オルフェノクの使い魔
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オルフェノクの使い魔でホワイトデー
「最近、兄さまがかまってくれない…」
タバサの一言にルイズの部屋に集まっていたキュルケとこの部屋に住む三人は頷いた。
「ダーリン、最近、よく外出しているみたいだし」
「どこ行ったか聞いても教えてくれないのよ」
「ボクらで何度か後をつけようとしたんだけどね」
「私の鼻もウェールズさんの目も誤魔化されちゃって気が付いたら、見失っちゃうんですよ」
サイトが何も言わず、何かをすることなど、日常茶飯事だが今回はそれの度が越えていた。
「先月のヴァレンタインのときもこんな感じだったわね。何か聞いてないの?」
「はい。先月はチョコレートを作ったり、講習を行ったりするための打ち合わせをしょっちゅうしていたんですけど、今回はそういったことは一切ないみたいで、マルトーさんも何も聞いてないそうです。
何か、無茶をしていなければいいと五人は思った。
*** オルフェノクの使い魔でホワイトデー ***
「ミズチ殿、ここのところ、よく城に出入りしているみたいだな」
「アニエス銃士隊長、少し私事で金がいるのでね。女王陛下に頼んで仕事を回してもらっているところだ」
中庭の陰に座り込んで書類を処理していたミズチを見つけたアニエスは、興味をひかれて彼に近づいた。手元を見るとインクが独りでに動いてサインしている。
「何かあるのか?」
「プレゼントを用意しなければあならないくてな。大半は手製で何とかするつもりだが、材料を買うための金を経費で落とすわけにもいかない。だから、面倒だが、こうして書類と向き合っているのだ」
「プレゼント? 恋人でもいるのか?」
この仮面の男と愛を語り合う異性を想像しようとしたが、上手くいかなかった。
「いや、異性へのプレゼントではあるが、恋人じゃない」
「では、家族か?」
「まぁ、そんなところだ」
アニエスは失った家族のことを思い出した。あの出来事がなければ、自分も家族にプレゼントを渡したりできたかもしれない。そう思うと、その機会を永久に奪った者たちへの殺意が体の中からこみあげてくる。
ミズチはアニエスの殺気を感じつつも、そのことに触れず、話しながらも手は休まず書類を処理し、終ったらしく一つにまとめた。
「さて、私はこれを陛下にもっていきい。これに見合うだけの給料をもらいに行く。
ではな」
「私も、女王陛下のところに行く予定だったのだ。不都合がなければ同伴しても?」
立ち上がったミズチにあわせてアニエスも立ち上がった。
「好きにするといい」
二人は中庭から歩きだした。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「「「「「「「ホ、ホワイトデー!?」」」」」」」」(男性教員&男子生徒)
ヴァレンタインが掲示されたちょうど一ヶ月後、同じ掲示板にホワイトデー企画が掲示された。ついでに、今回の企画者はオスマンとなっている。
それを見た教員と生徒の男のほぼすべてが慌てた。何せ、先月のヴァレンタインでチョコレートをもらうため、プレゼント作戦を行ったり、それなりにいいレストランで食事をしたりしたのだ。はっきり言って『ヴァレンタインのお返しをしよう』というこの企画のために回すお金がないと頭を抱える男は少なくない。
それだけではない。もらった相手が複数いたため、誰にもらったか忘れたという不届き者までいるのだ。ここで渡さなければ、間違いなく悪評がつく。
しかも、ヴァレンタインと違い、何をプレゼントすればいいかが書かれていない。
さらにたちが悪いのは『男の甲斐性を見せろ!! プレゼントは倍返しが基本(チョコレートを倍渡せという意味ではない)。追伸、教師諸君、成績をプレゼントするのはダメだ』と書かれている。
「ど、どうしよぉ…」
ギーシュは掲示板の前で膝をついて崩れ落ちた。彼の場合はチョコレートをくれた相手は覚えている。しかし、プレゼントを買うことができない。
ここで、プレゼントができなかったことを想像してみる……
ギーシュの脳内では、モンモランシーを筆頭とした女子たちが自分に蔑んだ視線を向け、去っていく姿が見えた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!! モ、モンモランシー!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――
「わ、私はどうすれば…」
ギーシュの横でコルベールが膝をついて崩れ落ちた。彼の場合、サイトとオスマンの策略によってヴァレンタインの企画者に祭り上げられ、それによって憐れんだ女性教員や女子生徒からチョコレートをもらいまくった。もし、誰が一番チョコレートをもらったかをレースしていたとしたら、彼がぶっちぎりで優勝していたであろうというぐらいもらった。そのため、彼は誰からもらったか把握できなくなってしまったのだ。
ここで、適当にお返しをしてしまったら…
お返しを貰えた者と貰えなかった者が出来てしまい、結果、贔屓をしていると責められる自分の姿が、コルベールの脳内で再生された。
「な、なんとかせねばぁ!!」
――――――――――――――――――――――――――
多くの男子たちが頭を抱えている中、一人の太った少年が余裕の笑みを浮かべた。
「フ、どいつもこいつも、バカみたく…」
それを近くにいたため耳に入った男子が太った少年を睨みつけた。
「んだよ。マリコルヌはくれた相手もわかってて、プレゼントできるだけの金があるっていうのか!?」
「フ、ふ府不負婦腑…
ボクはね…」
突然、狂ったように笑いだした。マリコルヌは思わず後ずさった男子の胸倉を掴んだ。
「な、なんだよ」
「ボクはもらっていないのさ!! 一個もね!? だから、ボクは誰にもお返しする必要なんてないのさ!!」
一気にまくしたてるとマリコルヌは掲示板に背を向け、狂ったように笑いながら走り去って行った(かなり鈍足)。その眼には涙が浮かび、そのまま、部屋に飛び込んだ彼は、一週間近く、食事の時間とトイレ以外に、外に出ようとしなかった(誰も気にしなかったが…)。
――――――――――――――――――――――――――――――
「予想通り、男たちは大慌てじゃな」
「まったく、何人が突破口を見出すか…」
学院長室でチェスをやりつつ、慌てふためく男たちの姿を見て爆笑するオスマンと、楽しそうに見つめるサイトがいた。
「じゃが、サイト殿、サイト殿は大丈夫なのか? それなりにもらっていたようじゃが」
「心配無用。もうすでに準備は出来ている。あとは当日渡せばおしまいだ」
「この間から、ここでちまちまやっていたやつか」
「ああ、それなりにいい出来前だ」
サイトは、ティーカップに口をつけて駒を動かした。
「チェックメイト」
「なぬ!?」
オスマンがボードを覗き込もうとしたとき、学院長室の扉が乱暴に開けられた。
「オールド・オスマン! サイトくん! 頼む、助けてください!」
「なんじゃ騒々しい」
「っとか何とか言いながら、俺の駒を動かそうとするな」
さりげなくサイトの駒をずらそうとしたオスマンの手を捕まえた。
「……つまり、誰からも貰ったかわからなくて、どうしたらいい瓦ならなくなってしまったと?」
説明を終えたコルベールは、確認するように聞くオスマンの言葉にうなずいた。
「簡単な話じゃないか。もらったやつ、もらわなかったやつ関係なく、全員に渡しちまえばいい」
「それだとさすがに私の懐が…
そ、そうだ。オールド・オスマン、あなたもかなりの量をもらってましたけど、ホワイトデーのときは何を?」
「ワシ? ワシはホワイトデーの翌日休校にする」
「なッ!?」
「ついでに、何故、翌日にするかというと、当日だと、休校なのをいいことに遠くへ逃げでホワイトデーを回避しようとする輩が出ないようにするためじゃ」
あっさりと職権乱用すると宣言したオスマンにコルベールはあいた口がふさがらない。
「っていうか、コルベール、なんで買うことが前提なんだ?」
「え?」
「わざわざ買うよりも、何かを作って渡すのだってありだぞ」
「しかし、何を渡せばいいのか…私が作ったヘビ君でも渡してみましょうか」
(あれ渡されても間違いなく翌日のゴミになるぞ…)
「マルトーのところに行ってクッキーの作り方でも教えてもらってこい。んで、当日はそれをふるまえばいいじゃないか」
「なるほど! サイトくん、ありがとう。早速行ってこよう!」
コルベールは入ってきたときと同じように部屋を飛び出して行った。
「サイト殿」
「ん?」
「何故、助言を?」
「先月、勝手に名前を借りたし、ここで恩を売っておけば、後々使えると思ってさ」
「なるほどぉ」
二人は黒い笑みを浮かべて、慌てふためく者たちの観賞に戻った。
――――――――――――――――――――――――――――――
日に日に近づくホワイトデーに慌てふためく者、何とか活路を見出す者、荷造りを始める者。
そして、ついに当日を迎える。
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*** まずはルイズへ ***
今日のためにアンリエッタのもとでバイトして用意したプレゼントを渡すつもりだったが、よくよく考えると、ルイズから渡すのが利口だという結論に達した。ルイズが「なんでご主人さまを後回しにするのよ!!」とうるさそうだ。
無視すればいいのだが、やはりうるさいものを回避できるのなら、回避したい。ということで、サイトはいつも通り、朝の訓練を終えて部屋に戻った。
すでにシエスタとウェールズは仕事に行っているので部屋には、サイトからのプレゼントが何なのか楽しみで明け方まで興奮して眠れなかったため、未だに爆睡しているルイズしかいない。
寝ているルイズを見て、サイトは慣れた動作でタオルを水につけ、適度に絞って水を切り、それをルイズの顔の上に乗せた。
そして、待つこと5秒。
「…ップハ!? ハァハァ…サイトォ、もっと優しく起こしなさいよぉ!!」
ルイズは顔からずれ落ちたタオルをサイトに向かって力一杯投げつけるが、悠々と受け止められてしまった。
「おはよう」
悪びれもせずに挨拶するサイトに、ため息をつき、ルイズは着替えるため、この部屋に備えた着替えるためのスペース(カーテンで覆っている)に向かうことにした。
「ちょっと待て」
「何よ」
「ヴァレンタインのお返しだ」
そう言って桃色のリボンが付いた箱をルイズに手渡した。
ルイズは、反射的に受け取ってしまった箱をきょとんと見つめ、それから何度も箱とサイトを見比べた。
「私に?」
「なんでお前に他人の分を渡さなきゃなんないんだ?」
「開けていい?」
「渡した時点でお前のものなんだから、好きにすればいい」
ルイズは渡された箱を慎重に開けた。そこには、四角い透明なものの中に透明な水と青い水が入ったものが、入っていた。細かな装飾がされており、隅にはルイズの名前が刻まれていた。
「何これ?」
「水時計。三分計れる。手作りだぞ」
「水時計…」
箱から水時計を取り出し、いろいろな角度で見る。なんだか、とても冷たい。
「こう使うんだ」
ルイズから水時計を取り上げて、テーブルの上に置いた。すると、透明な水と青い水が移動を始めた。
「綺麗…」
水の異動に合わせて中に仕組まれていた水車が回る。ルイズは三分間の水の移動をずっと眺め、移動が終わると、自分の手で、さまさまにして再び時間を刻まれるのをみつめた。それを三回繰り返した頃、サイトが声をかけた。
「氷を切り出して、コルベールに固定化の魔法をかけさせた」
(なるほど氷か、だから冷たいんだ…)
「気に入ってもらえてうれしいんだが、夢中になりすぎて時間忘れるなよ。もう、12分たったぞ」
「ッ!」
ルイズは慌てて着替えるため、カーテンの向こうに飛び込んで行った。
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*** 二番手 シエスタ&ウェールズ ***
ルイズが送り出した後、サイトは洗濯物を干しているであろうシエスタとウェールズのもとへ向かった。
予想通り二人は洗濯物を干していた。二人を呼び止め、サイトは細長い箱を取り出した。
「二人へのお返しだ」
そう言ってサイトは黄色いリボンが付いている箱をウェールズも白いリボンが付いている箱をシエスタに渡した。
「あ、ありがとうございます!!」
「ありがとう、サイト」
二人は感謝の言葉を言ってから箱を開けた。二人の箱の中には、銀色のチェーンでつながれたペンダントトップが付いたペンダントだった。ウェールズのペンダントトップは黄色の宝石が埋め込まれ、シエスタのペンダントトップは白い宝石が彫られていた。
「お前たちに渡したライダーズギアに合わせてつくってみた」
「つくってみたってこれ、手作りですか?」
「なんて出来前なんだ。凄いな…」
シエスタは大事そうにペンダントを持って目を見開いた。王族時代、こういったものをいやというほど見てきたウェールズもペンダントの完成度には驚いていた。
「昔、狂児に水の操作性を高めるための修行だって、騙されてやったことがあったんだ。
気に入らなかったら、捨ててくれてかまわないぞ」
「捨てるだなんて、できませんよ! 私、これ、宝物にします!!」
「大事な友達からのプレゼントを捨てるなんてこと、ボクはしないよ」
二人は大事そうに身につけ、シエスタはそれを服の下に隠した。
「ウェールズさんも隠しておいた方がいいですよ。平民がこういうのつけているのが気に入らないって言って取り上げようとする貴族の方って少なくないですから。
「そうなのか、わかった。そうするよ」
ウェールズもシエスタと同じように服の下に隠した。
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*** 四番、キュルケ ***
授業が終わったころ、同じ部屋に住む三人に渡し終えたサイトは、キュルケたちを探していた。キュルケとタバサならきっと一緒にいると思っていたが、自室にいたキュルケだけを見つけた。
「タバサと一緒じゃないのか」
「ええ、あの子、図書館に行くって言っていたから、なんか好きになれないよのねぇ、図書館の独特の空気ってやつが」
「そうか」
サイトは赤いリボンのついた大きめの袋をキュルケに差し出した。
「ヴァレンタインのお返しだ」
キュルケの胸が高鳴った。今まで、何人もの男と付き合ってきただけにプレゼントを受け取ることなんて慣れきっていると思っていた。でも、本当に“好き”になれた相手から渡される初めてのプレゼントにキュルケは緊張した。
「ダーリン、開けていい?」
「なんで、どいつもこいつもそう聞くんだ? 好きにすればいい」
「あ、私が最初じゃないんだ…」
「自分の保身に走ってルイズを最初にした」
キュルケの中にあった高鳴りがしぼんでいくのを感じた。
どうでもいいみたいな気持で袋を開けてキュルケは目を見開いた。
「え?」
袋から出てきたのは大きなクマのぬいぐるみだった。
「ダーリン、タバサのと間違えてない?」
「いや、お前の分だ。普通にお前に合いそうなものなんてとうの昔にもらってんだろ?
なら、意外性のあるものの方が面白いじゃないか」
キュルケは再び、胸の高鳴りを感じた。自分ばかり、相手のことを考えていたと思っていたのに、ちゃんと、サイトも自分のことを考えてプレゼントを選んでくれた。
どうしようもないほど顔がゆるみ、ぬいぐるみを抱きしめた。
「ダーリン、ありがとう。大事にするわ!」
この日からぬいぐるみを抱いて寝るのがキュルケの習慣となった。
―――――――――――――――――――――――――
*** 5巻タバサ ***
「……」
タバサは読んでいた本を閉じた。集中できない。今日、サイトからプレゼントがもらえる。先月のことも今月のことも間違いなくサイトが一枚も二枚も噛んでいるに違いない。ならば、くれないなんてことはないだろう。
胸がドキドキする。落ち着こうと図書館で読書に励んでみたが、集中できず、何冊か借りて部屋に戻ってきてみたが、やはり、落ち着かない。
「兄さま…」
口からなんとなく漏れた声に応えるかのように扉が鳴った。
「タバサ、いるか?」
(キターーーーーーーーーーー(≧∀≦)ーーーーーーーー!!)
タバサはベットから飛び降り、扉を開けた。そこには彼女が待ち望んでいた男が立っていた。タバサはサイトを部屋に招き入れた。
視線がどうしてもサイトの手にある袋に行ってしまう。その視線に気がついたサイトが笑みを浮かべたのを見て、タバサは顔を真っ赤に染めて下を向いてしまった。
サイトは下を向いたタバサの頭を撫でてから、袋の中に手を突っ込んだ。同時にタバサから発せられる期待の視線の強さが増した。
「ヴァレンタインのときのお礼だ」
そう言って袋の中から出てきたのは、一冊の本だった。タバサは本を受け取ると表紙に目を向けた。『この世界でたった一冊の本』という題が書かれていた。
「兄さま、読んでもいい?」
「それはもう、お前だけのものだ。読みたいなら、読めばいい」
サイトの許しが出てタバサは本を開いた。そこに書かれた物語はタバサが呼んだことも聞いたこともないものだった。
「俺の世界にあったものを覚えている範囲で書いてみた」
「え?」
「だから、『この世界でたった一冊の本』なんだ」
(……これは、兄さまが私のためだけにわざわざ書いてくれた、私だけの本!!)
タバサはあまりにも感動してしまい目に涙まで浮かべた。それをサイトは別の方向に認識した。
「いやだったか? なら、捨ててくれていいぞ」
「違う!!」
思わず、タバサからは想像もできない大きな声で否定し、タバサは力いっぱいサイトに抱きついた。
「嬉しい。とっても、とっても…嬉しい」
「そっか」
抱きつくタバサの頭に手を置き、タバサの気がすむまでそのままでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
*** 6着目シルフィード ***
タバサが満足してサイトから離れるのに1時間近くかかった。
「タバサ」
「……(?)」
「シルフィードを呼んでくれ」
「……(コクン)」
タバサは窓のそばに立ち、口笛を吹いた。すると、数分とたたず、シルフィードが飛んできた。
「きゅい?(何なのね。お姉さま)」
「兄さまがようだって」
「きゅい!(ダーリンが!)」
シルフィードは部屋の中にサイトの姿を見つけると、人の姿に変身してサイトに飛びついた。
「ダーリン! シルフィになんのようなのね?」
それを見たタバサは青筋を立てて、杖で自分の使い魔をぶん殴った。最近、サイトに訓練してもらって身につけた力のない自分でもパワーを上げる方法として教わった遠心力の力を借りたその一撃は、シルフィードの側頭部に直撃し、シルフィードを吹っ飛ばした。
「い、痛いのね! 人間だったら、死んでいるのね!」
「兄さまに迷惑をかけちゃダメ」
「目が殺すって言っているのねぇ!!」
このままだと、いつまでも続きそうなので、サイトが割って入った。
「とりあえず、俺の用を済まさせてくれ」
サイトはタバサへのプレゼントが入っていた袋にもう一度手を入れた。そして、中から、服を取り出した。
「シルフィード、ヴァレンタインのお返しだ。
人間の姿になるときはこれを着ろ」
シルフィードは受け取った服をしばらくジーッと見つめてからタバサの手を借りて着てみた。
青を基調とした服は、シルフィードになかなか似合っていた。
「お姉さま、お姉さま、どう? どう?? シルフィ、可愛い?」
「悪くない」
タバサは姿見をシルフィードの方にむけてやった。姿見に映る自分を見てキャッキャ騒ぐシルフィードにサイトは持っていた袋を渡した。
「竜のときはこれに服を入れておけばいい。お前の首に通せる大きさのものを用意した」
シルフィードは、歓喜極まって再びサイトに飛びつく。
「ここまで、シルフィのことを考えてくれるなんて、これはもう、つがいになってくれるとみても…ダーリーン!!!」
それをタバサがフルスイングした杖が迎え撃つ。そして、そのまま、さっきの状態へと戻っていくのだった。
サイトはしばらくそれを見ていたが、聞いていないだろうが、一応、帰ることを告げ、出て行った。
二人がそのことに気づくのは、もう少し先である。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「どうなってる?」
「ウム、4割がなんとかプレゼントに成功、5割が土下座してお返しを待ってもらおうとしとる。残りの1割は、逃げおった」
「4割か…2割強入ればいい方だと思っていたが…少し見くびっていたか」
「土下座して許しを請う姿はなかなか見ものじゃったのぉ。4割の方も、金がないからグラモンの三男は自作の詩をプレゼントしとった」
「それは見たかったな」
少年と老人は必死に奔走する男たちを酒の肴にワインのグラスをあおった。
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