オルフェノクの使い魔
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オルフェノクの使い魔6
窓もない部屋に三人の男女、北崎、影山冴子、琢磨逸郎がいた。
「ここはどこなのかしら? 村上くん」
唯一の女、影山冴子が天井に向かって呼びかけるとスピーカーから村上峡児の声が帰ってきた。
<ラッキークローバーとは、オルフェノクの中でも選ばれた上の上がなることのできる最高の称号です。
ラッキークローバーに敗北は許されない。しかし、あなたたちはベルト奪還どころか、木場勇治抹殺さえできていない。私も、さすがにあなたたちをかばうことが、できなくなりました>
スピーカーからの音が一旦消えるとこの部屋唯一の自動扉が開き、一人の少年が入ってきた。少年が入ると同時に自動扉はしまり、壁から水が流れ込みはじめ、膝下くらいの位置で止まった。
****************
「なんでついてきたんだ?」
「あのとき、私はあなたの意見のほうが正しいと思った」
宿を出て夜の街を歩くサイトとタバサがいた。寝ていたところを叩き起こされ、着替える間も与えられなかったらしく、タバサはパジャマ姿だったため、とりあえずサイトの上着を羽織らせておいた。
ウィンドラゴンで学院まで戻ってカイザギアを取ってきて欲しかったのだが、丸一日飛びっぱなしで疲れたとストライキを起こされているらしい。
「ついてくるなら杖はおいて来い」と、サイトに言われたため、現在タバサは丸腰だ。
「ふ~ん、おまえって結構、綺麗じゃない道を歩いてんだな」
「?」
「綺麗な道歩いているやつはそんなこと考えたりしない。
ワルドはあえて俺の言ったことを悪く言って皆の印象を悪くした。それでも俺の意見に賛成してくれるってことは安易な思考ができない生き方をしてきた証拠だ。
違うか? シャルロット」
「!?」
驚いてタバサはサイトを見上げた。
「やっぱりおまえの名前だったか。おまえから借りた本の裏に幼い字で『しゃるろっと』って書いてあるのを見つけた。
ああ、安心しろ、これ以上の詮索はしない」
「どうして?」
偽名を語っているというだけで興味を引くのは十分だろうし、知りたいと思うのが、人の心理というものだ。
「いえない事情ってやつがあるんだろ?」
サイトは建物と建物の間にできた狭い路地の前で足を止めた。
「ちょっと待ってろ」
「?」
「すぐ戻る」
そういうとタバサの頭を軽く撫でてサイトは路地に入っていった。
ぽつんと残されたタバサは、とりあえず持ってきていた本を開いた。だが、読む気にはなれない。何故、自分はここにきたのだろうか? 平賀サイトと名乗る人間のようで人間でない存在に興味を抱いたのは、確かだったがそれ以上になんとなく気になった。
自分がキュルケ以外を気軽に部屋に入れ、あまつさえ、本まで貸している。それが原因で、自分の本当の名前を知られてしまった。
タバサの思考がさらに深まろうとしたとき、ふわっと頭に何かのった。顔を上げてみると、手を頭に乗せたサイトがいた。
「待たせた」
それだけ言うと歩き始めたサイトをタバサは追いかける。二人はそれなりに綺麗な居酒屋にたどり着いた。
「たぶん平気だとは思うが、離れるなよ」
「(コクン)」
店内に入ると、サイトはカウンターに立っている店主に歩み寄り、二三言葉を交わし、コインを数枚転がすと店主は顎で入り口から見えずらい位置にあるテーブルを示した。
その席には、妙齢の美女が一人で座っていた。サイトはその女に断りを入れることなく正面の席に座り、タバサもその隣りにちょこんと座る。
「情報がほしい」
「何の話かしら?」
「あんたが、この街で一番の情報屋だって聞いたんだけどな」
「騙されたのよ」
「ここ数日中に大勢の傭兵を雇ったっていう話はないか?」
サイトは、否定する女の言葉を無視して話を進める。ちょうどそのとき、あらかじめ頼んでおいた酒がテーブルに運ばれてきた。
サイトはそのうちの一つを女のほうへおく。
「前金だ」
「……昨日、『金の酒樽亭』って傭兵の溜まり場にいた、王室派に雇われていたアルビオン帰りの傭兵たちを全員雇ったっていう女がいたって噂よ」
「その女の情報は?」
「ここからは別料金よ?」
「かまわない」
「メイジで結構美人だったらしいわ。それと白い仮面に黒いマントをつけた貴族が一緒にいたそうよ。あとは、『金の酒樽亭』に部屋を取っているらしいけど、寝泊りするためってわけじゃないみたい。部屋は取っただけだそうよ」
「他には?」
「これ以上はまだ何も、もう少しすればもっと情報が入ってくるんだけど」
「いや、十分だ」
そういうと、ふところから袋を取り出し、女のほうへ投げる。
「こんなに?」
「情報料と、これからのための前払いだ。俺の顔を忘れるなよ」
「ええ、こんな気前がいいんなら、上にとってある部屋でサービスしてあげるわよ。もちろんタダで」
「いや、いい。間に合っている」
「あら? そういう趣味なの?」
女はタバサの方を見る。
「想像に任せする」
サイトはタバサを連れて店から出ていった。
それを座ったまま見送った女の側に、店主がサイトたちの置いていったグラスを回収するためによってきた。
「珍しいこともあるもんだな」
「え?」
「おまえさんが男を部屋に誘うだなんて、それもあんなガキをさ」
「彼はガキじゃないわ。ガキじゃあんな眼はできないもの」
「惚れたのか?」
「さぁ?」
次にさっきの少年が尋ねてきたときは本気で口説こうかと女は考えた。
――――――――――――――――――――――――――――
「さっきのお金どうしたの?」
「ん? 金持ちそうな連中たちから少しずつちょろまかしてきた」
―――――――――――――――――――――――――――――
翌朝、サイトはギーシュとの相部屋で目を覚ました。いつものように身体に異常がないかを確認する。
ギーシュはまだ隣りのベッドで夢の中だ。たまに女性の名前が出てくるが、今のところ同じ名前が出てきたことはない。
(キュルケの話だと出発は明日の朝、なら今の内にここの地理を覚えておいて損はないな。ついでに『金の酒樽亭』とやらの様子も調べておくか)
サイトは外に出るためドアを開けるとそこには丁度ノックしようとしていたワルドがいた。ワルドは驚いた顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「おはよう。使い魔君」
「ああ」
「もしかして、これからどこかへお出かけかい?」
「ああ、じゃあ、そういうことだから」
そういってワルドの横をすり抜けて出て行こうとするサイトの前にワルドが割って入った。
「きみは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」
サイトの眉がピクンと動いた。
「誰に聞いた?」
「学院長にね。フーケの一件できみには興味を抱いたんだ。昨日、グリフォンの上で、ルイズに聞いたが、きみは異世界からやってきたそうじゃないか。
あの『土くれ』を捕まえた腕がどれほどのものか、知りたいんだ。手合わせを願いたい」
「これから用事があるんだ」
「さほど時間はかけないよ」
「……」
こちらがYESと応えるまで引き下がるつもりはないようだとさとるとサイトはため息をついてから首を縦に振った。
(任務の真っ最中に何を考えているんだ? どちらかが怪我でもしたらどうするきだ?)
「それで、どこでやるんだ?」
「この宿は昔、アルビオンからの進行に備えるための砦だったんだよ。中庭に練兵場があるんだ」
―――――――――――――――――――――――――――――
サイトとワルドは練兵場で、二十歩ほど離れて向かい合った。サイトの手には既にトライデントが握られている。
「昔、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したのもさ」
「御託はいいからさっさと始めろ」
「そう焦らないでくれ、立ち会いには介添え人がいなくてはね。ああ、もう呼んであるから大丈夫だ」
ワルドがそう言うと、物陰からルイズが現れた。ルイズは二人を見ると、はっとした顔になった。
「ワルド、来いって言うから、来てみれば、何をする気なの?」
「彼の実力を、ちょっと試したくてね」
「もう、そんなバカなことやめて。今は、そんなことしているときじゃないでしょう? ほら、あんたもやめなさい。これは命令よ!」
「俺はやりたくないって言っているだけどさ、おまえの婚約者がやるって言って聞かないんだよ」
サイトはトライデントを構えた。
「介添え人もきたし、さっさと始めるぞ」
「いいだろう。全力で来い」
サイトの左手の甲のルーンが輝き、一瞬で間合いを詰め、トライデントを突き出す。ワルドはそれを杖で受け流し、フェンシングのように構えたかと思うと、凄まじい速さの突きを繰り出してくる。サイトは突きの中で急所を狙ったものだけをさばき、残りは後方に跳んで威力を殺ぐ。
「魔法はどうした?」
(フム、ガンダールヴの力だけでここまで動けるのか)
サイトはトライデントを地面に突き立て、棒高跳びの要領でワルドを飛び越える。が、ワルドは素早くそれに反応して突きのラッシュを放ってくる。
「君は確かに素晴らしい素質があるようだ。さすがは、伝説の使い魔だ。だが、それでは本当のメイジには勝てない」
(予想以上に強いな。勝つつもりでやったら殺すしかないかもしれない)
「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ…」
ワルドが詠唱を始めたことに反応し、サイトは即座に周囲を漂う空気中の水分を掌握する。
(地面からは何も感じない。熱もない。掌握した水に干渉もされない。空気が動く? こいつ、『風』の魔法使いか!)
掌握した水から送られてくる情報を元に衝撃が来ると予測する方向に目視できないほど薄い水の障壁を作る。
その一瞬あとに空気が撥ね、見えない巨大な空気のハンマーが放たれ、薄い障壁を突き破り、横殴りにサイトを吹き飛ばした。十メイル以上も吹き飛ばされ、サイトは積み上げられた樽に激突した。
(壁はって逃げなかったら、人間体のままじゃ助からなかったぞ)
樽の瓦礫から出てきたサイトにワルドは杖を突きつけた。
「勝負あり、だ」
ワルドは杖を収めるとサイトの肩を叩いた。
(ッ!?!?!?!)
「なかなか楽しめたよ。人間を超えた存在とうそぶいているようだが。それに姿が変わると聞いていたが、それもハッタリだったようだな。わかっただろうルイズ。彼では君を守れない」
「……だって、あなたはあの魔法衛士隊の隊長よ。強くて当たり前じゃないの!」
「そうだよ。でも、アルビオンに行っても敵を選ぶつもりかい? 強力な敵に囲まれたとき、きみはこういうつもりかい? 私たちは弱いです。だから、杖を収めてくださいって」
黙ってしまったルイズをうながし、ワルドは去っていった。
そして、二人の姿が見えなくなって数分したとき、我慢の限界がやってきた。
「オエエ!! ゲェェ!!!」
物凄い勢いで嘔吐した。すでに昨晩食べたものは消化してしまっているため、胃液が、胃の中が空っぽになるのではないかというほど吐き出され、強い酸の匂いが辺りに漂う。
「ッ!?!! ッ!?!?!?」
吐き終わると、今度は頭を抱えてもがきはじめ、声にならない悲鳴をあげる。それが十分近く続き、ようやく落ち着いた。
(油断…していた……まさか、ヤツに反応するなんて…ここ最近、そういうやつがいなかったから…完全に油断していた……)
ぐったりと倒れたサイトは、遠くから自分を呼ぶ声を聞いた。
――――――――――――――――――――――――――――
キュルケはパジャマのままでいるタバサを連れて早朝、服屋に行き、タバサの服を購入し、宿に戻ってくると、サイトがワルドに連れられて中庭のほうへ向かうのが見えた。
興味を覚え、タバサを連れて覗きに行った。
中庭では、ルイズを介添え人に二人は戦いを始めた。
「負けそうじゃない、サイト」
「変身してない」
「そういえばそうね。それにあのウォーターカッターってのも使ってないわね」
「手加減してる」
サイトが吹っ飛ばされて決着がつき、ワルドがルイズを連れて出て行ったとき、サイトの様子がおかしくなったことに二人は気ついた。
猛烈に嘔吐し、続いて頭をおさえてのたうちまわっている。
二人は慌てて飛び出した。
「サイト!?」
「ンくゥ…はグ…ああ…」
駆け寄り、声をかけるが、サイトはまだ、頭をおさえてあえいでいる。キュルケはサイトの頭をそっと上げ、その下に自分の膝を滑り込ませ、頭を降ろす。
少しすると、サイトの息が段々と落ち着いてきた。
「ハァ、ハァ…」
「サイト?」
「ん、んん……キュルケ?」
「そうよ。どうしたの? 大丈夫なの?」
「あ、ああ」
キュルケはうっすらと目を開けたサイトを心配そうに覗き込んだ。まだ、頭痛の余韻で頭がボーっとするサイトは数回頭を振ってから、体を起こそうとする。キュルケは慌ててそれに手を貸す。
「はい…」
「ん…」
体を起こしたところで差し出された水の入ったコップを受け取り、サイトはそれをゆっくりと飲んでいく。
「あんた、いつのまに水なんて取ってきたのよ?」
キュルケは水を飲むサイトを眺めつつ、さっきまで一緒にいたはずの友人をつつく。タバサはつつかれる度に振り子のように身体を揺らす。
「……たすかった」
コップをタバサに返し、サイトは若干ふらつきながらも立ち上がる。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「もう、平気だ」
「とてもそうには見えない」
「平気だ」
「…休むべき」
「あれは一時的なものだ。峠を過ぎれば、後は問題ない」
(それにおまえたちが着てくれたおかげで、余韻も短かったし、な)
「あなた、何か病気で抱えているの?」
「さあ? とりあえず、助かった、礼を言う」
「ちょ、ちょっと、どこに行くの?」
「街を見てきたいんだ。何があるか分からないからな。少しでもここの地理を知っておきたい」
そう言って歩き出す、サイトをほっとけず、キュルケとタバサは彼の後を追いかけた。
――――――――――――――――――――――――
夜、キュルケとタバサに「酒を飲むくらいなら明日のために寝ろ」と言われ、酒場から追い出されたサイトはボーっと月を見ていた。
赤い月が白い月の陰に隠れて見えない。その見えない月を思うとそれがある存在を連想させた。
『闇を切り裂く赤き閃光』仮面ライダーファイズ、そして、それに変身する青年、乾・巧。
「どう、なったかな…」
自分がライオトルーパー隊隊長として行った最後の任務のターゲットであり、その後、スマートブレインを去ることを決めたとき、連れ出した男。
追手は自分が引き受けたが、途中でこっちに連れてこられたため、あの後どうなったかは、分からない。
もしかしたら、無事、仲間と合流し、救世主として村上を殺したかもしれない。
もしかしたら、ライオトルーパーにつかまり、殺されたかもしれない。
もしかしたら、記憶喪失になって靴職人になっているかもしれない。
「…まぁ、研究所で開発された新ツールを持たせたんだ。どう、転んでもおかしくないか」
青白い光を放つ月を見上げていたサイトは気配を感じ、振り向いた。
「……負けたぐらいで泣かないでよ。みっともない」
そこにはルイズが立ち、腕を組んでサイトを睨んでいた。
「泣いてない。それよりどうした?」
「キュルケやタバサが、妙にあんたのことを心配しているから、気になってみにきたのよ」
「それは、心配してくれたと取っていいのか?」
「あ、当たり前でしょ。あんたは私の使い魔なんだから!」
顔を真っ赤にするルイズにそのことをつこうかと思ったが、今はやめておくことにした。
「何故、俺のことを話した?」
「え?」
「ワルドに俺のことを話したそうじゃないか」
「だって、ワルドは仲間よ。信用できるわ」
「俺は、信用していない。オスマンのジジイがなんで、俺をハーフドラゴンとやらにしておく理由を忘れたのか?」
「王宮の研究局が、下手に興味を示してモルモットにしないためでしょ。
だ、だから、ワルドは平気よ!!」
「いろいろ調べた」
「え?」
「昨日の襲撃者たちのこととかな。今日もあれから街中を歩いてきた」
「何、勝手なことを!」
「事前に言わなかったことは謝る。だが、言えなかったのにはわけがある」
「わけ? 言ってみなさいよ」
「昨日の襲撃者は、アルビオンから戻ってきた傭兵たちで、それをある女が雇って俺たちにけしかけたらしい。女のほうは調べきれなかった。
ただ…」
「ただ?」
「おかしいとは思わないか? 俺たちが任務を受け、出発したその日の襲撃されたんだぞ」
「?」
サイトが言いたいことが分からず、ルイズは首をひねる。
「情報の漏洩が早すぎる。俺はあのオヒメサマと知り合ってそう経ってはいないが、この任務をそうベラベラと周囲に話すとは思えない。そう考えると、話したのは俺たち、ギーシュ、オスマンのジジイと学院の一部、そしてワルドくらいだろう」
「と、とにかくワルドにも知らせないと」
「いや待て、最後まで聞いて欲しい。
俺たちに話す前に魔法による監視は、あのオヒメサマ自身で調べている。あのオヒメサマはそれなりのクラスの魔法使いなんだろう?」
「ええ、トライアングルだと聞いているわ」
「だったら、信用できるな。
次は、物理的な手段も考えられるが、扉はギーシュが張っていたから無理、窓は俺がすぐ側にいたんだ、気づかないはずがない。壁は石だ。盗み聞きはできない。実際、隣りに住むキュルケは任務についてまったく知らないようだしな。
となると、どこで漏洩したか? 機密情報が入ってくる確率など限りなくゼロに近い学院に潜入? ありえない。リスクは少ないが、見返りが望めない。
そうなると、おのずと答えが見えてくる」
「…ワルドが漏らしたとでも言いたいの?」
「確証はないし、もともとオヒメサマの側に潜伏していたねずみが、わざわざ学院にやってきたことに不信感を抱き、情報を掴んだ。という可能性もある。
しかし、やつの行動には不審な点が多すぎる。
俺は、もといた世界で大部隊の隊長をしていたから分かる。
準備不足での出発、隊員のことを考えない先行、任務中であるにもかかわらず仲間同士での戦闘、仲間同士の信頼をくずそうとするかのような言動。どれをとっても、とても隊長職を勤めている者がやることではない」
「……」
「だから、やつにはそれなりに警戒心を持って…」
「うるさいうるさいうるさい!!
負けたからって相手のことを悪く言うなんて見損なったわ!! よくそんなこと平気でいえるわね!! 男として恥ずかしくないの!?
そんなのたんなる負け惜しみよ!!」
たんたんと述べるサイトにルイズは怒鳴ったが、サイトは顔色一つかえず、話を続ける。
「最初に言っただろ、確証はないと」
「もう、いいわよ!! あんたは月でも見ながら、ウジウジしていればいいのよ!!」
「こんなところで、痴話ゲンカするのは、どうかと思うわよ」
「……」
「!?」
突然割り込んできた第三者の声にサイトは冷静に、ルイズは驚いて振り返る。そこには巨大なゴーレムの肩に乗ったフーケがいた。その隣りには黒いマントと白い仮面を身につけた貴族がいた。
「なんだ。『おもらし』のフーケか」
「『土くれ』よ!! つ! ち! く! れ! 何よ、おもらしって!!」
「してたじゃないか。俺にビビって」
「それより、あんた牢屋に入れられてたんじゃ……」
「親切な人がいてね。私みたいな美人はもっと世の中のために役に立たなくてはいけないと言って、出してくれたのよ」
「…傭兵をけしかけたのはおまえか」
「ご名答よ」
「…おもらし、おまえに付き合ってられるほど、俺たちは暇じゃないんだ。世の中の役に立ちたいなら勝手に立ってろ。
邪魔だ」
「お、おおおお、おもらしって言うなあァァァァァ!!!!!!!!」
フーケの叫び声に合わせてゴーレムの拳が繰り出された。
サイトはそれを回避し、ルイズを抱きかかえると、1階にいるで仲間の下へ向かう。
仕入れた情報が正しければ、傭兵たちは負けていた王族側に雇われていたらしい、ということは、メイジとの戦闘にも慣れているはずである。
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