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オルフェノクの使い魔

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オルフェノクの使い魔3

「峡児、これは…デルタギア?」

「ええ」

「でも、デルタギアは帝王のベルトを生み出す過程で修復不可能にまで解体と分析されたんじゃ?」

「しかし、ここにある」

「なぜ?」

「どうやらベルトには自己修復機能があるようです。我々も知らなかった事実です。しかし、今回の件で花形前社長の研究室を調べなおした結果、ファイズ、カイザ、デルタを研究所から奪取したさい、当初、彼はベルトの破壊を試みたそうです。だが、ベルトは灰からでも再生したとのことです。数年はかかるそうですが」

「灰から?」

「ええ、この効果を元に、新たな我々の延命策を改めて打ち出す予定です」


*********************


『土くれ』の二つ名でトリスティン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊がいる。土くれのフーケである。
フーケの盗みは、繊細なものから大胆不敵なものまでと行動パターンが読めず、治安を預かる王室衛士隊も振りまわされている。
盗みに錬金術を用い、壁や扉を土くれにかえることからその二つ名がつけられた。
その人物が魔法学院の宝物庫の前に立っていた。

「さすがに魔法学院本塔の壁ね…あのハゲからの情報が正しいとしたら物理攻撃が弱点なんだろうけど、私のゴーレムでも無理そうね。
ったく、なんて分厚い壁なの!」

壁の厚さを測ったフーケは苛立たしげに宝物庫の扉にヤクザ蹴りをドカドカとぶつける。

「『呪われし衣』をやっとここまできて、諦めるわにゃあ、いかないしねぇ……」

腕を組み、じっと考え始めた。


――――――――――――――――――――――


「ああ~っと」

「タバサ…」

「タバサか、覚えた。俺は平賀サイトだ」

「……」

サイトは隣りに座って本を読んでいる小さな蒼い髪の少女、タバサに話し掛ける。
二日前、サイトに犯されそう(あくまでも脅しただけ)になり、マジ泣きして許してもらい、代わりに朝までワインをガバガバ飲むザルのサイトに突き合わされ、二日酔いで丸一日動けなくなったキュルケは翌日復活し、現在、サイトとタバサの前でルイズとけんかをしている。
原因はサイトが着た切り雀であるため、服が傷む前に服を要求、丁度、休みであったため、街に買いに行き、それなりのものをそろえて帰ってきた数分後、ブランド物の服を持ったキュルケがタバサをつれて参上、そしてあっというまにケンカに発展していってしまった。
あんな事したわけだし、もうまとわりつかれることなんてないだろう。と思っていたサイトの予想通りとはならず、むしろキュルケに「今までにいなかったタイプ、絶対におとしてみせる!!」と変なスイッチを入れてしまったらしい。

「まったく、仲がいいのはわかったから、周りを巻き込むなって思わないか?」

「?」

サイトの言っていることが分からず、タバサはケンカする二人を見た。最初は口ゲンカだったが、段々、熱を持っていき、現在はつかみ合いに発展している。この状況を見てどうして仲がいいなんて言葉が出てくるのだろう。

「本当に嫌いだったらお互いに干渉しないはずだ。でも、二人ともあえばケンカだが、会話を交わす」

「……」

「ん? どうかしたか?」

「……(フルフル)」

きょとんとサイトを見るタバサに問い掛けると首をわずかに振った。どうやらなんでもないという意味だったようだ。

「…本、好きなのか?」

「……(コクン)」

のんびりした雰囲気の二人をよそにルイズとキュルケがついに杖を抜いた。
さすがにヤバイと感じたサイトの指先に空気中の水分が集まるよりも早く、タバサが杖を抜き、次の瞬間、風が二人の杖を奪った。

(へぇ、見た目よりも実力があるみたいだな)

「室内」

「タバサの言うとおりだ。俺はかまわないが、外で寝ることになるぞ」

よくやったと、再び本に視線を戻したタバサの頭を撫でつつ、呆れ顔で二人を見る。二人は睨み合いながらも杖を収めた。
さてこれからどうするかと思考を巡らせていると、タバサが二人に歩み寄り、何か耳打ちしている。
タバサが出した意見に二人も同意したらしく、頷き、サイトのほうを見た。

「それでいいわ」

「そうね。それでいきましょう」

サイトは嫌な予感を感じた。


――――――――――――――――――――――――――――


本塔の外壁に張りついていたフーケは、誰かが近づいてくる気配を感じた。
とんっと壁を蹴り、すぐに地面に飛び降りる。地面にぶつかる瞬間、小さく『レビテーション』を唱え、回転して勢いを殺し、羽毛のように着地する。それからすぐに中庭の植え込みに消えた。


――――――――――――――――――――――――――


決闘の内容は宙吊りにされたサイトを支えているロープを切り、7,8m上空からサイトを地面に落としたほうが勝ちということらしい。

(まぁ、オルフェノクだから、この程度の高さから落ちても死なないけどさ、人間だったら下手すりゃ死ぬぞ。あいつら俺の取り合いしてたんだよな? 賞品が死んでいいのか?)
「お互い、騒がしいやつが一緒にいると大変だな」

自分を支えるロープの端をくわえているウィングドラゴンの背に乗ったタバサに話し掛けると、彼女も同意見なのか本を読むのを止め、コクコクと頷いた。
下にいる二人が競技を始めたらしいルイズの詠唱する声が聞こえ、次の瞬間、サイトのすぐ後にあった本塔の壁が爆発し、ヒビが入った。

「…身の危険を感じたら迷わず逃げていいぞ」

「……(コクコク)」

キュルケの笑い声が聞こえ、続いて詠唱が聞こえる。どうやらルイズの選んだ魔法と同じ者らしいだが、使い手によって違うものに聞こえる。ルイズの詠唱は優しく、キュルケの詠唱は雄々しく聞こえる。
キュルケの放った炎の弾は狙い違うことなくロープを焼き切った。重力に従い落下するサイトに向かってタバサが『レビテーション』を唱え、ゆっくりとサイトを地面に下ろした。

「あたしの勝ちね! ヴァリエール!」

高々と勝利宣言をしたキュルケだったが、それも長くは続かなかった。
二つの月明かりに照らされていた中庭が突然、暗くなった。

「な、なにこれ!?」

突然現れた山のように大きな土ゴーレムに驚き、とっさに動けないキュルケと、落ち込んでいまだ状況がわかっていないルイズを、ロープを自力で引きちぎったサイトが両脇に抱え、急降下してきたウィンドラゴンに飛び乗る。

「…あんな大きな土ゴーレムを操れるなんて、トライアングルクラスのメイジに違いないわ」

ゴーレムの肩に人影が見えたが、サイトの視力をもってしても深くかぶったローブで顔を見ることは出来ない。
ゴーレムはルイズが作った本塔のヒビに向かって拳を繰り出した。ヒビ割れた壁はその一撃に耐えることはできず、砕け散り、穴をあけた。肩に乗っていた人影は腕を伝って本塔に侵入し、一分と経たずに何かを抱えて戻ってきた。
ゴーレムは魔法学院の城壁を一跨ぎで乗り越え、草原を進んでいく。その背に向かってサイトは手を振り上げた。ゴーレムが縦に真っ二つに割れた。

「やった!」

「チッ!」

ルイズが声を上げたが、サイトは舌打ちをした。自分が土ゴーレムを斬るほんの少し前に人影が逃げたのが見えたからだ。
翌日、破られた宝物庫の壁に『呪われし衣、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』という文字が刻まれているのが発見された。


―――――――――――――――――――――――――


翌朝、トリスティン魔法学院では、昨夜から蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。
すべての授業は休講、生徒たちは自室待機を命じられ、目撃者であるルイズ、キュルケ、タバサ以外の生徒の姿はない。
教師たちは好き勝手に喚き、しまいにはその日当直だったミセス・シュヴルーズが非難の的となった。
それを学院の最高権力者であるオールド・オスマンがいさなめた。

「さて、犯行現場を見ていたのは誰だね?」

「この三人です」

髪がかなり後退した男、ミスタ・コルベールが自分の後ろに控えていた三人を示す。使い魔であるサイトは人数に含まれておらず、壁に寄りかかり、目を伏して話を聞いていた。

「フム…君たちか」

オスマンは、興味深そうにサイトを見つめる。その視線に気づき、サイトも片目を開けて相手を見返す。

「詳しく説明したまえ」

ルイズが一歩前に出た。

「はい……大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。肩に乗っていた黒いメイジがこの宝物庫から何かを……その、『呪われし衣』だと思いますけど……盗み出したあと、またゴーレムの肩に乗りました。ゴーレムは城壁を越えて歩き出して、サイトが…私の使い魔がゴーレムを破壊したんです。そのあとすぐに周りを探したんですけど、黒いメイジはどこにもいませんでした」

「フム…君、どうやってゴーレムを壊したのかね?」

オスマンは再びサイトを見る。

「『ウォーターカッター』ってわかるか?」

「『ウォーターカッター』?」

「水を一点に収縮して、物凄い勢いで放つ。そうすることで剣なんかよりも切れ味のいい刃になる」

ルイズに「なんて口の聴き方をしているの!!」と叱られたが、サイトは気にすることなく、こんな風にと言って近くにあった岩を斬った。その断面はギーシュのワルキューレたちと同じ鏡のように反射するほど綺麗に斬れていた。

「ほぉ、これは凄い」
(水を得意としているようじゃな。治療回復などがメインである水で、これほどの威力を苦もなくやりとげておる……トライアングル…いや、下手をすればスクウェアクラスじゃな)

「こんな手品よりも今は泥棒探しが先じゃないのか?」

「おお!! そうじゃった、そうじゃった! で、後を追おうにも、手がかりはナシというわけじゃったな……」

それからオスマンは、気がついたようにコルベールに尋ねた。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「そういえば…朝から姿を見ておりませんね」

「この非常時に、どこへいったのじゃ」

「ただいま戻りました」

「おお! ミス・ロングビル、どこへ行っておったのじゃ?」

メガネをかけた美女が現れた。どうやら彼女がミス・ロングビルらしい。

「申し訳ございません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

「フーケの?」

「そうです。起きてみるとこの騒ぎ、宝物庫にあったサインを見つけ、急いで調査をいたしましたところ、フーケの居場所がわかりました」

「な、なんですと!」

コルベールが、素っ頓狂な声をあげた。

「近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです」

サイトが目を開き、ロングビルを見据える。
オスマンは、目を鋭くして、ロングビルに尋ねた。

「そこは近いのかね?」

「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」

コルベールが王室に報告しようと言ったが、オスマンに怒鳴られた。この件はどうやらこの魔法学院内でけりをつけるつもりらしい。

「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

しかし、だれも杖を挙げようとしない。だれもがフーケの名に恐れを抱いているのだろう。
そんな中、一本の杖が掲げられた。ルイズの杖だ。

「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて…」

「誰も掲げないじゃないですか」

止めようとするシュヴァルーズに向かって、はっきりと言い放ったルイズの姿を見てサイトの口元に笑みが浮かんだ。面白い展開だと。
ルイズを見てしぶしぶとキュルケも杖を掲げた。

「ふん。ヴァリエールには負けられないわ」

続いてタバサも杖を掲げた。

「心配」

3人に向かって教師たちが必死に止めようと騒ぐ。しかし、それもオスマンの一喝で静まった。

「君たちに任せるとしよう」

「私は反対ですぞ! オールド・オスマン!!」

「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュバリエの称号を持つ騎士だと聞いておるし、ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家計の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力だと聞く」

教師たちの視線がタバサに集まるが、とうの本人はぽけっと立っているだけ、キュルケは得意げに髪をかきあげた。
さぁ、次は自分だとルイズは可愛らしく胸を張った。ここに来て、オスマンは焦った。彼女のどこを誉めればよいのかまったく思いつかない。っとそのとき、ルイズの隣りに立ったサイトの姿が目に入った。

(これじゃ!!)
「オホン…ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女であり、その…将来有望なメイジと聞く。そして、その使い魔は、ワシの見解では水のスクウェアクラスにもとどくほどの実力を持っておるであろう」

ルイズやキュルケ、そして教師たちの視線が自分に集中するのを感じながら小さくため息をついた。

「この3人に勝てるというものがいるのなら、前に一歩でたまえ」

誰もいなかった。オスマンはサイトを含む四人のほうを向き直った。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

ルイズとキュルケとタバサは真顔になって直立すると「杖にかけて」と同時に唱和した。それからスカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。サイトはそれを一歩下がったところで見ていた。

「では、馬車を用意しよう。ミス・ロングビル、彼女たちを手伝ってくれ」

「もとよりそのつもりですわ」

オスマンは最後にサイトの横を通り過ぎるとき、サイトにしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「彼女たちを守ってくだされ」

「あいつらは嫌いじゃないからな」

サイトはそれに小さく頷いて応えた。


―――――――――――――――――――――――――――――


四人はロングビルを案内役に、早速出発した。
馬車に乗って数分、ロングビルの過去を根掘り葉掘り聞こうとするキュルケをルイズが注意し、そのまま二人はケンカへと発展していった。
タバサとサイトは我関せずといった感じでタバサは読書、サイトは寝ていた。
ロングビルはこの人選に、少し不安になった。
三時間と少し馬車に揺られていると深い森にたどり着いた。
これ以上、馬車で進めばフーケに気づかれるかもしれないということで徒歩での移動となった。
少し進むと開けた場所に出た。だいたい学院の中庭くらいの広さだ。その真ん中に、確かに廃屋があった。
廃屋から見えない位置で作戦会議を始める。といっても奇襲作戦しかないことは誰にでも分かった。百戦錬磨の大盗賊に素人もいいところである学生が真っ向から戦って勝てるとは思えなかった。シュヴァリエの称号を持つタバサとオスマンにスクウェアクラスはあると太鼓判を押されたサイトがいるが、タバサに負担をかけたくはないし、普段、もうろくしている印象の方が強いオスマンが言っていたことである。信じていいものか微妙だった。
結果、唯一男であるサイトが偵察兼囮として小屋へ向かい、他の者たちはサイトがフーケを外に連れ出したとき、集中砲火でフーケを倒すというものに決まった。
サイトは、音もなく小屋に忍び寄り、壁に耳を当てるオルフェノクの持つ人間をはるかに上回った聴覚で中の音を探る。もし、誰か中にいれば呼吸音が絶対にあるはずだからだ。

(だれもいない…)

サイトは誰もいないことを確認し、合図を送る。隠れていた全員がおそるおそる近寄ってきた。
ロングビルは近くに誰かいないか偵察してくると言って小屋から離れ、ルイズは見張りを買って出ため、残りの三人で小屋の中を捜索する。といってもサイトは『呪われし衣』がどのようなものなのか知らないため、適当に部屋を荒らしているだけである。

「あった」

タバサは無造作にそれを持ち上げ、二人に見せた。

「あっけないわねぇ」

つまらなそうにいうキュルケの横でサイトは珍しく目を見開いた。

(何故、これがこんなところに…)

タバサから『呪われし衣』を受け取ったサイトは呆然とそれを眺め、自分のみ間違いでないことを確認する。
そのとき、外で見張りをしていたルイズの悲鳴が聞こえ、続いて小屋の屋根が吹き飛び、空が見えた。空と一緒に巨大なゴーレムが一緒に見えたが、皆、見たくなかったと心の底から思った。
タバサが自分の身長よりも大きな杖を振るい、呪文を唱えるのにあわせてサイトの腕が空を斬る。巨大な竜巻とサイト十八番のウォーターカッターがゴーレムを襲う。しかし、ゴーレムは竜巻の直撃に耐え、切り裂かれた腕を瞬時に再生させた。
続いてキュルケが炎を放ち、ゴーレムを火ダルマにするも、やはり効果はいない。

「退却」

三人はゴーレムが拳を振り上げたのを見て慌てて小屋から飛び出した。後一瞬遅ければ、背後で轟音と共に崩れた小屋と同じ運命をたどっていただろう。
サイトはルイズの姿を探す。鋭利な五感が瞬時に彼女の存在を感じ取る。ルイズはゴーレムの背後から魔法を放つ。ゴーレムの表面に小規模な爆発が起こった。ゴーレムはルイズの存在に気づき、振り返ったところで止まった。どうやら、逃げ出したキュルケたちを追うか、近くにいるルイズを襲うか悩んでいるようだ。
サイトはその隙にルイズのもとへたどり着く。

「退くぞ」

「いやよ! あいつを捕まえて皆を見返すの! もう、誰にもゼロのルイズなんて呼ばせない!!」

叫ぶルイズの目は真剣だ。本気でゴーレムを倒し、フーケを捕まえる気でいる。

「目的を忘れるな。おまえはここに何をしにきた?」

「ッ!!」

「おまえはこれを取り戻しに着たんだろ? 教師たちがビビっている中、自分がやるって宣言してこれを取り返しに着たんだろ? これの奪還は成功した。あとはこれをもって学院に戻ればミッションは終了だ。わざわざ、やる必要のない戦いをする必要なんてどこにもない」

「で、でも…これ以上バカにされたくない…キュルケたちが逃げ出した相手を私が捕まえれば、私はきっと認めてもらえる!」

バカにされ溜まるに溜まったルイズのストレスが暴走している。涙目で叫ぶルイズを見てサイトは小さくため息をつく。
ゴーレムが片足を振り上げ、踏み潰そうとする。サイトはウォーターカッターで軸足を切り裂き、バランスを失わせてゴーレムを転ばせると、ルイズを抱きかかえてゴーレムから距離を取る。ゴーレムは足を再生させ、再び迫ってくる。
ウィンドラゴンが二人を救うために飛んできた。サイトたちの目の前に着陸する。

「乗って!」

珍しくタバサが叫ぶ。サイトはルイズを無理やりドラゴンの背に乗せた。

「あなたも早く!」

しかし、サイトは首を振った。

「御主人様がアレを倒さないと帰れないって駄々をこねるんだ。すぐに終わらせる上から見ていろ」

ルイズがサイトの名を叫び、ドラゴンから降りようとしてキュルケに止められた。
タバサは無表情でサイトを見つめていたが、追いついてきたゴーレムが拳を振り上げるのを見て、やむなくウィンドラゴンを飛び上がらせた。

「こんな世界に来ても、これを見るなんてな」
(せっかくだし、使うか。お客さんもそれがお望みみたいだしな)

振り下ろされた拳を避け、距離を取り、『呪われし衣』を腰に装着し、その一部を取り外す。そして、隠すようにスタートアップコードを打ち込む。

――― 9 1 3 Enter ―――

<Standing By>

「変、身」

<Complete>

サイトの身体に黄色いライン、フォトンブラッドが駆け巡る。そしてそれが全身に渡ったとき、サイトは仮面ライダーカイザへと変身をとげた。
右手の指を小指から順に握る。

「ライオトルーパーよりしっくりくるな」

「サイト!!」

感触を確かめていたカイザにルイズの声がかかる。ふと見上げるとゴーレムが拳を振り下ろしていた。
カイザはそれを真っ向から迎え撃つ。轟音が響き渡り、あたりを土煙がおおった。それがゆっくりと晴れていく。そこには悠然と立つカイザと腕を砕かれたゴーレムの姿があった。
カイザは動きの鈍いゴーレムの攻撃をことごとくかわしながら攻撃を繰り出していく。

(…体が軽い、前に一度だけカイザになったことがあったけど、こんな感覚を感じなかった……まぁいい、今はあれを壊すことに集中しろ)

双眼鏡型ポインティングマーカーデバイス、カイザポインターを取り出し、カイザフォンに組み込まれているミッションメモリーをセットして右足に装備する。

「パーティはお開きだ。おまえはここで退場してもらおうか!」

カイザが、ゴーレムに向かって走り出す。それを迎え撃つゴーレムの拳を踏み台にしてカイザは天高く舞い上がる。

――― Enter ―――

<Exceed Charge>

カイザドライバーから光が、フォトンブラッドを通ってカイザポインターへと流れ込み、カイザとゴーレムの中間位置に黄色い円錐を生み出す。

「ハッ!!」

そのまま、飛び込んでいったカイザを円錐が包み込み、ゴーレムへ突き刺さる。カイザの必殺技の一つ、ゴルドスマッシュが炸裂した。
轟音が響き渡り、ゴーレムの身体に“Χ”が浮き上がって砕け散った。

(確か、カイザは草加雅人とかいうのが持っていたはず…なのに何故、こんなところにあるんだ? …あのオスマンとかいうのが何か知っているかもしれないな)

カイザは変身を解除し、サイトへと戻った。ウィンドラゴンが舞い降り、ルイズたちが駆け寄ってくる。

「サイト! すごいわ! やっぱりダーリンね!!」

身長差か、まず最初にたどり着いたキュルケがサイトの首に抱きつき、若干遅れたルイズがサイトに抱きつくキュルケを見て心配そうだった顔を怒りに変えた。
そして、最後にやってきたタバサが崩れ落ちたフーケのゴーレムを見つめながら呟いた。

「フーケは?」

「そうだったな。タバサ、ルイズとキュルケを連れてロングビルを探してくれ、俺は馬車が大丈夫か見てくる」

サイトが素早く指示を出す。三人ともそれが最良であると感じ取り大人しく従おうと、ウィンドラゴンに跨ろうとしたとき、茂みからロングビルが現れた。

「ミス・ロングビル! 無事でなりより、それで、フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら?」

キュルケがそう尋ねると、ロングビルはわからないというように首を振った。

「『呪われし衣』が本物であるか確認したいので、貸してください。フーケの用意したダミーかもしれませんし」

「本物だ。実際に使えたし」

カイザドライバーを受け取ろうと伸ばしてきたロングビルの手を避ける。

「もしかしたら、精巧なダミーかもしれません」

「ありえない。これを作るのだった何年もかかったと聞いている」

なおも食い下がるロングビルの手を避けていく。

「それよりもミス・ロングビル、フーケの行方を探しましょう!」

周りにいないのなら、この中に潜んでいるのでは? とゴーレムの残骸で出来た土の小山を探し始めた。
と、そのとき、ロングビルが呪文を唱えた。土から四本の手が伸び、ルイズたちをとらえた。周囲を警戒していたサイトは自分を捕まえようと伸びてくる土の手を叩き落した。タバサが呪文を唱えようとしたが、土が口を塞ぐ。

「どういうことよ! ミス・ロングビル!!」

自分の属性上、下手に使えば自爆することが分かっているらしく魔法を使おうとしていないキュルケが叫んだ。

「さっきのゴーレムを操っていたのは、わ・た・し」

「え、それじゃあ……」

「そう、私が土くれのフーケ。それにしてもさすがは『呪われし衣』、私のゴーレムが
まったく歯が立たなかったわ」

メガネを捨て、本性を表したロングビルは、サイトが土の手から逃れたことに気がついた。

「あら? 一匹逃げられてしまったわ。まぁ、いいわ。あなたは確かこの子の使い魔だったわね。御主人様が酷い目に合わされたくなければ大人しく『呪われし衣』を渡しなさい」

「ダメよ! サイト!!」

「あなたは黙っていて」

「んー! んんーー!!」

まだ口が自由だったルイズの口も土が塞ぐ。

「こいつはある条件をクリアした者にしか使えない。おまえが使っても待っているのは死だけだぞ」

「いいから渡しなさい。これ、とったのはいいんだけど、使い方がまったく分からなくて困っていたのよぉ。どんな凄いお宝でも、使えなくちゃ意味がないでしょ? あなたのおかげで使い方が分かった。ありがと」

「そうか、では、ついでにいい事を教えてやる」

「何かしら?」

サイトは一瞬だけこの場にいて土の手にとらわれていないウィンドラゴンに目配せした。 
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