ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第60話:Remain
ナマズロスの騒動からしばらくして、水が無くなると言う異常事態が発生した。
収穫の時を待っていた作物は全て枯れ果て、街は熱気と乾燥に包まれて生気を失っていた。
生き物は水と涼を求めてさ迷うが、死に絶える者も出始めた。
しかし唯一の例外があった。
それはモナークダムと言う世界最大の規模を誇る巨大ダムであり、本来下流に送られるはずの水がここに塞き止められていた。
そしてエックスとゼロは現在、モナークダムの上流を泳いで移動していた。
「今回のこともドップラーの手下の仕業だろうけど、何時にも増して残酷な手口だ」
しばらく泳ぐと水門に差し掛かる。
「水門だ」
「流石に厚いな」
「穴を開ける。そこから入るぞ」
アースクラッシュで水門に風穴を開けると、エックスとゼロは奥に進む。
「こんなこと…絶対に許しはしない……ん?これは…」
「ほう」
エックスとゼロが進んだ先には珍しい物があった。
「ちょっとしたタイムトラベルだね…1990年代の街並みだ。」
「ああ」
「ライト博士が生まれる前の物なのかな?俺、初めて見たよ」
「それとも田舎だったかのどちらかだろうな…まあ、それはそうだろう。この街を保存しておく理由もないし、作り直すよりも沈めた方が楽だからだろうな」
「でも正直勿体無い気もするんだよね。温故知新とも言うし、昔の人々がどのような生活を送っていたかを今の時代の人々に教えると言う意味でも俺は残しておくべきだと……!!?」
突如背後から頭を鷲掴みされたエックス。
「エックス!!」
ゼロがセイバーで腕を両断するが、腕は水に溶けるように消えていく。
「何なんだこいつは…?エックス、大丈夫か!?」
「う、うん…遺跡に気を取られ過ぎていたね。ここは敵のフィールドなんだ…奇襲されてもおかしくは…うわあっ!?」
背後から忍び寄っていた敵が尻尾をエックスの足に絡ませると、そのまま引き摺る。
「エックス!!凄い泥だが、見失ってたまるか…」
泥で視界が悪くなるが、アイカメラのセンサーでエックスの熱源を発見し、そこにセイバーを投げる。
「ゼロ!!」
「そいつに捕まれ!!」
セイバーの柄を握って、足に絡み付く尻尾を振り払う。
「大丈夫か?」
「うん、何度もありがとう…」
「奴め、何処に潜んでやがる…水中では完全な奇襲を行うのは不可能に近いと言うのに…」
レプリロイドは機械であるために水中で冷やされないように常に温度調整が行われるので水中での奇襲はほぼ不可能に近い。
「油断出来ないな…」
横から飛び出した尻尾で殴り飛ばされたエックスは家の中に飛び込んでしまう。
「自分で言っていてそれか?しっかりしろ……っ!?」
尻尾で足を掬われたゼロも家に飛び込む羽目になる。
「しまった!!くそ、人のこと言えないな…」
「ゼロ!!向こうの家にいる!!」
エックスが指差した先には奇襲をかけた者のだと思わしきレプリロイドがいた。
移動して家中を捜すエックスとゼロだが、敵は見当たらない。
「くそっ、奴め…何処に行った?こっちの部屋か…?」
「また水に溶け込んだかもしれない…」
「一体…何処に…ぐあっ!?」
「ゼロ!?」
突如左肩に激痛が走り、ゼロは左肩を見遣ると左肩のアーマーが溶解していた。
「これはバブルスプラッシュと同じ強酸だ…」
「突然穴が開いたということは奴は外か!!行くぞエックス!!」
「ああっ!!」
家を飛び出して追い掛けるエックスとゼロ。
舞い上がる泥によって敵が進んだ場所が分かるのは幸いで、辿り着いたのは旧世代の学校であった。
「これは旧世代のスクールか…」
「ここいらでかくれんぼは終わりにしたいものだな」
『君達に忠告しよう。このまま帰れば私は一切の手出しはしないでおこう。しかし君らが無粋な戦いをするのなら私は一切の容赦はしな…』
ゼロはバスターを構えてスピーカーをショットで破壊する。
「容赦をしてもらうつもりはない」
『戦いを求める愚民めが…私の聖地を汚すと言うのか』
別のスピーカーから声が流されるが、ゼロは忌々しげに見上げる。
「愚民ときたか、卑怯者の癖に」
『この時の止まった静寂の地に…戦いを招く無粋な者めら。あくまで退かぬと言うのなら…』
水とは違う液体が集まり、形を作っていく。
「このアシッド・シーフォースが、この悠久の水底に君達の無駄口を沈めてあげよう!!」
タツノオトシゴを彷彿とさせる容姿を持つレプリロイドの姿となった。
「液体が…まさか奴のボディは液体金属なのか!?」
「なら、液状化する前に叩き斬るだけだ!!」
水の浮力を利用した跳躍でシーフォースとの距離を詰めてセイバーを振り下ろす。
それによってシーフォースは縦に真っ二つにされたものの。
「そんな攻撃では私は倒せませんよ」
真っ二つにされた体はくっついて元通りになる。
「私のボディは液体金属…あらゆる攻撃を無力化します。力で全てを捩じ伏せようとする下品な思考…そんな心の持ち主に私は倒せません。それ以前に私は既に死んでいるのですから…無意味な戦いを挑んだことを後悔なさい!!」
ゼロに向かって酸弾を発射するシーフォース。
「みんなの生活を取り戻す戦いが無意味だとは思わない!!何の理由があるのかは知らないが…こんな残酷なことをするお前は許さない!!」
エックスはショットで酸弾を相殺し、バスターやセイバーが効かないのならと、回し蹴りをシーフォースに叩き込む。
しかしシーフォースは液状化することで衝撃を無力化し、腕を固体化させると頭を鷲掴んで下に叩き落とす。
教室に落とされたエックスは何とかシーフォースから逃れる。
しかしシーフォースが再び酸弾を放ってきた。
「くそっ、ええい!!」
机で酸弾を防ぐが、立て続けに放たれる酸弾にエックスは机を手放して回避に徹した。
「エックス!!大丈夫か!?」
「ああ、何とか…でもこのままじゃ…」
「ああ、何とか奴が水に溶け込むのを防がないとな…」
「それだけじゃ駄目だ。奴の液体金属の特性を活かした液状化をどうにか……ん?」
そう言えば、以前液体金属の話をルインとして、こんな会話をしたことがある。
『液体金属は冷気に弱いそうだよ。液体である金属を固体・液体化させるために特別性のコントロールユニットを使ってるせいで急激な温度の変化に弱いみたいだね。まあ、元々液体だからなのもあるんだろうけどさ』
「(ならばあいつを固めればいい。まずはこの水をどうにかしなければならない。)」
「くそ、奴はすぐ横にいるかもしれんのか」
「ゼロ、1つ策があるんだ。このダムの水を…最低でも膝下くらいまで一気に抜きたい…アースクラッシュで水門に大きな穴を開けて欲しい」
「策があるなら試してみるか。このままでは奴は倒せんからな…少し荒っぽいがな…ダブルアースクラッシュ!!」
両腕にエネルギーを収束させ、両拳を地面に叩きつけると2つの衝撃波が水門に向かっていき、そのまま水門に大きな風穴を開けた。
それにより水門によって塞き止められていた水が一気に流れていく。
エックスとゼロは流されないように近くの鉄棒に捕まっており、水の流れが治まると、シーフォースの姿を発見した。
「よくも…私の…私達の…聖地を…台無しにしてくれたなぁーっ!!」
怒りを露にするシーフォースに対してダブルアースクラッシュの反動でふらついているゼロを支えながらエックスはある特殊武器を選択する。
「…………」
「君達の浅知恵のせいで私達の心は深く傷つけられた…その罪は君達の“死”で償ってもらう!!」
シーフォース液状化すると膝下の水に紛れようとする。
「さあ、姿が見えない私からの攻撃で死の瞬間まで恐怖するがいい!!」
「くそ!水は完全には引かないのかっ!!」
「いや!これでいい!!俺達の浅知恵はまだ終わってはいない!!フロストシールド!!」
氷弾を連続で発射してシーフォースがいた場所の周囲に着弾させて撒菱を展開する。
「それはバッファリオのフロストシールドか?そうか、ブービートラップか!!フロストシールドの隙間から抜け出ようと奴がフロストシールドに触れた瞬間に…」
液体金属が冷気に冷やされたことで固体化し、シーフォースの液状化が解除されてしまう。
「か、体が凍っていく!?」
「終わりだ!!」
チャージショットを放って頭部に掠らせると、電子頭脳に巣食っていたワームが破壊された。
チャージショットの衝撃で氷が砕かれるのと同時に液状化をするシーフォース。
「何?逃げられるのか!?」
「頭部を強打したのにまだ動けるのか!?でも、メインプログラムとコントロールユニットに異常があるようだ…水に同化出来ていない…」
液状化した金属は水に浮かんだまま、何処かへと向かっていく。
「とにかく追うぞ!!」
「あ、ああ…(シーフォースを突き動かしているのは一体何なんだ…?無理をした再起動出来なくなる状態なのに…)」
液体金属のレプリロイドは普通のレプリロイドよりもずっと繊細なために無理な運用をすると再起動が出来なくなるのだ。
シーフォースを追い掛けると、巨木の前に出た。
「ダムの底にこんな巨木があったのか…?」
「奴はあの上か…」
「あの上に何が…」
壁蹴りで巨木の上に登ると、水草が足場となっていた。
「木の上は水草で出来た草原なのか」
足場になるほどに生い茂った水草に年月の経過を感じるエックスだが、シーフォースを発見したゼロが叫ぶ。
「エックス!!シーフォースがいたぞ!…ん?奴の行く先にあるのは?」
「え?あれは…」
シーフォースが向かう先には機能停止した女性型レプリロイド。
彼女の体を抱き締めると液状化を始めた。
「シーフォース!!その状態でそんなことをしたらメインプログラムが復帰不可能になるぞ!!」
止めようと駆け出すエックスだが、ゼロに肩を掴まれて止められる。
「ゼロ!?」
「帰投するぞ」
「シーフォースはどうするんだ?」
「これ以上は無粋だろう。それにダムを占拠していたあいつはもういない。ここにいても時間の無駄だ」
「…………」
エックスは思い出していた。
シーフォースがこの遺跡を“聖地”と言っていたことを。
“自分は既に死んでいる”と言ったことを…。
しかしその言葉の本当に意味することはもう知る由もなかった。
…その後、再びダムは本来の機能を取り戻し、遺跡は静かな眠りについた。
そして誰も知らない…。
メタルリキッドに抱かれたレプリロイドが優しく佇んでいるのを…。
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