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オルフェノクの使い魔

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オルフェノクの使い魔9

<お疲れ様でしたサイト>

「マズ…」

ペッと口から灰を吐き出し、ミズチオルフェノクは人間体へと戻った。

「でも、よかったのか? ラッキークローバーを全滅させて」

<常勝こそがラッキークローバーの常、敗走した時点で彼らはラッキークローバーではなくなっていましたから。
それにこれからは、SWAT部隊の方が必要になっていく。威張るだけの者たちなどにようはありません。
さて、そろそろ水も抜けたでしょう。こちらでランチにしませんか?
うな重にエビフライ、それから…>

「ムカデ料理なんか出しても絶対に、食わないからな」

<好き嫌いはいけませんね。
それで、満足はできましたか?>

「それなりに、な」

<それなりですか>

「ああ、上に行ったせいで、さらに上を目指そうって意識もないやつらだったからな。
それにしても、なんで水なんて入れたんだよ」

<そんなこと決まっているじゃないですか、あなたの能力で、床を破って水道管破裂されるなんてことされたら、修理代がいくらかかるか…
ただでさえ、市内戦の度に水道工事の請求書が回ってくるんですから。
これ以上の不要な出費は避けたいんです>


*************************


礼拝堂に降り立ったミズチオルフェノクは人間体へと戻り、血を流して倒れているウェールズの血に触れた。すると、流れ出たウェールズの血は、ウェールズの元に戻っていった。

(即死じゃなくて良かった…肺も残っているし、心臓も完全につぶれたわけじゃない。血を巡回させておけば、とりあえずは…)

「サイト?」

「待たせたな」

「……」

安心して緊張の糸が切れたらしく、ルイズは気絶した。
風が吹き、埃が晴れると、こちらを睨んでいるワルドがいた。

「最初の頃からずっと怪しいって思っていた。だが、おまえを信用しているやつらの目を覚まさせるような決定的な物がなかったから、ずっと放置していた。
……俺のミスだ。あのときに殺しておくべきだったな」

あの宿でみんなに言ったところで、自分に近い考えができるタバサと、付き合いの薄いワルドよりもサイトやタバサを信じるであろうキュルケくらいしか、仲間にできなかっただろう。それに、もし、言ったとしても、仲間の間に溝が生まれ、連帯行動がとれなくなっていた。だから、彼は言えなかったのだ。
だが、今ではそれを悔やんでいる。何故、あの決闘の場で全力を持って殺さなかったのだろうかと。

「手加減していたとでも言うのか? 見得だけは一人前だな」

「ルイズは、おまえが敵かもしれないと伝えたとき、そんなはずないって、俺を罵倒したくらいおまえを信用していたぞ」

「それは、彼女が勝手にしたものだ」

「……人のことを言えた義理じゃないが、おまえ…最低だな」

ワルドは、あっという間に詠唱を完了させ、『ウィンド・ブレイク』を放つ。が、それよりも早くサイトの顔に模様が浮かび上がり、ミズチオルフェノクへと変化し、風の魔法をトライデントで受け止めた。

「何!?」

「今度は手加減抜きだ。さあ、パーティを始めよう」

ミズチオルフェノクはトライデントを床に突き刺し、地下を流れる水を呼び出そうとする。

「ッ!?」
(なんだ? これは…循環システム!? しかも、微妙なバランスで現状を保っている。下手に干渉すれば、アルビオンが崩れる)

トライデントを床から抜き、ミズチオルフェノクはワルドと対峙した。


―――――――――――――――――――


「…ウッ」

意識を取り戻したウェールズが呻き声をあげながら目を開けた。

「私は…死んだのか?」

「生きているよ。一応だけど」

「サイトか?」

「ああ」

思うように動かない身体を動かし、声のするほうへ身体に向ける。
そこには、ワルドと対峙するミズチオルフェノクがいた。ミズチオルフェノクの側には、ソフトボールくらいの大きさの水の球が二つ漂っていた。
アルビオンに影響を与えないくらいで集めることのできる水はこの程度だったのだ。
ウェールズはワルドに突かれた場所に目を向けると、そこにはぽっかりと穴があいており、穴の中を血がまるで血管の中を流れているかのように流れていた。

「これは?」

「やられた場所が良かったらしい。肺は無傷だったし、心臓も全壊したわけじゃなかったからな。だから、血を通常と同じように流している。これで、とりあえずは平気なはずだ」

水球を操り、ワルドと戦いつつ、ミズチオルフェノクは律儀に応える。
だが、彼は内心、かなり焦っていた。
彼はもともと、ウルフオルフェノクやホースオルフェノクのように走り回ったりする戦い方には不向きであり、特殊能力と鋭利な感覚に頼って一ヶ所に留まって戦う戦い方とってきた。
彼の能力は、『水(液体)を自在に操る』は、地球のどこにいても使えた。
海や川ならば、それが彼の武器だったし、陸は地下を流れる水があり、空だって雲がある高さまで上がれば、恐いものなしだ。
さらに言ってしまえば、現在、ウェールズの体を巡っている血のように超精密操作が可能という優れものだ。
しかし、今、ミズチオルフェノクが戦っている場所は雲よりも高く、地下の水を使うわけにもいかない場所である。彼は、今まで体験したことない場所での戦いなのだ。最初はウォーターカッターで対応していたが、ワルドに射程とモーションを見抜かれ、無駄だと理解し、今は使うのをやめた。

(飛龍形態になって一気に…だめだ。ここじゃ、ブレスを撃つまでの時間がかかりすぎる。それにただ、的を大きくしてやるだけだ……クソ!!)

ワルドの『ウィンド・ブレイク』を水球の変化した壁と威力を殺し、トライデントで受ける。

「最初の勢いはどうした? …それが本来の姿のようだが、人間の姿をしていたときと、さほど変わらないな。
このまま、ゆっくりと相手をしてやるほど、暇ではないのだ。本気を出させてもらう」

ワルドが呪文を完成させると、ワルドの体はいきなり分身した。本体をいれて五体のワルドが現れた。
ワルドの分身が懐から白い仮面を取り出し、身に付けた。それはあの桟橋で戦ったメイジのものだった。

「貴様だったのか……」

「いかにも。一つ一つが意志と力を持っている。風は偏在するのだ!」

「何、偉そうなこといってやがる! ただ、自作自演でルイズにいいとこ見せようとしただけじゃねぇか!! この三流結婚詐欺師!!」

五体のワルドの猛攻をミズチオルフェノクは二つの水球とトライデントでさばく。
だが、ミズチオルフェノクはウェールズの生命維持をしつつ、戦いをしている。しかも、ルイズとウェールズを守りながらだ。どうしても防戦一方になってしまう。


――――――――――――――――――――


失神していたルイズが目を覚ました。ルイズはミズチオルフェノクが苦戦しているのを見ると、はっとした顔になり、杖を掲げた。呪文を詠唱し、杖を振る。『ファイヤー・ボール』でも唱えたらしい。その魔法は分身の一体にあたり、爆発した。
激しい音が礼拝堂に響き、その分身は消滅した。
ワルドが、ルイズを睨み、魔法を放った。
ルイズは思わず、目をつぶったがいっこうに衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると、ミズチオルフェノクの背中があった。
その背中を見た瞬間、どうしようもないほどの安心と、謝らなければという思いで胸がいっぱいになった。

「俺の部屋は分かるか?」

「え? ええ」

「部屋のベッドの上に置いてあるものを持ってこい。」

「へ?」

「早く!!」

「う、うん!」

怒鳴られ、慌てて外に向かって走り出すルイズに二体の分身が襲い掛かるが、その分身を水球が邪魔をする。
水球は霧散してしまったが、ルイズは無事に礼拝堂を出ることができた。


――――――――――――――――――――――――――――


ルイズを援護するために失った水球を生み出す余裕は、今のミズチオルフェノクにはなかった。
本来なら、一瞬で作り出してしまうところだが、アルビオンへの影響を考えると、それができなかった。
ウェールズは、明らかに自分を狙っている攻撃を受け止めて戦っているミズチオルフェノクの後ろ姿を見て、友を助けるどころか、足を引っ張っている自分がとても悔しくてならなかった。援護したいところだが、近くに杖は見当たらない。

(サイトは水を操れるのか? それならば、私の体を流れている血も理解できる)

「ック!!」
(せめて、もう少し水があれば…)

そのとき、ミズチオルフェノクの脳裏にすぐに調達でき、アルビオンに影響を与えずにすむ“水”の存在に気づいた。

(何を考えているんだ、俺は!!)

その思考を振り払い、迫り来るワルドたちに意識を集中させる。

「サイト」

「なんだ…」

「私を使え」

「なッ!?」

「きみには、水を操る力があるのだろう? この体を流れる血も君が操っている。違うか?」

それはミズチオルフェノクの思考が導き出した策でもあった。

「……」

黙秘するミズチオルフェノクの名をもう一度、力を込めて呼ぶ。

「サイト…」

観念したようにミズチオルフェノクの頭がわずかに縦に動いた。

「もう少し待てば、ルイズが戻る」

「私という、足枷をつけたままでは、それまでもちそうにない。違うかね?」

「……」

ミズチオルフェノクは、ウェールズを守るように立っている。そのためにワルドの攻撃を何度もその身体で受け止めている。オルフェノクとして並みより少し高いくらいの防御力しか持たないミズチオルフェノクは、敵に悟らせないため、毅然としているが、結構なダメージを受けているのは確かだった。

「きみのためなら、きみが助かるのなら、この命惜しくない」

「俺に初めてできた友を殺せというのか?」

「私は、もう死んでいる。最期に友に会えたこと、とても嬉しく思う。これ以上、友が苦しむ姿を見たくないのだ。頼む、私を使ってくれ。サイト」

「………あとで、うらみごとはいくらでも聞く」

そういうとミズチオルフェノクは、指を鳴らした。すると、半透明の牙が二本現れ、ウェールズの胸に刺さった。だが、オルフェノクエネルギーを注入するための牙が二本とも砕けた。

「なに!?」


(どういうことだ!? エネルギーの注入で失敗するだなんて聞いたことがないぞ)

「何をしようとしたのかは、よくわからなかったが、生かそうとしてくれたんだろう? だが、私にはそれはあわなかったようだ」

「……っく!!」

もう一度、オルフェノクエネルギーを注入しようとするが、結果は先ほどと同じだった。

「もう手はないのだろう? さぁ! やってくれ!!」

「…ッ!!!!」

ミズチオルフェノクはトライデントを振り上げ、前に突き出した。それと同時にウェールズの体から、血が噴出した。噴出した血は龍となり、分身の一つを消滅させた。

「さらばだ、我が友……」

仰向けに倒れたウェールズの顔は満足げな笑みがあった。ミズチオルフェノクの眼から一筋の涙がこぼれた。


―――――――――――――――――――――――


ルイズは必死だった。既に息が切れ、足が悲鳴をあげていたが、懸命に動かした。普段、走ったりすることがあまりない体が、もう悲鳴をあげ始めた。
すでに非戦闘員は脱出し、貴族たちも戦闘準備を整えているため、ルイズは誰ともすれ違うことなく、サイトに割り当てられた部屋にたどり着いた。
ふらふらしながら、ベッドの上に置いてある布の塊を掴んで、きた道を戻ろうとした。そのとき、布が外れ、包まれていた中身が姿をあらわした。

(『呪われし衣』? でも、形が少し違う?)

ルイズは、布の中から出てきたものに首を傾げるが、サイトが待っていることを思い出し、ふらつく足を動かし、再び、走ろうとした。だが、足が思うように上がらず、ゆっくりと歩く程度の速さしか出ない。気を抜けば、座り込んで、動けなくなりそうだった。

「動きなさいよ、私の足!! 今走らないで何時走るのよ!!」

必死に壁に手をつき、前へ前へと進む。その遅さにルイズは、悔し涙を流していた。


――――――――――――――――――――――――――


紅い龍を従えたミズチオルフェノクは分身をすべて消滅させ、本体に攻撃を仕掛けようとしたが、それよりも早く本体が再び分身を呼び出し、不利な状況となっていた。風石の代わりをやってのけたほどだ、まだまだ、ワルドの魔力の底は見えない。

(ヤツの魔力がなくなるまで…なんてやってられるほど、時間もない。ルイズはまだなのか?)

五体のワルドをさばきながら、ルイズが戻ってくるのを待った。
そして、ついに扉が開き、足がガクガクと震え、目を真っ赤にして咳き込みながらも荒い呼吸をするルイズが現れた。
ミズチオルフェノクは、ルイズに襲いかかろうとするワルドたちに紅龍をぶつけ、その隙に、ルイズの側に移動した。

「よくやった」

ミズチオルフェノクは、ルイズから友の証を受け取った。
紅龍を自分の元へと戻し、サイトに戻った。それと同時に紅龍は、血へと戻り、サイトに降り注いだ。

(行くぞ。ウェールズ!)

血で真っ赤に染まったサイトは、友の証を腰に装着し、一部を外す。

「さてと、パーティの第二幕だ。 …変・身」

<Stnding By>

デルタフォンをデルタドライバーにセットした。

<Complete>

純白のフォトンブラッドがフォトンストリームとなって全身を駆け抜ける。カイザのフォトンストリーム、“ダブルストリーム”よりもさらに高い出力を誇る“トリニティーストリーム”が輝き、『闇に煌く白き牙』仮面ライダーデルタへと変身した。
デルタは腰に装備しているビデオカメラ型マルチウェポン・デルタムーバーとデルタフォンを合体させた状態で取り外した。

「Fire」

<Burst Mode>

デルタはそれを分身の一体に向けて引き金を引いた。白い閃光が分身の眉間を打ち抜き、消滅させた。

「なにッ!?」

驚愕するワルドを無視してデルタはさらに引き金を引く。五体いたワルドはあっという間に二体になってしまった。

「ここで待っていろ。すぐ済ませる」

ルイズが頷くと、デルタもわずかに頭を縦に動かし、ワルドに向かって走った。とっさに飛び出してきた分身をデルタムーバー・ブラスターモードで撃ち抜き、本体に膝蹴りを叩き込む。
ワルドはたった一撃で礼拝堂の中央から壁まで吹っ飛ばされた。壁にクレーターを作って倒れたワルドに向かって銃を向ける。生かすつもりなどない。
ならば、一撃で殺せばよかったのでは? と思うだろうが、それでは、味気なさ過ぎる。

「ダメ…」

引き金を引こうとしたとき、ルイズのかすれた声が聞こえた。

「ダメ……あいつ…は、ほ、法のもとで、さ、裁くの…ハァ…
それ、に、あいつからは、ハァ…貴族派、情報を聞き出さないと……だか、ら、殺しちゃダメ……」

「……」

「……」

「わかった」

サイトは変身を解除した。とりあえず、ルイズが回復するまで待った。

「…で、どうやって脱出するか、だな」

「乗せてくれるっていう選択肢はないの?」

「ない」

「そんな、きっぱり言わなくても…」

そのとき、遠くの方が騒がしくなった。

「…始まったか」

「どうするのよ! 急がないと!!」

「ああ」

サイトが考えることに集中したとき、それが起きた。
動かなくなっていたワルドが一体の分身を生み出した。

「ッ!?」

分身がルイズに向けて『エアー・ハンマー』を放った。サイトは、ミズチオルフェノクとなってそれを受け止める。
分身は、さらに至近距離から『エアー・ハンマー』をミズチオルフェノクの手に放った。

「ック!」

分身は、ミズチオルフェノクが思わず、手放してしまったデルタギアを奪い取り、ワルドの元に戻って消えた。

「ッチ、まだ動けたのか」

死なない程度に手加減したとはいえ、ワルドが意識を取り戻すまでもう少しかかると予想していたし、仮に戻っても肋骨が折れて内蔵を傷つけ、さらに壁に激突して他の骨も折れて動けるはずがないと、油断したことに舌打ちした。
ワルドは、起き上がるとデルタギアを装着した。

「やめろ。それはおまえが扱えるものじゃない!」

ミズチオルフェノクの忠告を無視し、ワルドはデルタフォンを外した。

「変身…」

<Stnding By>

そして、デルタフォンをデルタドライバーにセットした。

<Complete>

ワルドはデルタへと変身した。ライダースーツが、ダメージでボロボロになった体を補助し、麻薬のようにワルドから痛みを取り払った。

「素晴らしい力を感じる。確か、こうだったな。ファイヤー」

<Burst Mode>

デルタは銃口を二人に向け、引き金を引いた。

「さてと、きみの言う、パーティとやらの第三幕、いや最終幕だ」

「!」

「キャア!!」

ミズチオルフェノクはルイズを抱えて横にとんだ。銃を撃ち慣れないデルタの放ったフォトンの弾丸は、正確性がなかった。だが、それが逆に脅威と言えた。凶弾がミズチオルフェノクの足にあたった。

「グッ!!」

膝をついたミズチオルフェノクは、ルイズを背後に押しやり、トライデントで捌こうとする。何発かは、さばくことができたが、数発を体で受け止めた。
デルタが、ミズチオルフェノクに襲い掛かる。肉弾戦の能力がさほど高いわけではないミズチオルフェノクが、トリニティーストリームという脅威の出力を持つデルタに及ぶはずも無く、防戦一方となる。攻撃自体はモーションがバレバレのため、脅威ではないが、威力がバカにならない、3,5tのパンチと8tのキックがガードの上からでも、十分にダメージを与えてくる。

(やつが、ルシファーズハンマーの使い方が分からないのが、せめてもの救いか…だが、このままでは、いずれまずいことになる。クソ!! カイザがあれば)

そのとき、ミズチオルフェノクが礼拝堂に突入するときに破った天窓から、飛龍形態のミズチオルフェノクよりもさらに大きな竜が現れた。

「ダーリン!! オールド・オスマンからの届け物よ!!」

シルフィードの上からキュルケが、袋を投げた。ミズチオルフェノクはシルフィードの登場で攻撃が止まったデルタを蹴り飛ばし、袋を受け取った。

「助かった」

サイトは袋を破り捨て、カイザドライバーを装着した。

――― 9 1 3 ENTER ―――

<Stnding By>

サイトはカイザフォンを左手に持ち、スタートアップコードを入力すると、握った右拳を腰に構え、左手を天に向けた。左手を上げると同時に投げたカイザフォンが宙を舞い、その間に右手と左手を入れ替え、右手でカイザフォンをキャッチした。

「変身!!」

カイザフォンをカイザドライバーにセットする。

<Complete>

サイトの体を黄色いラインが包み込み、『闇に轟く黄色の雷鳴』カイザへと変身した。
右手の指を小指から順に握る。

「それは、ウェールズが俺に友の証ってことでくれたものだ。それを使いやがって…覚悟はできているんだろうな? 
物語は起承転結。これが本当の最終幕だ」

腰に装備されているΧ型の武器、カイザブレイガンを手にし、コッキングレバーを引く。
続いて、カイザフォンを抜き、手元を見ることなく、コードを入力する。

――― 1 0 6 ENTER ―――

<Burst Mode>

二重に響くマシンボイスを聞きつけたデルタが慌てて銃を撃った。それと同時にカイザブレイガンとフォンブラスターも火を噴いた。白い光弾が黄色い光弾によって空中で打ち落とされる。しかも、出力で劣るため、相殺するために白の光弾一発に黄色の光弾は最低二発あてている。
両手撃ちであるカイザの方が放つ弾の量が多く、デルタに何発も撃ち込む。
バーストモードにしたため、すぐに弾切れしたフォンブラスターをもどし、ミッションメモリーを外して、カイザブレイガンに挿入し、銃床部から黄色いエネルギーブレードを生み出した。

<Ready>

デルタは足元に転がっていた自分の杖を見つけ、それでカイザの斬撃を受け止めようとしたが、あっさりと斬られ、なすすべなく、デルタは滅多切りにされた。

「オオオオオオ!!!!!!!!」

カイザの斬撃は、普段の精励された攻撃ではない、怒りをぶつけるような荒々しい攻撃だった。
カイザがバックステップで距離を取った。

――― ENTER ―――

<Exceed Charge>

カイザフォンから黄色い光が、フォトンストリームを伝ってカイザブレイガンにたどり着いた。
カイザは両手でブレイガンを構え、スコープの中心にデルタをいれて、光弾を放った。光弾を受けたデルタは、まるで石になってしまったかのように身動きを封じられた。

「ハァァァァァ!!!!!」

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

獣のような低い姿勢で右手に持ったブレイガンを大きく振りかぶったカイザが、光となって駆け抜けた。己の持つ、三つの必殺技の一つ、ゼノクラッシュがデルタに叩き込まれた。
デルタを突き抜けたカイザの手にはデルタギアが握られ、強制的に変身を解除させられたワルドの左腕が体から離れて、宙を舞い、Χの紋章が刻まれ、青い炎を上げて灰化した。
ワルドはゼノクラッシュを受けた衝撃か、それとも腕を切り落とされた激痛か、変身解除によって再び襲ってきた全身の痛みでかは、分からないが気絶しているらしく、倒れたまま、ぴくりとも動かない。

「てめぇごときを殺すために、友からの証を壊せるか」

そう呟き、膝を突いたカイザは変身を解いた。

「サイト!!」

駆け寄ってきたルイズに身を預ける。短時間の間に何度も変身を繰り返したのと度重なるダメージで、さすがに疲れたのだ。

「寝る。後は任せた」

「え? ちょ、ちょっと!!」

「…zzzzz」

「もう寝てるし…」

シルフィードが舞い降りてきた。

「二人とも急いで」

「そうよ! 急がないと貴族派が来るわよ!」

「っていうか、なんでワルド子爵と戦っているんだい!?」

「ワルドは裏切り者だったの! ちょっと、手を貸して、私一人じゃ、こいつを運べないわ」

轟音はかなり近くまできたため、離れた場所で倒れているワルドは捨て、サイトをシルフィードの背中に乗せて礼拝堂から飛び立った。


――――――――――――――――――――


一行は、幸運にも、貴族派に見つかることなく逃げることができた。
シルフィードがタバサの指示を受けて王宮に進路をとった。
ルイズはサイトの顔を覗き込んだ。普段、彼は少しの物音にでも反応するほど浅い睡眠しかとらない。だが、今はかなり深い眠りについているらしく、起きる気配はない。
ウェールズを友と呼んでいた。二人の間にはほんの一日足らずの時間しかなかったが、友情が生まれていたのかもしれない。
自分が、あのときサイトの忠告を聞いていれば、こんなことにはならなかった。
そう思うと、ルイズは悲しく自分が情けなくてしかたなった。
ルイズは、サイトをきつく抱きしめた。


ニューカッスルでの戦いは、王軍三百、反乱軍五万という圧倒的なまでの兵力差があった。そのため、当然、反乱軍が勝利したが、その被害は甚大だった。死者三千、怪我人も合わせれば六千。
しかも、王軍内百人前後がこの戦いを生き延びて、港で奪取した船でアルビオンを脱出している。
戦死傷者の数だけ見れば、どちらが勝ったかわからなかった。


あとがき
ウェールズ生存派、ウェールズオルフェノク化賛成派の方々に叩かれる覚悟で今回は、投稿しました。
カイザVSゴーレムのように巨大な何かと戦うなら必殺技で、と思ったのですが、たかが、人間一人相手にするのにライダーが大技使うのもどうだろう? ということで、ワルドにデルタになってもらい、一時的にパワーバランスをかえるという方向でライダーVSライダーをやってみました。


そして、ついに、変身ポーズ登場!! 
某日某所での友人との会話
私「なんか忘れている気がするんだ」
友人「バイクだろ。っていうか、バイクのない仮面ライダーなんてただの仮面だぞ?」
私「いや、バイクはもう少ししたら出てくるんだ」
友人「なら、あれだろ」
私「あれ?」
友人「変身ポーズ」
私「……」
友人「……」
私「それだ!!」
ということで、友人と二人で、DXファイズギア(大人向けのファイズギア)を装着して変身ポーズを研究し、決定したのですが、実際に文章に書いてみると、かっこつけた表現のせいで、あまり伝えきれていない気がするのでおさらい。

1.左手にカイザフォンを持ってコードを入力
2.右拳を腰に構えて左手を上にのばす。同時にカイザフォンを上に投げる。
3.左右の腕を入れ替え、左拳を腰に構えて右手でカイザフォンを受け止める(一号ライダーの変身ポーズのように)。
4.カイザフォンをカイザドライバーにセットする。
以上


おまけ (思いつき小ネタ)


「サイト、何してるの?」

中庭の木陰に座り込んでカイザフォンを熱心に操作しているサイトを見つけ、ルイズは声をかけた。

「ん? なんか、画像ファイルに大量に画像が保管されているらしくてさ。内容によっては消そうかと思ってな」

「画像?」

「見るか?」

「うん」

寄り添うように座ったルイズがカイザフォンを覗き込む。
サイトはカイザフォンに保存されている画像を再生した。

「……園田真理」

「だれそれ?」

「俺のいた世界で聖母だの、女神だのとたたえられていた女だ」

他の画像も見ていく。そのどれもが園田真理の画像であり、しかも、いくつかは明らかに隠し撮りや盗撮であろう下着姿や裸のものまであった。
続いてサウンドホルダーも覗いてみると、園田真理の声ばかりが入っていた。

「同じ女の子ばっかりね…」

「……」
(……草加雅人以降、使用者が現れなかったのか?)

「何でこんなに同じ女の子の絵ばっかり…」

「前の使用者は、この女に心底惚れていて、もう、ストーカーとか、変質者と言ってもいいくらいだったらしい」

「気持ちワル……」

ルイズは軽蔑の視線をカイザフォンに向け、サイトは無言で画像とボイスをすべて削除した。

「サイトまでそんな風にはならないわよね?」

「これは、カイザの呪いとは一切関係ない。安心しろ」 
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