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オルフェノクの使い魔

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オルフェノクの使い魔2

雨が降りしきる中、少年は手にした力で初めて人を殺した。

「私の名前は村上峡児。君、名前は?」

男は目の前にいる血で真っ赤に染まった少年に問い掛けた。

「……」

少年は周囲を見回し、自分の足元に血まみれで倒れている男の懐をあさり、財布を見つけ、その中にある免許書を見た。

「ひらが…さいと」

「それは、その人間の名前でしょう? 私が聞いたのは君自身の名前です」

「ない。だから、もう必要のないやつのつかう」

無感情にいう少年に眉をひそめる。

「俺、商品、だからそんなもの必要なかった。でも、今の俺、バケモノ。バケモノには名前が必要」

「君はバケモノじゃない。君は人間から進化したんです。オルフェノクへと」

「オル、フェノク?」

「そうです。私と一緒にきませんか? 仲間が待っています」

「…わかった」

少年は少し躊躇してから、差し出された男の手を取った。

「きょうじ、臭い」

「これはコロンで、臭いのではなく、とても香しい、いい香りなのです」

「…昨日、相手したデブと同じ匂い。やっぱり臭い」

「……」

男は少年を拾ったことを少しだけ後悔した。


****************************


昼になり、サイトとルイズは朝と同様に食堂へ現れた。

「あんた、それで足りるの?」

「まさか」

「文句とかいわないの?」

「文句言ったら増やしてくれるのか?」

ルイズの座る椅子に背を預けて朝同様の質素な食事を食べるサイトは固いパンを食いちぎる。

「昔、あの会社に拾われるまでは掃き溜めみたいなところに住んでたしな。そのころのことを思い出せば、三食食えるだけで満足だ」

「よっぽど酷いところなのね」

「ああ、俺のいたところは特にな…最低最悪の……って飯時にする話しじゃないな。気が向いたら聞かせてやるよ」

サイトは遠くを見るような目で天井を見上げてから再び食事に取り掛かった。

(あそこは…奪い合い、媚び、騙す世界……その世界でオルフェノクになってスマートブレインに拾われて…)

サイトの傍らに置いておいたスープ皿に肉が放り込まれた。

「これも食べていいわよ」

「同情や哀れみならいらないぞ」

「そんなんじゃないわよ。偶然落としちゃったのよ。貴族が落としたものなんて食べるわけがないでしょ」

「…落としたんならしかたないか」

スープの中に入った肉を口に含んだとき、少女の哀と怒りと悲しみの込められた平手打ちの乾いた音と叫び声が響いた。

「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」

サイトはそちらを向くと泣きながら走り去る栗色の髪の少女と頬をひっぱたかれて椅子から無様に落ちた金髪の巻き髪の気障っぽい少年がいた。
周囲はこの状況を楽しんでいるらしく、助け起こそうとしたりしようとはしていない。

「なんだあれ?」

「はぁ…気にしなくていいわよ。馬鹿にかかわらないほうがいいわ」

そう言いつつもルイズもこの状況を楽しむつもりらしい。

(他人の不幸は蜜の味ってか)

床に尻餅をついている少年の前に見事な巻き髪の少女は立った。

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」

少年は首を振りながら弁解をはじめた。冷静な態度を装ってはいるが、内心かなりビビっているようだ。

「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね」

「お、お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」

どっかの三流恋愛小説でも使いそうにない歯の浮くようなセリフを必死になっていっているが、モンモランシーは、それを完全に無視してテーブルに置かれたワインのビンを掴み、中身を少年の頭の上からかけた。

(私と死んで! とか言って無理心中って展開はなしか)

「うそつき!!」

モンモランシーはそう怒鳴ると走り去っていった。
少年はハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭き、倒れた椅子を立たせるとそれに座り、芝居がかった仕草で言った。

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

周囲の生徒が一斉にひいた、思いっきりひいた。
サイトはスープの残りをすすりながらこのあと少年がどう動くか観察することにした。

「君が軽率に、香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」

少年はメイド服を着た黒髪の少女に突然八つ当たりを始めた。

(あ、たしかあのメイド、朝、井戸の場所を教えてくれた…シエスタとか言っていたな)

「いいかい? メイド君。僕は君が香水のビンをテーブルに置いた時、知らないフリをしたじゃないか。間を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

「…申し訳ございま「謝る必要なんてないな」 え?」

必死になって頭を下げるシエスタの肩にポンと手を乗せ、やんわりと後ろに下がらせた。

「何だい? 君は?」

「あ、あの…」

「おまえがひっぱたかれるところから、見はじめたから最初の部分はよく分からないが、二股かけたおまえが悪い。女に八つ当たりなんてさらに自分を無様にしていくっていうのがわからないのか?」

サイトの突然の登場に周囲の視線が再び集まりだした。

「聞こえなかったのかい? 君は誰だと聞いたんだ」

「名前を聞くときは自分からってよく聞くぞ」

「…君は平民のようだな」

「…貴族になった覚えはないな」

ルイズが慌てて間に入ろうと向かってくるのが見えたが、観客に回った生徒たちが壁となって彼女の行く手を阻んでいる。

「…行きたまえ、平民にまともな応対を望んだ僕が馬鹿だったよ」

「なんだ、自分が馬鹿だって自覚はあるのか」

冷静な態度を装う少年の頬がピクピクと痙攣している。

「穏便に済ませようという、僕の優しい心遣いが分からないのかね?」

「ああ、すまない。そんな気使いをかけてしまったか、気づかなかった。てっきり、このあとさっきの二人とどうやって仲直りしようか考えているんだとばかり思っていたよ」

少年の肩は誰が見てもはっきりと分かるくらいがたがたと揺れ、爪が食い込んで血が出そうなくらいつよく拳を握り締めている。

「よ、よかろう。君に貴族に対する礼儀を教えてやろう……ヴェストリの広場で待つ!! 絶対にこい!!」

そう言い残すと少年は早足で食堂から出て行った。

「俺…まだ了解の返事してないんだけど……ってことはいかなくてもいいってことか?」

そんなことをぼやいていると、ようやくルイズが現れた。

「あんた! 何してんのよ!!」

「振られ男の八つ当たりからメイド少女を救っただけだ。あいつの態度、昔戦ったムカツクやつにそっくりでつい我慢できなくなっちまった」

「つい我慢できなくなっちまった、じゃないわよ!! 何勝手に決闘の約束してんのよ!!」

「そんなに騒ぐな、うるさいぞ」

「誰のせいだろ思ってんの!」

「誰のせいだ?」

「あんたよ!!」

ハァハァと荒い息を吐くルイズに近くの机に置いてあった水の入ったコップを渡すと、彼女は豪快に一気飲みをした。
サイトは周囲を見回し、さっき少年の八つ当たりの被害にあっていたメイドを探すとすぐそばにまだ立っていた。

「大丈夫だったか?」

「は、はい!」

「今回は気まぐれで俺がやったけど、今度からは自分で立ち向かえよ。じゃないと一生あんなのに尻尾振って生きるアホなダメ犬になるぞ」

サイトはルイズを小脇に抱え、少年の指定した場所へ向かうことにした。


―――――――――――――――――――――――――――――


ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭である。西側にある広場なので、そこは日中でも陽射しが弱く、私闘にはうってつけの場所である。
しかし今は、噂を聞きつけた生徒たちで溢れかえっていた。よく見れば周囲の建物の窓からメイドたちも顔を出している。

「諸君! 決闘だ!」

少年が薔薇の造花を掲げた。それに反応して歓声が巻き起こる。その姿を見てサイトは確信した。ここにいる者の中で本当の戦いを見たことのあるものはいないと。でなければ、ここにいる連中は狂っているに違いない。
振り返りサイトがきたことに気がついた少年はにやりと笑みを浮かべた。どうやらさっきまでの苛立ちは収まったようだ。
サイトは少年の笑みに不快なものを感じた。彼の浮かべた笑みは明らかに『弱者をいたぶることを快楽と感じる者』の笑みだったからだ。

「ムカツク……弱いくせに」

「何か言ったかね?」

「なにも」

「ふっ、逃げずにきたことは誉めてやろう」

「三流の悪党そのままのセリフだな」
(このパーティ、少しでも楽しませてくれよ)

「ッ! さてと、はじめようか」

少年が薔薇の花を振った。
すると花びらが一枚、宙に舞い、甲冑を着た女戦士の形をした人形になった。
身長は人間と同じくらいだが、金属製のようだ。淡い陽光を全身に受けて、甲冑がきらめいている。
女戦士の姿をしたゴーレムはズボンのポケットに両手を入れたままのサイトに襲い掛かり、腹に右拳が叩き込まれた。その力によって浮いたサイトの体に続けて左拳が叩き込まれた。
2,3m吹っ飛ばされてサイトは地面に受身も取らずに倒れた。

「言い忘れていたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。そしてこれが僕の青銅のゴーレム『ワルキューレ』だ。…といってももう聞こえていないだろうがね」

「いや、しっかりと聞こえたぞ。ギーシュ」

サイトに背を向けて颯爽と立ち去ろうとしたギーシュが振り向いたところには立ち上がり、先程と同じようにポケットに両手を入れたサイトが立っていた。

「相手が名乗ったんだから、こっちも名乗らないとな。俺は平賀サイトだ。適当に相手してやる」

先程殴られたダメージなどなかったかのように平然と立つサイトに周囲がざわめいた。

「おい、あいつ本当に人間か? ゴーレムの攻撃喰らって平然としてるぞ」

そんな周囲のざわめきにちらりと視線を送ってからサイトはギーシュに向き直った。
両手をしまったまま、ワルキューレに歩み寄る。呆然とするギーシュからの命令がないため動かないゴーレムにサイトのローキックが叩き込まれた。次の瞬間、蹴られた左足が砕け、ワルキューレは倒れた。ここでギーシュが慌てて指示を出すも、ときすでに遅く倒れたワルキューレにサイトの蹴りが何度も叩き込まれ、元の姿など見る影もなくなっていた。まだわずかに動いていた指先を踏み潰してサイトは再び歩き始めた。
ギーシュは慌てて薔薇を振り、新たなゴーレムを6体生み出した。
6体のワルキューレが悠然と迫るサイトに向かって一斉に襲い掛かる。それをまるで360°すべてに目があるかのようにわかしていく。
その姿にギーシュは恐怖を感じ、それを認めたくないと思う心がワルキューレをがむしゃらに操った。
ギーシュはこれほどの数を一度にしかも戦いという複雑な場に出したことがないのだろう。ワルキューレの動きは単調な一斉攻撃はあっても、行動を組み合わせた連携攻撃はない。
サイトは相手の動きの単調さに苛立ちを覚えた。彼の育った地にギーシュを放り込んだなら、わずか数日で死体になっているだろう。彼の育った地で必要なことは相手を見抜き、己の力量を知ることが絶対条件だ。だが、ギーシュは無駄にあるプライドが故にその両方を曇らせてしまっていた。

「もう、いい」
(殺す気も失せた。ビビらせて終わらせるか)

そう呟いた次の瞬間、サイトは手を振った。次の瞬間、すべての『ワルキューレ』が横一線に切り裂かれた。その切れ目はまるで磨かれた鏡のように綺麗だった。

「まだやるか?」

すでにこの決闘に興味を無くしたサイトは殺気を乗せて睨んだ。ギーシュはぎこちなく首を振ることしかできなかった。


―――――――――――――――――――――――――――


つまらない戦いをしたなと後悔しつつ部屋に戻ろうとするサイトの前に一人のメイドが現れた。シエスタだ。明るい印象を持つ彼女の顔は何故か硬かった。

「どうかしたのか?」

「…サイトさん、本当はメイジだったんですね。それなのに今朝は失礼な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした」

彼女は深々と頭を下げた。

「……俺は魔法使いじゃない」
(ただのバケモノだ)

「……で、でも」

「……そんなに俺を魔法使いにしたいのか?」

「い、いえ、そういうわけじゃ……」

「だったらいいだろ? 俺は魔法使いじゃない。だから朝みたく接してくれればいい」

シエスタの肩をポンと叩き、サイトは部屋に向かって歩き出した。
残されたシエスタは叩かれた肩に手をおき、さっていくサイトの背中を見送った。


―――――――――――――――――――――――――――


夜になり、サイトはルイズの部屋にある本を読んでいた。

「……まだ読めない部分があるな。ルイズが帰ってきたら頼むか」

本から目を離し、二つの月が浮かぶ空を見上げる。ルイズは今、この学園の学園長であるオールド・オスマンに呼び出され、ここにはいない。
サイトは再び本に視線を戻したとき、扉が開きルイズが入ってきた。

「決闘のことは不問にするそうよ。それと、はい」

部屋に戻るなり、サイトの専用席になりかけている窓に腰掛けて本を読んでいるサイトに黒い布を押し付けた。

「なんだ?」

「マントよ」

「?」

「オールド・オスマンが、あなたをこの学園の生徒にするって」

マントを広げ、さまざまな角度から眺め、寝るのに使えるななどと考えつつ応えた。

「昼間の決闘のとき、ギーシュのワルキューレを倒したのを見ていらしたそうよ」

「なるほど、厄介な力を持ったやつを野放しにしておくわけにはいかないってことか」

今さらながらやるんじゃなかったと思った。あの時サイトはオルフェノク化することなくオルフェノクの力をつかったのだ。ついでにワルキューレの攻撃に耐えられたのは当たる瞬間に、その部分だけオルフェノク化させていたからである。

「俺は魔法使いじゃない」
(ついでに人間でもない)

「学校のみんながあれ見てるのよ。どうやって言い訳するのよ?」

「人の噂も七十五日、ほっとけば忘れるだろ?」

「それはないと思うんだけど…」

「まったくどいつもこいつも、よく分からないことがあればすぐに魔法魔法かよ…」

くだらないと吐き捨てて床に座り込むと渡されたマントを自分の体にかけた。

「これは寝るときに使えそうだからもらっとく。だが、魔法使いになるつもりはない」

そういうと目を閉じた。ルイズがまだ何か言っていたがすべて無視した。


――――――――――――――――――――――――――――


サイトがルイズの使い魔になって一週間が過ぎた。

(つまらない…こんな風に残りの命を削るのか?)

そんなことを考えつつ、夜、外で体が戦いを忘れないようにと動かしていると気配を感じた。振り返るとキュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムがいた。

「ん? なにかようか?」

フレイムはサイトを気に入ったらしく、特に何もなくてもよくサイトの元へやってくる。フレイムはサイトのところへやってくると袖をくわえ、どこかへ連れて行こうと引っ張り出した。振り払おうかと思ったが、退屈しのぎになるかもしれないと思い直しておとなしくついていくことにした。
フレイムに連れていかれた場所はルイズの部屋の隣り、キュルケの部屋だった。サイトを部屋に入れるとフレイムは部屋を出て行った。

「何のようだ?」

「とりあえず、扉を閉めて」

真っ暗の部屋の中からキュルケの声がした。サイトは言われたとおりにした。

「ようこそ。こちらにいらっしゃい」

「わかった」

真っ暗な部屋の中をサイトは迷うことなくキュルケの元へ歩み寄り、キュルケの隣りに腰をおろした。

「見えるの?」

「ああ、夜目は恐ろしくいいんだ」

「ふ~ん、でも、このままじゃムードがないわね」

キュルケが指を弾く音がする。それと同時に部屋にあるロウソクが次々と灯っていく。
すべての明かりが灯り、サイトの隣りにいるベビードールのみを纏ったキュルケの姿を照らした。

「何のようだ?」

落ち着いた仕草のサイトにキュルケの眉がぴくりと動いた。彼女の経験上、自分のこの姿を見て平然としていた者はいない。それを装う男もいたが、欲望のこもった目で自分を見ていた。だが、隣りに座る男からはまったくそれを感じない。

「あたしの二つ名は『微熱』、松明のように燃え上がりやすいの…あたしは、あなたに恋してしまったの……いけないことだとも分かっているわ。でも、この燃え上がりやすい心を抑えられないの」

「なぁ」

「何?」

「外にお友だちがきてるぞ」

「へ?」

サイトが背後にある窓を親指で指差し、キュルケが振り向いた瞬間、窓が叩かれた。
そこには恨めしげに部屋の中を覗く、一人の美男子がいた。

「キュルケ…待ち合わせの時間にこないからきてみれば…」

「ペリッソン! ええと、二時間後に」

「話が違う!」

キュルケはうるさそうに胸元から取り出した杖を振った。
ロウソクの火が意思を持ったかのように動き、窓ごと男を吹っ飛ばした。

「まったく、無粋なフクロウね」

「次のお友だちがきたぞ」

「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕のところで過ごすんじゃなかったのか!」

「スティックス! ええと、四時間後に」

「そいつは誰だ! キュルケ!!」

怒り狂いながら部屋に入ってこようとする少年に再び杖を振り、再び意思を与えられた火が少年を吹っ飛ばした。

「キュルケ」

「…何? ダーリン」

「今度は団体様だ」

「また!?」

キュルケは振り向きざまに今まで軽く振ってきた杖を思いっきり振り下ろした。部屋にあるロウソクすべてから火が集まり炎となって窓の外にいるまだ一言もセリフを与えられていない少年たちを吹っ飛ばした。

「……」

「……」

「と、とにかく愛しているのよ! キャッ」

サイトにキスしようと迫ってきたキュルケをサイトは逆に押し倒した。

「処女があんまり遊びすぎると酷い目にあうぞ」

キュルケは目を見開き、褐色の肌を紅く染めた。

「どうして分かったのか、か? 簡単だよ。おまえよりも俺の方が場慣れしているだけだ」

逃げられないよう押さえつけ、杖を奪って適当に放る。

「今までは、こうやって迫って適当にキスすれば相手はおまえに夢中だったんだろうが、こっちはそのさきのことを、生きていくために磨いた玄人なんだ」

「ちょ、ちょっと!」

「ここ最近、ずっと禁欲していた上に、中途半端な獲物つかまされて欲求不満なんだ」

「そ、そうだ! そろそろ、戻らないとルイズが心配するんじゃないかしら?」

「今日は外で寝るって言って出てきたから問題ない」

完全に退路は絶たれた。
翌日、キュルケが部屋の外へ顔を出すことはなかった。

 
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