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オルフェノクの使い魔

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外伝
  オルフェノクの使い魔でヴァレンタインデー

「サイト殿、何かいいイベントはないものかのぉ?」

「あ? また、ダンスパーティでもしたいのか?」

「いやいや、ダンスは腰にきて、この老体ではそろそろつらいんじゃよ」

「そうか、そうだなぁ……」


***** オルフェノクの使い魔でヴァレンタインデー *****


サイトは厨房に現れ、料理長であり、平民のリーダー格であるマルトーを呼んだ。

「臨時のボーナスは欲しくないか?」

「ハッ?」

サイトは今度やるイベントについての説明を始めた。

「実は、ヴァレンタインというイベントをやることになった」

「ばれんたいん?」

「まぁ、簡単にいえば、女が好きな男にチョコレートを贈るというものだ」

「それが、どうして臨時のボーナスにつながるんだ?」

「貴族は食べること専門でつくることに関しては問題外だ。まぁ、例外は少なからずいるだろうけどな。で、そのイベントをやるため、わざわざ、遠くから取り寄せるとなると、やれ、どこどこのがいい、などと言い出すアホが出てくるだろうから、ここで一括してつくってほしい。というのと、貴族の女子どもにチョコレート作りの講義を行ってもらいたい。詳しい内容は、後ほど話す。
この件は拒否することもありだが」

「いいぜ、乗った! その話! いつも威張っていやがる貴族のボンボンがおれたちに教えをこいに来るんだろ? 楽しみだ」

「じゃあ、詳しい内容だが……」


―――――――――――――――――――――――――――――


「サイトくん、こんな感じでいいのかね?」

「ああ、厚みも予定通りだ」

マルトーに説明し、彼と少し相談をしてからサイトはコルベールのもとに向かい、イベントについて話した(ただし、“好きな男”に贈るではなく“日頃お世話になっている男”に代えて)。それを聞いたコルベールは女性からプレゼントがもらえると気合を入れて手伝いを了承した。
サイトはコルベールに厚めの金属の板を練成させた。

「少し離れてろ」

「ああ」

コルベールが下がったのを確認して板を睨みつけ、指を鳴らした。直後、板の一か所がハート型に繰り抜かれた。

「おお!! やはり何度見ても、すばらしい切れ味ですな」

コルベールは、興奮しながらハート型の金属を拾った。

「離れろ! まだ終わってない」

コルベールが慌てて下がると、サイトは再び指を鳴らした。ハート型に繰り抜かれた部分からまた、ハート型が繰り抜かれた。

「なるほど、ここにチョコレートを注げば、誰がやってもきれいなハート型というわけですな?」

「ああ。
だが、ほかの形も必要だし、大きさも変えないとな。まだまだいくぞ?」

「了解しました」

「あ、そうそう、ここに名前書いてくれないか?」

頷いたコルベールにサイトは一枚の紙を渡した。

「これは?」

「今回の協力者リスト。あとで、オスマンのジジィがボーナスくれるそうだ」

納得したらしく、コルベールは紙に自分の名前を書いた。そのとき、サイトの口元がつり上がったことに彼は気づかなかった。


――――――――――――――――――――――――――――


サイトが暗躍し、着実に準備を整え、ヴァレンタイン開催予定日の一週間前、ついにヴァレンタイン企画のことが学院の掲示板に張り出された。

「ヴァ…」(キュルケ)

「レン…」(タバサ)

「タイン?」(ルイズ)

朝起きると、何やら騒がしいため、原因である掲示板を見にきた三人はそこに張られたものを見た。本命チョコや、義理チョコ、友チョコなどのことについて丁寧に書かれていた。
三人は食い入るように企画内容を最後まで見た。

    ――――企画立案者 ジャン・コルベール

「「「……」」」

それを見て三人はこの名前に陰にヒラガ・サイトの名前を見た気がした。

「なかなか面白そうな企画ねぇ。あ、チョコレート作りの講義も行うそうよ」

「…受付は、アルヴィーズの食堂ね」

へぇ~とルイズとキュルケが掲示板を読み込んでいて、ふと気がついた。

「あら? タバサは?」

「え? アッ! あそこ!!」

ルイズが指さした先には、ものすごい速さで食堂をめざすタバサの背中があった。ルイズとキュルケは慌ててタバサを追いかけた。


―――――――――――――――――――――


「真の企画者殿、進み具合はどうじゃね」

「順調だな。チョコレート作りの講義の方も参加者多数だ。マルトーの他に、講師を確保しておいて正解だったみたいだ。
チョコレート作りのための道具一式も結構な売れ行きらしい」

学院長室でシエスタを現場でパシらせ、デルタフォンとカイザフォンを使って現状を確認していたサイトは頷く。
と、そのとき、勢いよく学院長室の扉が開けられた。

「オールド・オスマン! サイトくん!! あれはなんですかぁ!!!」

「「あれ?」」

二人は顔を見合せた、本当にわからないという顔をしている。

「掲示板に張られているヴァレンタインの企画者に私の名前が書かれていることです!!」

「「あ~、あれか」」

「「あ~、あれか」…じゃないですよ!! おかげで、私は女子生徒たちに顔を見られて笑われ、ミセス・シュヴルーズには同情されて「私はかならず、お渡ししますわ」なんて言われたんですよぉ!!」

コルベールが殺気まで放って怒鳴ろうとも、相手が悪かった。馬鹿みたく長生きしているこの世界一と囁かれるのメイジと、まだ、おそらく20年と生きていなくとも信じられないほどの修羅場をくぐり抜けてきた戦士である。引退した魔法研究所実験小隊の殺気ごときで動じるはずがない。

「よかったじゃないか、これで一個は確実だ」

「いいのぉ」

「よくありませぇぇぇぇん!!!!!」

叫ぶコルベールを無視して、二人はこれからのことについての話を始めた。

「しかし、何故、厨房で作るチョコレートは予約のものと、食堂販売のものの二つにしたんじゃ?」

「まぁ、当日になればわかるさ」


―――――――――――――――――――――――――――


チョコレート作りの講義(生徒だけでなく、女性教員も参加していたらしい)も好評に終わり、当日となった。


―――――――――――――――――――――――――――


ギーシュは朝、目を覚まし着替えると、鏡の前に立った。

「うん、今日のボクは今までの人生で一番輝いている! 大丈夫だ、今日のために、いつも以上に女の子には優しくしてきた! プレゼントもした! 学園のチョコレートはすべてボクのものだ!!」

そう言って頷くと、彼の杖でもあるバラを咥えて部屋をさっそうと出て数歩歩くと、ものすごい勢いで走りだした。
男子が女子寮に入ることは禁止されている(サイトはルイズの使い魔であるため、特別OK)。そのため、朝、男子と女子が確実に会える場所はあらかじめ約束しておかない限り、アルヴィーズの食堂しかない。
ギーシュの目に食堂の入口が映ったつとき、丁度モンモランシーが食堂に入ろうとしていたところだった。

「モンモランシー!!」

「キャッ! ギ、ギーシュ」

滑り込むようにモンモランシーの前に立った。

「やぁ、モンモランシー、今日の君は、いつにもまして美しい…」

「はいはい、これが欲しいのね…」

目的丸出しのギーシュをじと目で見てから持っていた袋から青いリボンのついた箱を取り出した。

「おお、モンモランシー!!」

「あ、これじゃなかった」

そう言って青いリボンの箱を袋に戻し、赤いリボンの箱を取り出し、ギーシュに差し出した。

「はい、手作りだから、ちゃんと、感謝して三回以上拝んでから食べなさいよ」

「ああ、ああ! わかっているよ、ボクのモンモランシー!!」

歓喜極まって抱きつこうとするギーシュからするりと抜け出し、モンモランシーは、周囲を見回した。

「ねぇ、ギーシュ、サイトさん知らない?」

「え……」

ギーシュハ石化シタ(RPG風)。

「だから、サイトさん」

石化したギーシュにモンモランシーは再度問いかける。

「な、ななななななな、なんで、あのバケモノのことを、さん付けで呼んでいるんだ、モンモランシー、まさか、まさか!! さっきのチョコレートは、やつにあげるつもりなのか!?」

「うるさいわね。そうよ、日頃お世話になっているお礼にね」

「お、おおおお、お世話!?」

「ちょっと! 変な妄想しないでよ。サイトさんの水の見解は、“水”のメイジとしてとても興味深いものなんだから。本当に目から鱗よ。っていうか、いつまでもそこにいないでよ。これから、先生たちにも渡しに行くんだから」

納得いかなそうな顔をしているギーシュをそのままにモンモランシーは食堂にはいって行った。


――――――――――――――――――――――――


ルイズ、キュルケ、タバサは学院中を探し回っていた。
朝、キュルケとタバサは、部屋の主の了解も得ずにルイズの部屋に侵入した。しかし、サイトはどこにもおらず、まだ眠っていたルイズを叩き起こし、どこにいるのかを尋問しようとしたが、ルイズ自身もわからなかった。
キュルケとタバサは朝一でサイトにチョコレートを渡すつもりでいた(二人とも手作りの本命)。ルイズは、毎朝サイトが起こしてくれるため、起きた時に一緒に渡そうと、枕の下にチョコレートを隠していた。
だが、三人の予定はかなわず、どこにもサイトの姿はなかった。
しかたなく、探し回っているのだった。
そして、三人は中庭で洗濯物を干しているシエスタとウェールズを見つけた。

「あれ? 三人とも、どうしたんだい?」

「サイト知らない? どこにもいないのよ」

「サイト? ボクは知らないなぁ、ボクが起きた時はもういなかったよ」

そう言ってから、ウェールズは、シエスタを呼んだ。

「シエスタァ!」

「ハァイ」

洗濯物を干し終えてやってきたシエスタにウェールズにしたのと同じ質問をする。

「ダーリン、知らない?」

「サイトさんですか? 今日は、私より先に起きたらしくて、私が起きた時にはもう、いませんでした。せっかく、サイトさんに最初にチョコレートを渡せると思ったのになぁ」

さてどうしたものかと五人で悩んでいて、ウェールズが手をぽんと叩いてシエスタを見た。

「シエスタ、君の嗅覚なら、サイトを探せるんじゃないか?」

「ああああああ!!! そうだ、その手があったんだぁぁ!!!」

どうやら、自分の能力を忘れていたようだ。4人はおいおいと心の中で突っ込みを入れつつ、期待の視線をシエスタに向ける。
シエスタは、目を閉じて、鼻をクンクンと動かした。

「見つけました! サイトさんの匂い!」

「さすがだね、シエスタ! 伊達に毎日、サイトの服の匂いを嗅いでハァハァしているだけのことはあるよ」

「「「……」」」

ウェールズの発言に三人は、思わずシエスタから距離をとった。

「し、仕方ないじゃないですか! それにサイトさん、言っていました。オルフェノクは動物の特性を持つって、犬である私がご主人さまであるサイトさんの匂いを嗅いで何が悪いんですか!?」

(((開き直った!?)))

真っ赤になって反論するシエスタを見てそんな事を思ってしまった。

「ま、まぁ、そのことは置いておいて、でかしたわ! 私たちをそこに案内しなさい!」

「……まぁ、いいですよ。た・だ・し、条件があります」

「条件?」

「私が、サイトさんに最初にチョコレートを渡させていただきます」

「「「……」」」

ルイズたちは少し考えてから頷いた。

「わかったわ」

「まぁ、一番じゃなきゃ、いやってわけじゃないし」

「そう、渡せることが大事」

(((…そんときになったら出し抜けばいいんだし)))

三人が了解すると、シエスタはニッコリ笑ってドックオルフェノクに変化してルイズとタバサを抱き上げて走り出した。

「ボクたちも追いかけようか?」

ウェールズもオルフェノク化する。女性型特有のヘッドギアに羽飾りをつけ、軽装な鎧を纏い、背中には身長の半分くらいの大きさの翼が一対あるオルフェノク、イーグルオルフェノクとなった。
イーグルオルフェノクはキュルケを抱き上げると翼を広げ、舞い上がった。


――――――――――――――――――――――――――


サイトは、学院の近くにある森の池を漂っていた。

「バカな男どもだ。一ヶ月後に第二のイベントが待っているというのに…」

掲示板にヴァレンタインのことが張り出されてから、必死に女子たちのご機嫌取りをして今日、その成果であるチョコレートを手に大喜びしているであろう男どものことを考え、クスクスと笑った。

「…昨日は夜遅くまでチョコレート作りをしていたから疲れたな…」

ついでに彼がやったのは、溶かして液状になったチョコレートを型に流し込む作業であり、ミズチオルフェノクの能力全開で作業したため、正直疲れている。

「きゅい~」

「ん?」

よく知った鳴き声を聞き、そちらを向くと、マントで身体をすっぽりと覆った青い髪の女性がいた。
サイトは水面に立ち上がると、彼女のいる岸まで歩いて行く。

「シルフィード、どうかしたか?」

「ダーリン、ヴァレンタインなのね!」

そう言って食堂で販売されている。チョコレートを前に突き出された。

「俺にか?」

「きゅい!」

コクコクと頷かれた。

(まぁ、ひとり分くらいいいか)
「ありがとな」

サイトは、お礼の言葉とともにチョコレートを受け取り、頭をなでてやる。シルフィードは嬉しそうに「きゅ~い~」と鳴いてサイトの胸にすり寄る。

「でもな、シルフィード、お前に一つ言っておかなくてはならないことがある」

「?」

「…マントは服じゃない。っていうか、そのパンツだってタバサのだろ…
タバサに頼んで服を用意してもらえよ…」

マントの下は、たぶんタバサのものと思われるパンツをはき(ほとんど役割を果たしておらず、ギリギリ正面からは見えないようになっているが、おそらく後ろは全く隠れていないだろう)、彼女のことを知らないものが見れば、痴女以外何者でもない。

「わかったのね!」

元気よくシルフィードは頷いた。
サイトはチョコレートにかぶりついた。そのとき、背後に気配を感じた。シルフィードは風竜の姿に早変わりした(タバサのパンツが引きちぎれた)。
水が後ろにいるのがだれなのかを教えてくれた。振り向くと、荒い息を吐いたドックオルフェノクとイーグルオルフェノクのオルフェノク娘コンビと、メイジ三人娘がいた。

「「「「ああ~~~~~!!!!!!!!」」」」

ルイズ、タバサ、キュルケ、シエスタはこちらを指差して大声をあげた。

「さ、サイト! そのチョコレート、どうしたのよ!!!」

「シルフィードにもらった」

「きゅい!」

エッヘンとシルフィードは胸をそらした。次の瞬間、その顔面にタバサの杖が手加減なく振り下ろされた。

「きゅ、きゅいぃ!?」

さらに、炎と爆発の追撃が彼女に襲いかかった。

「きゅいい!!!」

ここにいたら、殺されると、シルフィードは慌てて、その場から離脱した。

「シエスタ! あれを追いかけなさい!!」

「わかりました!!」

ルイズとタバサを抱えてドックオルフェノクがシルフィードを追いかけて走り去って行った。

「なんなんだ?」

「さぁ、そうそう、サイト」

「ん?」

「はい、ヴァレンタイン。ボクは女の子になってしまったからね。こういうイベントに参加してもおかしくないだろう?」

差し出されたチョコレートを受け取った。

「ダーリン、私からもヴァレンタイン! がんばって作ったんだから、味わって食べてよ」

「ああ、二人とも、ありがとう」

二人はサイトにチョコレートを手渡すと、ウェールズは再びイーグルオルフェノクになって三人に続いてシルフィードを追いかけて行った。

「…俺も、来月面倒なことになるかもな……」

サイトは、そう呟くとその場で寝転がり、しばらくすると、寝息を立て始めた。
 
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