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オルフェノクの使い魔

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オルフェノクの使い魔14

サイトたちは、アルビオン軍をやっつけた英雄と崇められ、祝宴が行われた。そんななか、キュルケ一人だけが、あることに気がついた。
サイトが、この祝宴が始まってからずっとシエスタを側に置いているのだ。その程度のことなら、ルイズやタバサも気づいているようだが、キュルケはそれ以上のことに気がついた。
サイトはシエスタに何もさせていない。
シエスタがサイトにワインをお酌しようとする素振りを見せれば、それより早く自分で注ぎ、食べ物を取ろうとする素振りを見せれば、それより早く自分で取る。しかも、それはいつもの人から逃げるときのようにとても自然な動作でかなり注意深く見なければ見落としていただろう。
とにかくシエスタを自分の監視下に置き、なおかつ何もさせないようにしているその様子にキュルケは首をかしげた。
もう一つ、気になることがあった。どうやってシエスタの身体を治したのだろうか? 
タバサは風と水を組み合わせた氷の魔法を得意としているが、あくまでも基本は風にあるため、水の治療系の魔法はかすり傷程度ならばともかく、あんな大怪我を治せるほどの力はないはずだ。サイトは本人から自分の能力は“水の操作”であり水の系統魔法はつかえないと聞いているから、可能性はないと考えていい。なら、どうやって治したのか…
聞きたいところだが、サイトからはここで聞くなと無言の圧力を感じるため、聞けないでいる。
夜遅くなり、サイトが席を立ち、シエスタを連れて自分たちの泊まる家に向かって歩き出した。村の人々がついていくシエスタをはやし立てる中、サイトがちらりとこちらを見た。
それから視線を泊まる家に向けた。

(ついて来いってことかしら?)

キュルケはタバサとルイズを連れて、その後に続いた。
家に入るとベッドに腰かけたサイトとシエスタがいた。
この家は、一番被害を免れた家らしく、ほとんど被害が見当たらなかった。村人たちは、そこに破損の少ないベッドを運び込み、サイトたちの宿としてくれたのだ。

「きたか」

ベッドに座っていたサイトが立ち上がった。

「ダーリン、そのメイドをさっきからやたらとお気に入りみたいだけど?」

「そのシエスタのことで、な」

「わ、私ですか?」

全員の視線が集まりシエスタは慌てて座りなおす。

「単刀直入に言う。シエスタ、おまえはもう人間じゃない」

「へ? サイトさん?」

「俺と同種。オルフェノクになった」

「な、何言っているんですか?」

「あの状況で、おまえを助けるためには、オルフェノクにするしか方法がなかった。正直な話し、賭けだったが、どうやらおまえは曽祖父から瞳や髪の色だけじゃなくてオルフェノクとしての記号まで受け継いでいたみたいだな」

「どういうこと?」

「前にも話した通り、俺たちオルフェノクは人間をオルフェノクに変える力がある。だが、何故かこの世界の人間にはそれが効かない。実際に俺が全力でやってもダメだった。でも、シエスタには、オルフェノクの血が流れていたせいか、オルフェノクになることができたみたいだ」

「じゃ、じゃあ、私の家族も…」

「それはわからない。ためしにやってみるか? この世界の人間なら、何ともないが、俺のいた世界だった場合、失敗すれば死ぬけど?」

サイトは窓から外を見た。そこには主役たちがいなくなっても楽しげに騒いでいる村人たちがいた。

「いえ!! 結構です!!」

シエスタは慌てて首を横に振った。

「とにかくそういうわけだから、シエスタ、おまえには研修を受けてもらう」

「研修…ですか?」

「そう、研修だ。オルフェノク化したばかりのとき、その力を制御できず、人を殺してしまったということも少なくない。そうならないために、オルフェノクになったばかりのやつには研修を受けてもらって自分のもった力を自覚させ、しっかりとその力を制御させるというものだ。一週間ぐらいで終わるはずだ。
それと、拒否権はない」

(なるほど、そういうのを村の人に気づかせないためだったってわけね…)

本来、この研修はスマートブレインのコンピュータが、その新人オルフェノクに適した先輩オルフェノクを選出し、研修を行うのだが、この世界でサイトの知っている範囲で研修を行えるオルフェノクは自分しかいないため、サイト自身が行うことにした。

「で、そのことをあたしたちに教えたのはもしものときのフォローを頼むためかしら?」

今まで黙っていたキュルケが口を開いた。

「ああ、学院に帰ったら、オスマンのジジイにも報告して俺の監視下におくつもりだが、俺の目の届かないところでなにかあったときは頼む」

「ダーリンからのお願いだもの、イヤなんていわないわ」

「わかった」

「しょうがないわね」

頷いた3人にシエスタは礼を言おうと立ち上がろうとして足をつまずかせた。

「キャッ」

「っと」

近い位置にいたサイトが倒れるシエスタを抱きとめた。

「あ、ありが…」
(こ、こんなに近くにサイトさんが…ああ、サイトさんのにおいが……においがぁ)

サイトに抱きとめられたシエスタはそのまま座り込んでしまった。

「ちょ、ちょっとどうしたのよ!?」

「ふぇ?」

慌てて駆け寄り、肩をゆするルイズにシエスタは惚けた顔を向けた。

「ね、ねぇ、ダーリン、この娘どうしちゃったの?」

「サイトさんのぉにおいぃ…」

ぽぉ~っした惚けた顔のままシエスタは呟いた。
オルフェノク化して嗅覚が発達したため、サイトのにおいに酔ってしまったのだ。


―――――――――――――――――――――――


翌日、宴会を続けるから残って欲しいという村の人々の声を振り切り、サイトたちは学院に戻った。
サイトは戻るとすぐにオスマンのいるであろう学院長室にやってきた。

「なるほど、そのメイドをサイト殿の目の届くところにおいておけばいいわけじゃな?」

「ああ」

「とりあえず、そのメイドは……そうじゃな、実験に巻き込まれて何らかの影響を受けているかもしれないため、メイジの側においておく…というのはどうじゃ?」

「いいかもな、普通のメイジなら…だが、俺のゴシュジンサマはルイズだぞ?」

「………無理じゃな、説得力がない……なら、死にかけた彼女を治すためにハーフドラゴンの秘術をつかったが、その秘術が人にどのような影響を与えるかわからないため、サイト殿の側にいるというのはどうじゃ?」

「妥当だな……それにしても、よくそんなに作り話がすぐ思いつくな」

「昔は、ホラ吹きで有名じゃったからのぉ」

「今じゃただのスケベジジイか」

「おお、これは一本とられた」

そう言って笑うオスマンにつられてサイトも笑みを浮かべた。

「三人だとあの部屋、狭いんだが」

「わかった、すぐに用意しよう」

その後、寮の最上階にあった物置の一部を改築した通常の2倍は広い部屋に引っ越すことになった。引越しに難色を示していたルイズも広い部屋に機嫌を直し、窓際のベッドを自分のものにした。


―――――――――――――――――――――――――――――


シルフィードは楽しそうにきゅいきゅいと鳴きながら、ヴェストリの広場に向かっていた。この時間、彼女のご主人様を含めた学生たちは授業を受けているため、誰も居ないはずの広場では、彼女が恋する灰色の水龍が訓練をしているはずだ。
シルフィードはそれを見るのが好きだった。彼はよく分かっていないようだが、彼は水の精霊に愛されているし、彼も水を愛している。だから、水は嬉々として彼の呼び声に応え、望みをかなえようとする。
そこまで精霊に愛されている彼に、シルフィードは尊敬と憧れを持っていた。

(あら? 今日はまだ、クンレンしてないの? それとも、タイジュツのクンレン? きゅいきゅい??)

かなり近くまで来ているのに、水の精霊の声が聞こえてこないことに気づき、彼女は首をひねった。
彼は、特殊能力の訓練に重点をおいていたが、たまに身体能力の訓練を行うこともあった。
まだ始めていないのならば、昼寝でもしながら待てばいいと考えてシルフィードはヴェストリの広場に降り立った。

「きゅい~~~!?」
(そのメスはなんなのねぇぇぇぇ!!!!)


――――――――――――――――――――――――――


シルフィードが絶叫するなか、サイトはシエスタに研修の目的について説明を行う。

「研修の最大の目的は、感情の起伏とオルフェノクへの変化を切り離すことだ」

「感情の起伏?」

「おまえの力ははっきり言ってメイジたちよりも強い。今まで通りにおまえがメイドをするなら、いつぞやかのように、おまえが悪いわけでもないのに、責められてイライラすることに直面するだろう。そういうときに思わず、ビンタしたら相手の首がどっかに飛んでいきましたってことになりかねない。
そうならないようにするのがこの研修だ。
まぁ、慣れれば、そんなこともならないんだが、そうなるまでどれだけかかるか分からないからな」

「私もサイトさんと同じになったってことは、サイトさんみたいに戦えるってことですよね?」

「戦いたいのか?」

「サイトさんの力になりたいんです!」

嬉しそうにこちらを見るシエスタにサイトは冷めた目で呟いた。

「…人を殺すってことだぞ。おまえにその覚悟があるのか?」

「ッ!?」

サイトの手伝いができるという想いで、無意識の内に考えないようにしていたことをまっすぐに指摘された。

「間違えるな。この研修は力を制御するためのもので、戦闘訓練じゃない」

そう言ってシエスタの頭に手を乗せ、撫でた。

「どうしても、力が必要だと感じたなら、付き合ってやる。だけど、とりあえず、今は研修だ。
早速、オルフェノクになってみろ」

「はい!」

元気を取り戻したシエスタは返事をして、グッと力を入れた。そんな力む必要などないのにと苦笑しながら、サイトは眺めていた。
三分ほどして、シエスタは力むのを辞めてこちらを見てきた。

「ん?」

「どうすれば、変身できるんですか?」

サイトは思わず脱力しそうになるが、何とか耐えた。

「内側にある力を外に出すって感じだな」

「わかりました」

シエスタは深呼吸をしてから目を閉じ、意識を集中させる。

(内側にある力を外に出す。内側にある力を外に出す……)

シエスタの顔に灰色の模様が浮かび上がり、続いて光と共にシエスタの姿が変化した。頭部は、犬耳のついたベッドギア、首には首輪、メイド服のような形をしたボディ、犬の特性をもったオルフェノク、ドッグオルフェノクとなった。

「ほら」

「これが…私、ですか?」

「ああ、それがおまえだ」

渡された鏡に映る自分を見て、ドッグオルフェノクは戸惑いの声を上げた。異形となってしまったことを改めて自覚したらしい。

「さてと、まずは…走れ」

「はい!」

「跳べ」

「はい!」

「殴れ」

「はい!」

「蹴れ」

「はい!」

「見ろ」

「はい!」

「聞け」

「はい!」


――――――――――――――――――――――――


「とりあえず、データは揃ったが、総合能力は恐らく上の下くらいか」

「それって凄いんですか?」

「ああ、間違いなく上級オルフェノクだな」

「サイトさんは?」

「俺? 峡児曰く上の上で、上級オルフェノクらしい」

「サイトさんってすごいんですね」

シエスタの尊敬のまなざしを受けて、サイトは小さくため息をつく。

(でも、身体能力においては反射速度以外、おまえの方が上なんだよなぁ…)


―――――――――――――――――――――――


大変さを極めた研修をなんとか完了させたある日、サイトはルイズに連れられて王宮に来ていた。先日の件を報告するためらしい。
あの戦いの後、婚約を解消し、女王となったアンリエッタはルイズを褒め称え、『虚無』のことは秘密にすると約束した。

「おそれながら姫さまに、私の『虚無』を捧げたいと思います」

決心した目でアンリエッタに告げるルイズをサイトは後ろから見つめた。

(こいつらって、何でこんなに国につくそうとするんだ? わかっているのか?)

「いえ…いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ」

「神は…姫さまを助けるために、私にこの力を授けたに違いありません!」

「母が申しておりました。過ぎた力は人を狂わせると。『虚無』の協力を手にしたわたくしがそうならぬと誰が言いきれるでしょうか?」

真剣な目で見つめ合うルイズとアンリエッタをサイトは客観的な眼で見ていた。どちらの意見も支持する気はない。しいて言えば、ルイズが安直な考えで、こんなことを言い出したのではないかという懸念だけだ。

「私は、姫さまと祖国のために、この力と身体、すべてを捧げたいと常々考えておりました。そうしつけられ、そう信じて育ってまいりました。しかし、私は魔法の才に恵まれず、今まで嘲りと侮蔑の中、いつも口惜しさに身体を震わせておりました。
しかし、そんな私に神は力を与えてくださいました。私は自分の信じるもののために、この力を使いとう存じます。それでも陛下がいらぬとおっしゃるのなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」

「わかったわルイズ。あなたは今でも……」

アンリエッタはルイズのその口上に心を打たれ、涙まで浮かべている。

「ちょっといいか?」

そんな雰囲気をサイトはさえぎった。このまま、雰囲気に流されるのはよくないと判断したのだ。
アンリエッタに断りを入れ、ルイズを部屋の隅に引っ張っていった。

「本当にいいのか?」

「どういう意味よ?」

「おまえは、この国に自分のすべてを捧げるって言っているんだぞ? いや、この国は王権制だからあのオヒメサマの意志か」

「そうよ!」

「つまり、おまえはこれからこの国のためならば、どんなことでもするのか?」

「当たり前じゃない」

「なら、親兄弟でも殺せるんだな?」

「え?」

ルイズは、言っている意味がわからないという表情になった。

「聞こえなかったのか? もう一度言うぞ。親兄弟でも殺せるんだな?」

「な、なんで! そんなことしなきゃいけないのよ!!」

「国のためになるんなら何でもやるんだろう? おまえの家族の誰かが国に害をなす行いをしようとしているから殺して来いと言われたら、おまえは家族を殺しにいけるんだな?」

「お父さまや姉さまたちが、そんなこと考えるわけないじゃない!!」

「例え話しだ。
いいか? この国のために何かしたいと思うことは悪いことじゃない。否定するつもりもない。だが、簡単にすべてを捧げるなんて口にしていいものではない。国の望みとおまえの望むものが必ずしも同じとは限らない。そのズレがあったとき、おまえは自分の望みを捨てられるのか? 国のために大事なモノを失うかもしれない。そうなったとしても、おまえは国のためと言って割り切れるのか? そのことをよく考えろよ。まだ、学生っていう子どもでいられる場所にいるんだから」

ルイズは、黙ってしまった。そんなことを考えていなかった。いや、国と自分の意志は絶対に一緒だから大丈夫だ。そう、思い込もうとしていたのかもしれない。

「…こんな言葉で迷うようなら…」

「迷ってない、くだらないこと言わないで。
私は、今までゼロゼロって馬鹿にされてきて、何もできない自分が悔しかった。
でも、自分の系統魔法を、『虚無』を手に入れた。この力でできることをしたいの」

(……
ムダにプライドだけは高い……だけじゃないな。この歳になるまで刷り込まれてきた『御国の為』って精神が原因か…トリステインって小国のくせにそういうプライドの高さっていうのが、国の発展の妨げになっているんだろうなぁ…
そう考えると、ルイズもこの国の犠牲者ってことか)

ルイズはアンリエッタのもとに戻った。

「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」

どうやら、アンリエッタには先ほどの会話は聞こえていなかったようだ。

「当然ですわ、姫さま」
(大丈夫、姫さまは私と親友なんだもの)

その後、アンリエッタはルイズに『始祖の祈祷書』を授け、さらに女王直属の女官に任命し、国内外あらゆる場所への通行と、警察権を含む公的機関の私用を認めた許可証をわたした。
サイトにはアンリエッタのポケットマネーから金銀宝石を渡そうとしたが、サイトはそれをアンリエッタがどれほど進めようとも受け取らなかった。


―――――――――――――――――――――――


サイトは、前を行くルイズを見て、思いっきりため息をついた。

(まったく、オヒメサマもまだまだ、ガキってことか…
いくら感動したからって、女王直属の女官に許可証、一学生に渡すような代物じゃねぇよ。
ルイズは絶対に“責任”のことを理解してないし…)

高いの地位につけば、当然それに比例して責任が大きくなる。ルイズがそのことを理解しているようには見えなかった。
サイトはルイズの心理をそう読んだ。

「ねぇ、サイト」

「ん?」

ルイズは馬の操り、サイトの隣りに並んだ。

「ちょっといい?」

「なんだ?」

「あのね…」

「?」

「エオルー・スーヌ・フィル」

「!?」

突然、ルイズが杖を向けて呪文を唱え始めた。サイトはとっさに馬を操り、予測されるルイズの魔法範囲外へと逃げる。

「ヤルンサクサ……」

そこまで唱えて、耐え切れなくなったようで、ルイズは杖を振った。杖を向けた先にあった木が爆発した。
そしてルイズは白目をむいて、馬から落ちそうになる。即座にサイトが受け止めなければ、頭から落ちていたかもしれない。

「…どうなっているんだ?」

気絶したルイズを自分の馬に乗せて、休めそうな木陰まで移動した。

「あううう……」

しばらくすると、ルイズは頭を振りながら、起き上がった。

「説明してくれないか」

「うん。『エクスプローション』の呪文ってとっても長いでしょ? それを最後まで唱えられたのは、あの時一回限り……あれから、何度も唱えようとしたんだけど、どうしても途中で気絶しちゃうの。一応は爆発するのよね…
精神力不足が原因だと思うんだけど…」

サイトは少し考えてから口を開いた。

「いくつか聞いていいか?」

「なに?」

「例えば、ファイヤーボールを唱えるとする。詠唱を途中できった場合どうなる」

「たぶん、何も起こらないわ」

「フム、次の質問だ。たとえば、スクウェアクラスの魔法を使ったとする。一晩寝たくらいで回復できるか?」

「えっと…個人差もあるけど、さすがに一晩くらいじゃ足りないわ。早くて一週間位って聞くし」

「なるほど、仮説ができた」

「仮説?」

「ああ、例えば…」

ルイズの両手を取り、お椀にする。

「例えば、その両手がおまえの精神力を溜めておける容量、草が精神力とする」

「うん」

そこに草をちぎって一枚入れた。

「1日におまえは、これだけ精神力を溜めることができるとする」

「うん」

「今まで、おまえは魔法を成功させたことがない。つまり、精神力を消費していなかったということは、この16年間でこれだけ精神力を溜めつづけていたということになる」

そう言って草がどさっとルイズの両手に納まった。

「あの『エクスプロージョン』はバカみたく精神力を食い、尚且つ、初めて成功する魔法におまえは加減が効かず、精神力をすべて使い果たしてしまった」

今度は、草をすべて取り去られてしまった。

「多分、この魔法を作ったやつもそのことを知っていて詠唱途中にも効果が出るように作ったんじゃないか?」

「……」

「ルイズ?」

サイトの仮説を聞いていたルイズが、ぽかんと口を開けて呆然としていた。

「あんたって、本当に他の世界からきたの?」

「ああ」

「ウソついてんじゃないの? 今のだってもう、仮説ってレベルじゃないわよ」

「そうか?」

「そうよ!」

もう平気そうなので、探るようにみてくるルイズを立たせ、学院へ帰ることにした。


―――――――――――――――――――――――――


学院に戻ると、馬車とその近くに知った顔を見つけた。タバサとキュルケがいた。

「あ、ダーリン、おかえりなさい♪」

馬から下りたサイトに飛びついてくるキュルケを好きにさせる。ルイズが、キュルケに向かって怒鳴るが、キュルケはサイトから離れようとしない。
キュルケをぶら下げたまま、寮に戻ろうとすると今度は袖を引っ張られた。

「待ってた。一緒にきて欲しい」

「どこか行くのか?」

「家」

「わかった。約束だからな」

そう言って、サイトはタバサに引っ張られるままに馬車に乗り込もうとしたが、ルイズに反対の腕を引っ張られた。

「ちょ、ちょっと! ご主人様をおいてどこに行くのよ!!」

「タバサの家」

「なんで?」

「約束だから」

「約束って何よ?」

「守秘義務があるから言えない」

「あー! もう!! ちょっと待ってなさい! 休暇願を出してくるから!!」

結局、ルイズがおれて休暇願を出すために塔に走っていった。その後姿を見送ってからサイトはキュルケを降ろして二人の方を向いた。

「二人とも、この間のルイズの魔法は、他言無用だ」

「あれってヤバいものなの?」

「『虚無』の系統魔法だそうだ。それが使えるってことの重大さを、本人の自覚が薄いようだから、せめて回りだけでも注意しておかないとな」

「分かったわ。黙っていることにする」

「……(コクン)」 
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