもしれないけど、それはご愛嬌ネ?」
「お前ら……」
思わずジーンときて、視界がぼやける。
「あれあれ~?darling泣いてる?感動しちゃった?」
「ば、バッカお前俺がそう簡単に泣くか!」
「あ、私のはバースデーケーキだよ!腕によりを掛けて作ったから、期待してネー!」
「にしたって量が多過ぎねぇかコレ」
「それが英国式ティータイムネー!お菓子や軽食を摘まみながら、ゆっくりとお茶を楽しむ……あ、全部のお菓子に手はつけてね?残したら悲しむよ?」
「これって新手の拷問じゃね……?」
その後、俺は数時間を掛けて皆の作った菓子と金剛のバースデーケーキを平らげた。当分甘い物は見たくない。
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