オルフェノクの使い魔
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オルフェノクの使い魔13
サイトやルイズがアルビオンの宣戦布告ことを聞いたのは翌朝になってからだった。アンリエッタの結婚式に向かうため、迎えの馬車を待っていたが、やってきたのは迎えの馬車ではなく、息せき切った一人の使者だった。
何があったのか気になった二人は、学院長室の中での会話を盗み聞きし、侵略の事を知った。
サイトは、タルブという名前を聞いて突然走り出し、ルイズは慌てて後を追う。
途中見かけたキュルケとタバサにルイズの部屋からギアを持ってくるようにと指示を出し(後ろから聞こえるルイズの抗議は無視)、コルベールの研究室に飛び込み、ガソリンを目的量作成して寝ているコルベールを叩き起こしてから、ガソリンを操作しつつ、ゼロ戦の下につくと、ガソリンをタンクに流し込み始めた。
「サイト!」
「なんだ?」
「あんた、何をする気よ」
「こいつの飛行テスト」
「ウソ! 戦場に行くつもりでしょ!?」
「一晩泊めてもらった恩がある。それを返しに行くだけだ」
(この世界ではじめて見つけた同族の墓があるしな)
後ろで聞こえてくる声に適当に応え、サイトはガソリンをタンクに入れ終えた。丁度そのとき、キュルケとタバサがデルタギアを持って戻ってきた。それを受け取り、操縦席に飛び乗った。それに続いてどさどさと乗り込む音がする。振り返ると、ルイズ、キュルケ、タバサの三人が無理やり一つの席に収まっていた。
降ろすかどうするかを一瞬だけ考える。複座とはいえ重量に限界がある。サイトとキュルケの二人が乗った時点で限界にかなり近い気がするが、タバサとルイズだ、外見よりも重かったとしてもたかが知れている。
エンジンを始動させるための作業を終え、バルルとエンジンが吼え、プロペラが回り始める。
ブレーキをリリース、ゼロ戦が動き出す。最適な離陸点に向かって移動させる。
ルーンが離陸する滑走距離が足りないことを教えてくれる。
サイトは少し考えてから、コルベールにジェスチャーで前から風を吹かせてくれと頼む。飲み込みの早いコルベールは頷いた。
(まぁ、目の前の壁壊して水で道作ってもよかったんだけどな…ど~せ、オスマンのジジイに怒られるのルイズだし……)
そんなことを考えながら、サイトはまえを見据え、ゼロ戦を加速させた。
後ろから「ぶつかるー!!」とかうるさい声が聞こえてくるが、それらを一切無視してサイトは離陸のタイミングに全神経を集中させる。
ルーンから読み取れるタイミングと、掌握している飛行機周辺の水の情報から得た最高のタイミングで操縦桿を引いた。
ゼロ戦はわずかに壁をかすめ、空に舞い上がった。
「すごい!! 本当に飛んでる!!」
「しかも見なさいよ、竜より全然速い!」
さほどかからず、ゼロ戦はタルブの村の上空にたどり着いた。あの緑豊かで美しかった村が真っ赤な炎と真っ黒な煙で染め上げられていた。炎は森にまで燃え広がっていた。
「楽しんでやがる…」
侵略のための前線基地にするなら、ここまでする必要はない。
世界に支持を得たいなら、必要最低限の攻撃だけでいい。
ここまでトリステイン軍の兵を引っ張り出し、一気に殲滅しようとしている、という作戦の可能性も考えるが、すでにトリステイン軍がきているのだから、襲い続ける必要などない。
タルブの村に脅威となるものがあったのだろうか? そんなわけない。
なら何故、メイジもいないこんなド田舎を襲うのか、敵の様子を見ればわかる。トリステイン軍は防戦一方だ。彼らにとってタルブの村をおそうのは、遊びでしかない。
サイトは操縦桿をたおし、攻撃に出た。
(さぁ、楽しい楽しいダンスパーティーの始まりだ)
――――――――――――――――――――――――――――
「三つ!」
三人目の竜騎士に機関銃の弾をプレゼントしてサイトは次の獲物を探す。竜だけにねらいを定めて撃つなどということはしない。むしろ、人間を狙っている。生命力の強い竜を撃って無駄弾を消費するよりも、一発で終わりの人間の方が簡単に終わる。そのついでに流れ弾で竜が死ねばラッキーくらいにしか考えていなかった。
機体の周辺を漂う空気中の水分を掌握し、全方向に目を向けている。
(次のダンスのお相手は…右下からくる三騎)
素早く操縦桿を引いて宙で半円を描く、同時に後ろから悲鳴が上がる。サイトは、三騎を真上から捕らえた。敵の火竜が正面にくると同時に引き金を引く、こちらは重力を味方につけた上に互いに向かい合って加速している状態だ、その威力は格段に上がる。サイトに、照準機など必要がない。ガンダルーヴとオルフェノクの能力を組み合わせてあたると確信をもてるタイミングを計ることは容易だ。
水から与えられる情報の中で必要なものを選び、ガンダルーヴの力で発射する瞬間を見極める。
瞬く間に三騎を落としてしまった。
「すごい…」
「天下無双のアルビオンの竜騎士が、まるで虫みたいに落ちていくわ!」
「夢でも見ているのかしら!」
三者三様の声を聞きつつ、サイトは命を賭けたダンスの相手を探すため、ゼロ戦を操る。
―――――――――――――――――――――
後部座席に入ったルイズは何度目かの悲鳴を上げた。
「いやぁぁぁ!!」
風防に鼻をぶつけて涙目になったとき、足元に『始祖の祈祷書』が落ちていることに気がついた。どうやら、これに乗るとき持ち込んだが、激しい左右上下の運動に耐えきれずに落としてしまっていたようだ。
ルイズは『始祖の祈祷書』を粗末に扱っちゃいけないと、慌てて拾い上げ、ついでにこれ以上、揺らさないでくれと、祈ろうと思い、何気なくページを開いた。
その瞬間、指にはめた水のルビーと『始祖の祈祷書』が光りだした。
光が収まると、そこには文字が書かれていた。
「な、なによ、それ!」
「知らないわよ。真っ白だったのに、なんか文字が書いてある」
そう言って、キュルケに『始祖の祈祷書』を向けた。
「何にも書いてないじゃない。気でも狂った? ゼロのルイズ」
「何言っているのよ、ほらここ…」
「何も書いてない」
「え!?」
キュルケとタバサはこんなときに何をふざけているんだという顔で、ルイズを見た。
こんな状況だ。この二人が、ウソをついているとは考えられない。
(私にしか、見えてない?)
ルイズは、自分だけが読めるらしい、それを読むことにした。うるさいくらい、高鳴る鼓動を無理やり押さえ込み、詠み進める。
そこには、伝説と呼ばれたゼロ番目の系統、『虚無』について書かれていた。
―――――――――――――――――――
あらかた竜騎士を落としたサイトは、新たな獲物として敵の旗艦『レキシントン』を選んだ。
旗艦が襲われていることに気づけば、他の艦はこちらまで退いてくるはずだし、先ほどまでの様子では、この艦が一番、厄介なようだ。その戦艦の注意をひきつけることができれば、トリステイン軍が持ち直し、結果、サイトの望む有利な状況になってくれるはずだと、計算した上でだった。
サイトは知らなかったことだが、このときすでにトリステイン軍の空軍は壊滅状態にあり、とてもではないが、戦線に戻れる状態ではなかった。
サイトは、水の壁を展開し、レキシントンから放たれる散弾を防ぐ。だが、できるのはそこまでだ。ゼロ戦の機関銃ではレキシントンを落とすことは不可能に近い。甲板に出ていた兵を無慈悲に屍にかえたが、外にいたら狙われると学習したらしく、最初のころこそ仲間を助けようと甲板に姿を現すものが居たが、今では外に出てこようとする者はいなくなっていた。
無駄弾を撃つことを好まないサイトは、確実に落とせる方法を探していた。そのとき、後部座席から、狭い隙間を通ってルイズが前にやってきた。キュルケが続こうとするも、彼女のグラマラスな身体では隙間を通ることはできなかった。
「何のようだ?」
レキシントンから放たれる散弾を、雲をつかって作り出した壁で防ぎつつ、自分の足の間に座り込んだルイズの頭部を見た。
「信じられないんだけど…上手くいえないんだけど、私、選ばれちゃったかもしれない。いや、なんかの間違いかもしれないんだけど」
「わけのわからない話しをしているほど暇じゃない」
(クソ、特攻機だろ、爆弾の一つでも積んでいろよ)
「いいから、このひこうきとやらを、あの巨大戦艦に近づけて。ペテンかもしれないんだけど……何もしないよりは試した方がマシだし、他にあの戦艦をやっつける方法はなさそうだし……ま、やるしかないのよね。わかった。とりあえずやってみるわ。やってみましょう」
ルイズの独り言のような言葉に、サイトは眉をひそめたが、ふと気がついた。これは自分を追い込もうとしているのだろう。逃げ出せないように自分で自分を追い込む。そうやって自分のテンションを高めるという方法をやっていたSWAT隊員がいたなと、おもいだしつつ、サイトは確認をとる。
「大丈夫なんだな? いざってときに何もできませんでしたなんてことになったら、人間爆弾にしてあの戦艦に叩き込むからな」
「ダ、ダイジョウブヨ!」
(お願い!! 絶対に成功して!! 殺されちゃう!!)
ルイズは確かに見た、サイトの目は冗談を言う目ではなかったことを。
サイトはゼロ戦をレキシントンの真上に向かわせた。戦艦の周囲を飛び回り、そこが死角であることに気がついたのだ。
ルイズはサイトの肩に跨り、風防を開けた。
「私が、合図するまで、ここをぐるぐる回ってて!」
ルイズは息を吸い込み、目を閉じた。それからかっと見開く。
『始祖の祈祷書』に書かれたルーン文字を読み始めた。
サイトはルイズの指示通り、旋回を開始しようとしたとき、背後から先ほどまでの火竜とは比べ物にならないスピードで、迫る一騎の竜騎士に気がついた。
ワルドであった。
―――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ―――
ワルドはイライラしていた。あの力が欲しい。あの白く、今まで感じたこともない圧倒的な力。あの力さえあれば、こんな組織にいなくても、自分の望むがままに世界をかえられるそんな力。
ワルドはデルタの適合者でなかったため、デルタのデモンズ・スレートによってデルタの力に魅入られてしまっていた。
彼は、クロムウェルの命を受けてこの侵略作戦に参加することとなった。だが、彼の心は別のところにあった。
どこを探しても、あのバケモノやルイズの死体はなかった。そうなると、可能性は一つだ。おそらく、彼等は生き延びている。ワルドは早く、彼らのいるであろう学院を襲いたかった。
あの力はたぶん、あのバケモノが持っていったに違いない。今すぐにでも行きたいのだが、この作戦は、あの力を再び手にするために必要なことだと、自分自身を納得させ、ワルドは焦る気持ちを抑えて目の前の任にあたっていた。
しかし、その意識も突如現れたなぞの竜騎兵を見て、彼の頭の中から追い出されてしまった。あれはどう見ても、ハルケギニアのものではない。
ならば、あのバケモノが関わっている可能性が高い=ヤツはあの力をここに持ってきている!
そんな答えを導き出したワルドは機を狙い、ついに敵の背後を取った。
―――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド―――
振り切ろうとするも、攻撃力のある火竜ではなく、速さのある風竜にのっているため、ピタリと後ろについてくるワルドにサイトは顔をしかめた。
「タバサ、こっちにきてくれ」
呼ばれたタバサはルイズとおなじように隙間を通って前の座席に移動した。
「俺が合図したら、これを思いっきり引っ張れ、俺がいいって言うまでだ」
そう言ってタバサに操縦桿を握らせ、シートベルトをしてやってから、立ち上がり、後部座席に一人取り残されたキュルケにもシートベルトをさせ、その肩に自分の肩に乗っているルイズを乗せた。
「しっかりと持っていてやってくれ。ここから落ちたら、簡単にミンチになるから」
文句を言おうとしたキュルケはミンチになったルイズを想像し、慌ててしっかりと掴んだ。
サイトはタバサの上から自分の手を乗せて必要なときがくるまで、操縦を行う。
水が、背後にいるワルドの詠唱が終わりつつあることを教えてくれた。最後の部分、魔法の最終構成を行うため、精神に全神経が集中する瞬間をサイトは逃さなかった。
「今だ!」
「ッ!!」
タバサは力一杯、操縦桿を引いた。とたん、ゼロ戦は急上昇を始めた。
サイトが止めないため、タバサはそのまま操縦桿を引き続ける。上昇は宙返りへとかわり、段々と空が下に見え始めた。
そのとき、ふわっとサイトがゼロ戦から離れた。
「「ッ!?」」
タバサとキュルケは悲鳴をあげそうになったが、ギリギリのところで、サイトが飛べたことを思い出し、悲鳴を飲み込んだ。
タバサはまだ、操縦桿を引き続ける。サイトが「いい」と言うまでは、何があっても引き続けるつもりだった。
―――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ―――
ゼロ戦から自然落下したサイトは、デルタフォンを握っていた。
「変身」
<Standing By>
<Complete>
デルタはベルトの中央にあるミッションメモリーΔをはずし、デルタムーバーに差し込む。
<Ready>
銃身が伸び、デルタムーバーはブラスター・モードから、ポインター・モードへと、移行した。
「Check」
<Exceed Charge>
白い光がフォトンストリームを駆け抜け、ポインターに注がれる。
首を上げると、そこには標的を見失って荒々しく周囲を見回すワルドが見えた。冷静沈着だったはずの男の姿を見てサイトは確信した。
「やっぱり、コワレたか…
…これが、貴様が欲している光だ。好きなだけ受け取れ」
引き金を引いた。
ポインターから放たれた光は、ワルドの目の前で三連続の円錐となって展開された。
ポイントされ、身動きの取れなくなったワルドは、迫るデルタに狂気の笑みを浮かべた。
「さぁ、来い!! 力よ!! 最強の力ぁ!!!」
デルタは空中で反転し、足から円錐に飛び込み、光となってワルドに突っ込んでいく。
デルタの持つ、唯一にして最強の技、ルシファーズハンマーがワルドに叩き込まれた。
「オオオォォォ!!!!」
「グガァァァァァァ!!!!」
ワルドを突き抜け、デルタは再び落下を始めた。
その背後には、風竜とともに、Δの紋章を刻まれたワルドが、赤い炎を上げて灰となって消えた。
灰の雨に浴びながら、落下するデルタの足元に狙い済ましたかのように、ゼロ戦が滑り込み、デルタをキャッチした。
「タバサ、もういい」
「わかった」
変身を解除したサイトは、キュルケからルイズを受け取り、タバサを下がらせて再びレキシントンの真上を旋回する。
―――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……―――
詠唱中、ルイズの中でリズムが生まれる。
心が、頭が理解していく。これが自分の系統、自分の本当の力だと。
喜びが生まれる。ああ、ようやく見つけた! 自分の魔法!!
そして、長い詠唱ののち、呪文が完成した。
その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を、理解した。
その威力は、自分の目の映るすべての人を巻き込む、と。
選択は二つ。殺すか、殺さぬか。
『今、なすべきこと、望むことを考えろ。そうすれば、身体は自然と正しいと思うほうへ進んでいく』
何故か思い出したその言葉に頷き、ルイズは下に見える戦艦をみつめた。
覚悟は決まった、後は実行するだけ…
ルイズは己の衝動に準じ、宙の一点めがけて、杖を振り下ろした。
「エクスプロージョン!!」
――――――――――――――――――――――――
アルビオンの一方的な宣戦布告と侵略を受け、ウェディングドレスを破いて戦場にやってきたアンリエッタは、信じられない光景を目にした。今まで、散々自分たちに砲撃を浴びせかけていた巨艦を中心とした艦隊が、まるで太陽のような光に飲み込まれ、すべての戦艦の帆が、甲板が燃え、次々と墜落していった。
アンリエッタをはじめ、誰もが、呆然とその光景を眺めていた。
一番初めに我に返った枢機卿のマザリーニは、空にきらめく銀翼を見つけた。ゼロ戦だ。
「諸君! 見よ! 敵の艦隊は滅んだ! 伝説のフェニックスによって!! あの空に飛ぶ翼を見よ! あれはトリステインが危機に陥ったときに現れるという、伝説のフェニックスですぞ!! おのおのがた! 始祖の祝福我にあり!!」
マザリーニは口からでまかせをならべ、地に落ちかけていた兵たちの戦意を奮い立たせた。
そして、アンリエッタの声と共に、兵たちは手元に転がり込んできた勝利を得るため、反撃を開始した。
「全軍突撃ッ! 王軍ッ! 我に続けッ!!」
―――――――――――――――――――――――――
トリステイン軍が陣をしくそばに、ゼロ戦を着陸させ、脱力したルイズをキュルケたちに託し、サイトはゼロ戦から飛び降りて再びデルタに変身した。
「おまえたちは、ここでこいつを守っていてくれ」
「ダーリンは!?」
「俺は、村に降りたままの敵を殺る。それにあの火を消せるのは、俺くらいしかいないだろう? どっかの誰かが、戦艦ごと雲まで吹き飛ばしたからな。雲を集めて雨を降らせられないから、村の真ん中にでかい噴水を作ってくる」
そう言うと、デルタはデルタフォンを抜き、コードを音声入力する。
「three・eight・two・one」
<Jet Sliger come closer>
その数秒後、轟音と共に、黒と銀に輝くなにかが近づいてきた。
「な、何!?」
「デルタの相棒だ」
なにか、デルタのサポートビークル、ジェットスライガーがデルタの前で止まった。
離れていろと声をかけ、デルタはジェットスライガーに乗り込み、ハンドルを握った。ルクシオンジェネレーターが唸りだし、ジェットスライガーは物凄い速さで、発進した。
「ウソ…なんて速さなの……」
「……(コクコク)」
キュルケとタバサは呆然と見送った。
―――――――――――――――――――――――――――
ジェットスライガーは、時速1300kmという恐ろしい速さで進んでいく。あっという間に村が見えてきた。
村の入り口付近に三人のメイジが、いるのが見えた。
「邪魔だ」
そう呟きながら、デルタは引き金を引いた。ジェットスライガーの前部からフォトンミサイルが、発射された。
ミサイルが三人を木っ端微塵に吹き飛ばし、ジェットスライガーは村に突っ込んでいく。
敵を片っ端からミサイルか、スピードをまったく緩めていないジェットスライガーの体当たりで葬り、村の中心にたどり着いた。
デルタからサイトへと戻り、今度はミズチオルフェノクへと変化する。
「さてと、やるか」
ミズチオルフェノクはトライデントを地面に突き刺し、水を呼ぶ。
水がそれに応え、地面から噴出す。そして、その水は、天高く舞い上がり、雨のようになって村を燃やした火を消していく。
この様子は、トリステイン軍にも見え、再び、マザリーニがでまかせを叫び、戦意を高めさせた。それを隣りで聞いていたアンリエッタは、よくもまぁ、思いつくものだと感心し、マザリーニの二つ名を「でまかせ」か「口八丁」に換えてしまおうかと本気で考え始めた。
――――――――――――――――――――――――――
デルタの変身を解除すると同時に、ジェットスライガーが帰ってしまったため、仕方なく、飛龍形態になってゼロ戦のところまで戻ってくると、タルブの村の住民が集まっていた。だが、様子がおかしい。サイトは、住民を掻き分け、中心に進んだ。そこには、体のほとんどが焼け爛れたシエスタの姿があった。側では、タバサが決して得意ではない水系統の治癒魔法をつかっていた。そのとなりには、キュルケが不安そうに立っていた。ルイズの姿が見えないことから、まだ脱力してゼロ戦の中にいるのだろう。
「ダーリン!!」
水とは対照的な位置にある系統を得意とするため、タバサの手助けができず、歯がゆい思いをしていたキュルケが、サイトが戻ってきたことに気づいて声を上げた。
「何があった?」
「ダーリンが村に向かってすぐに、村の人たちが集まってきたの。
ここはトリステイン軍もそばにいるし、安全だと思っていたのに、突然、メイジが襲い掛かってきてッ!!」
そう言って指差した先には、胸に氷が突き刺さり、頭が焼け爛れた死体がいた。
「軍の救護兵を連れて来い」
「ダメなの! さっき、村の人を使いに出したけど、向こうの怪我人の方が優先されてて…」
「……」
サイトはシエスタの側にかがんだ。
「意識は?」
「なんとか」
得意ではない魔法を連続でつかっているため、激しく疲労しているらしく、タバサは汗が浮かび、青い顔をしていた。
「キュルケ、連中を村につれて帰れ。火は消してきた。ルイズも、硬いシートよりもベッドの方がいい」
「え?」
「…早く」
「わ、わかったわ」
拒否を許さない殺気すら感じさせるサイトの声に慌てて頷き、キュルケはぐったりとしているルイズを担がせ、村の住民を引っ張って村へと歩いていった。
「シエスタ、聞こえるか?」
(こいつの曽祖父曰く、この世界の人間はオルフェノクにできない。だが、こいつなら!)
「サイト…さん?」
「そうだ。いいか? よく聞け」
「…はい」
「おまえに選択肢をやる。このまま、人間として死ぬか。俺のようなバケモノになって生き延びるか。好きな方を選べ」
「……」
「…早くしろ」
「……生き、たいです」
「わかった」
サイトはミズチオルフェノクに変化し、ありったけの力を込め、二本のエネルギーの牙を生み出す。指を鳴らすと同時に牙がシエスタの胸に突き刺さった。
ウェールズのときのように砕けることなくそれは、シエスタの胸に深々と突き刺さった。
「兄さまッ!?」
思わず、タバサは声を上げた。
「黙っていろ」
牙は心臓を燃やし、エネルギーを注入している。今、シエスタの身体は、内側で急激な変化を始めている。
幾分か経ちシエスタが目を開けた。身体中にあった火傷は綺麗に消えていた。
ボーっとしたまま、彼女は起き上がろうとしたとき、顔にサイトのような模様が生まれ、一瞬だけ、灰色の異形へと変化した。
「…フゥ」
「!?」
サイトは安堵のため息をつき、タバサは目を見開いた。
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