ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第61話:Revenge
エックスは夢を見ていた。
これは最初のシグマの反乱が終わり、エックスが第17精鋭部隊の隊長に就任して数ヶ月後位の時だ。
エックスはシグマの部屋であった隊長室のデスクで休憩をしながらある物を見つめていた。
それはかつての同僚であるブーメル・クワンガーのDNAデータであった。
じっとそれを見つめていたエックスはそれを握り締めて彼のいる場所に向かう。
『やあ、ビートブード…』
最近ハンターベースの屋上にいることが多いらしいビートブードの元に足を運んだ。
そう、ビートブードはこのクワンガーのDNAデータのプログラムの基本構造が同じ…つまり兄弟なのだ。
シグマの反乱の際にクワンガーとは違って反乱に加わらなかったことでビートブードは監視が付きながらもハンターとしてやっている。
『あ、エックス…隊長…』
『今は隊長と言わなくて良いよ…今回は個人的なことだから…それにハンター歴は君の方が長いだろう?』
『そうか、じゃあ言葉に甘えて……今更だけど隊長就任おめでとうエックス。遅くなって悪かったな…中々監視が厳しくて自由に動けなくて個人で言う時間が取れなかった』
『いや、良いよ…正直…こんな地位よりも欲しくて…大切なものが…いない』
『………エックス、でもルインと…ゼロは反乱での功績で特別に復活が認められてるんだろ?なら、何時か戻ってくるさ』
『ありがとう…君に会いたかったのはこれを君に渡すためだ』
エックスがそっと差し出した物にビートブードは目を見開いた。
『!?これは兄貴のDNAデータ!?』
『ブーメランカッターのデータは武器チップにインストールして保管しているから…このデータを何時までも俺が持っているのもどうかと思って』
エックスはバスターの端子にDNAデータを組み込み、そのデータをバスター内の予備の武器チップにインストールすることで特殊武器の使用が出来るようになる。
つまりブーメランカッターのデータをインプットした武器チップがある時点でエックスがこのDNAデータを持っていても意味がないのだ。
『貰っていても良かったのに…その武器チップが破壊された時とかの為に…』
しかし万が一と言うこともあり、その保管している武器チップが破壊された場合は二度とブーメランカッターが使えなくなると言うことも有り得るのだが、エックスは首を横に振る。
『DNAデータは…レプリロイドにとって頭脳チップと同じくらい大切な物だ。それを他人の俺が持っていていいはずがない』
『そうか…ん?それはルインの…エックスが使ってるって本当だったんだな…』
『うん…我ながら女々しいと思うけどね…』
腰にあるルインの武器に触れて悲しげに微笑む。
『なあ、エックス…例外以外でのレプリロイド再生を禁じる法律が無かったら…なんて思ったことないか?』
『あるよ…出来ることなら…みんなに生きていて欲しかった…』
『そうか…そうだよな…』
苦笑しながらビートブードはDNAデータを握り潰す。
『……良いのか?』
『良いんだ…エックスが不要なら本当に使い道がないからな…』
そうして背中を向けるビートブードにエックスは声をかけられずに静かに屋上を後にした。
「ん…夢…か…?」
エックスは目を覚ますと周囲を見渡す。
エックスは甲虫型の戦艦空母であるビッグ・ビートルにゼロと共に乗り込んだのだが、いきなりに闇に吸い込まれて意識を失って現在に至る。
「ここは…空母の中か?とにかくゼロと合流しなければならないんだが…拘束されているようだし…」
両手両足を拘束されて身動きが取れないエックスに声がかかる。
「お目覚めですかエックス隊長?」
聞こえてきた声は久しぶりに聞くものであった。
「この声は…?君はゼロが戻ってきてから行方不明になっていたビートブードじゃないか!!ゼロに何をしているんだ!?」
ゼロは拘束された状態で頭を開かれ、電子頭脳が露の状態にされていた。
電子頭脳にはコンピューターから伸びる複数のケーブルが繋がっている。
「見て分かりませんかエックス隊長?このコンピューターには兄貴の性格プログラムがインプットされているんです。俺は兄貴を復活させる…ゼロのボディを使って!!」
「クワンガーの復活だと…?それをゼロのボディで!?止めろビートブード!!そんなことをしてもクワンガーが戻ってくる訳じゃ…」
「黙れぇ!!兄貴を殺したゼロが戻ってこれて…兄貴が戻ってこれないなんてあってたまるかあっ!!ゼロが死んでいた時はまだ我慢出来た!!兄貴を殺した奴がいないなら恨んでも仕方がないって…それなのに前の戦いで何事もないかのように戻ってきて間を置かずに隊長に就任して華々しい活躍をしている…これを恨まずにいられるかあっ!!」
ゼロがカウンターハンター事件から戻ってきてからずっと抑えていた憎しみが吐き出され、エックスは思わず閉口してしまう。
「…はあ…はあ…エックス隊長…取り引きをしましょう。あんたには色々便宜を図ってもらったから、出来れば殺したくない…兄貴の復活を見逃してくれれば俺はハンターベースやシティ・アーベルには手を出さない。だが、あんたが俺と戦うのなら俺はあんたを殺してシティ・アーベルを破壊する」
「その選択肢なら答えは1つ…ビートブード…君を止めて…ゼロを助ける!!それだけだ!!」
何とか強引に拘束を破ってエックスはビートブードと相対する。
「そうか…後悔するなよエックス!!バグホール!!」
「バグホール…こいつは確か…」
「そう!!俺は兄貴と違って機動性能は低いがそれを補って有り余るパワーとブラックホールを操る力があるんだ!!」
放たれたバグホールのブラックホールは着弾地点の物質を吸収して消滅する。
「く…っ!!」
「俺がハンター時代に能力の使用をマンドリラー以上に制限が課せられていた理由を思い出したか?それからバグホールにはこういう使い方もあるんだ」
複数のバグホールを展開し、そこに勢い良く腕を突き出すと…。
「ぐあっ!?」
突如、何もない空間からビートブードの腕が飛び出してエックスの横面に突き刺さる。
「バグホールは空間同士を繋ぐワープホールを作り出すことが出来る。さっきのように遠距離から対象を殴り飛ばすことも出来るのさ!!うおおおおおっ!!!」
ビートブードが連続でワープホールに拳を振るい、エックスを遠距離からあらゆる角度で何度も殴り付ける。
「ぐああああ…!!(つ、強い…能力が使える状態ならハンター最強格の1人かもしれない…!!)」
「どうしたエックス!?このまま殴られて終わりか!?俺の知ってるお前はそんなんじゃなかったぜ!!」
「っ!!まだまだ!!」
ビートブードの拳がワープホールを経由して飛び出すには僅かなタイムラグがある。
何とか攻撃を耐えてダッシュでビートブードに接近しようとする。
「(ビートブードはパワー型のレプリロイドで機動力はそんなに高くない…だからこうやって距離を詰めれば)」
「かわせないと思ったら大間違いだ」
足元にワープホールを出現させて別の場所に移動するとエックスに小型のバグホールを連射する。
「っ!!」
「さあ!!このブラックホールの弾幕をどうかわす!?」
一発でも当たれば当たった部位が持っていかれる為にエックスはそれを必死にかわす。
「(これを受けるわけにはいかない。まともに受けてしまえば簡単に戦闘不能にされてしまう!!)」
「ふん、まるで独楽鼠のようだな。このまま逃げていても俺は倒せないぞ」
「(思い出せ!!バグホールの性質は闇…ビートブードの弱点…ビートブードの属性とは真逆のこれなら…!!)レイスプラッシャー!!」
タイガードの武器を選択し、バスターから光のエネルギー弾を連射する。
「何!?タイガードの武器だと!?」
光のエネルギーとブラックホールのエネルギーはほぼ同等だったのか相殺され、残りの弾はビートブードに直撃する。
しかもそのうちの一発は顔面に直撃したのか、あまりの光量にビートブードはアイカメラのダメージに耐えられずに目を押さえて悶える。
「ぐあっ!?目が!!目がああああっ!!!?」
「ビートブード!!お前をドップラーから解放してやる!!いけえっ!!」
悶えているビートブードにチャージショットが放たれ、それは頭部に掠る。
それにより、頭部に寄生していたワームが破壊される。
ワームが破壊されたことでビートブードは倒れるのと同時に正気を取り戻してこちらに駆け寄ってくるエックスを見上げる。
「エックス……」
「ビートブード…」
「兄貴のことは…ケリを着けたつもりだったんだ…でも、やっぱりゼロのことは心の何処かで許せなかったんだろうな…頭では分かっていたんだ。悪いのは兄貴だ…ゼロじゃないって…けど、レプリロイドの持つ“心”がそれを認めなかったんだ…そんな気持ちを抱えていた時にドップラーにドッペルタウンに招待され、ドップラーに言われたんだ。“心に従えばいい”と…そしてワームによって俺の心の底に封じていた憎しみは解放された…なあ、エックス…俺達レプリロイドはどうして“心”を持ってるんだろうな…メカニロイドのようなプログラムだけで動くならこんな気持ちを抱えずに済んだのに…」
「ビートブード…」
今まで心の底に封じ込めていた気持ちを吐露するビートブードにエックスは何も言えない。
「さあ、エックス…撃ってくれ…俺はイレギュラーだ…お前はイレギュラーハンターとしての責務を果たしてくれ……」
エックスはバスターをビートブードに向けるが、少し考えた末にバスターを元の腕に戻す。
「エックス…?」
「君を操っていた原因は破壊した。君は破壊する理由はない…それに…俺達には君が必要なんだ。」
屈んでビートブードに手を差し出すエックス。
「俺が…?」
「第17部隊のみんなが君を必要としている。行方不明になった君の帰りを待っていてくれる人もいるんだ。だから生きてくれ…君を必要としてくれているみんなの為にも」
その言葉にビートブードは腕で顔を隠すと掠れた声で言う。
「こんな状態でお前の優しさは…反則だぜ…エックス…」
エックスの差し出した手を掴むと、ビートブードは降伏して連行されていった。
ゼロも解放され、メンテナンスルームで修理を受けていた。
「ゼロ…大丈夫か?」
「ああ、しかしクワンガーの性格プログラムがあったのならエックスが目覚める前にやれば簡単だったはずだ…それなのにやらなかったのは…あいつ自身…あのチップに支配されながらも迷っていたのかもな…あいつの最後の良心に俺は救われた訳だ」
「ゼロ…」
「俺達は相手を憎むことが出来る。そして尊敬し、友情を抱くことも…俺達レプリロイドは心があるからな…お前達の甘さが移ったのかもしれないが…そんな自分が少し好きになってきた…心があるからこそ俺達は会えたんだ」
「うん、そうだね…(だよな、ルイン…)」
エックスとゼロもこの場にはいない彼女を思いながら穏やかな一時を過ごすのであった。
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