オルフェノクの使い魔
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
オルフェノクの使い魔(ゼロの使い魔←劇場版仮面ライダー555)
『考え直してはくれないでしょうか? 今なら、あなたのやったことを不問にしますよ』
「ずっと考えてきたことだから…もう、考え直すことなんてない」
『そうですか…あなたの実力なら、レオと同じように帝王のベルトに選ばれたでしょうに』
「……」
携帯から聞こえる声とは別に何台ものバイクのエンジン音が近づいてくる。
『残念です。もし、縁があれば、また合いましょう』
「そう…だな」
平賀サイトは携帯をしまい、隣りにいる青年に顎で先に行けと指示する。
「あんたはどうするんだ?」
「これは俺のケジメだ。乾巧、おまえの気にすることじゃない」
「…俺を捕まえて、勝手に連れ出して、しまいには関係ないなんていわれて納得すると思うか?」
「できなくてもいいさ、狼はさっさと群れに戻れ」
「!? 気づいてたのか、あんた」
「これでも、オルフェノクになって長いんだ。なんとなく感じられただけだ」
サイトはもう一度、先にいけと示す。青年はわずかに躊躇したが、先へ駆け出した。
去っていく足音を聞きつつ、目の前に集まったバイクの群れに意識を向ける。
群れから黒ずくめの男が一歩前に出た。
「平賀隊長、あなたを反逆罪の容疑がかかっています。大人しくついてきてください」
「嫌だと言ったら?」
「この場で処分せよと」
サイトは手に持っていたベルト、ライオドライバーを男に投げつけた。
「…これが答えですか。平賀隊長」
「これからはおまえが隊長だ。獅子戸」
「……総員、変身! 反逆者、平賀サイトを抹殺する!!」
獅子戸と呼ばれた男の声と共に、バイク集団は全員、ライオトルーパーに姿を変えた。
「ただでやられると思うなよ」
サイトの身体に模様が浮き上がり、灰色の異形、ミズチオルフェノクへと変化した。
「さぁ、パーティの始まりだ!」
*****************
平賀サイトは自分のおかれている状況をとりあえず理解し、目の前にいる少女を見据える。
おそらく美少女と言って申し分ないその少女ルイズは不満を隠そうともせず、顔に表してサイトを睨んである。
「なるほど、俺はおまえの召喚魔法によってここに呼び出されて、さらにおまえの使い魔になったと?」
(700ちょっとを黙らせたところで光に包まれたと思ったら、異世界です。だもんなぁ…)
「そうよ。
最悪、もういい、明日も早いし寝る」
諦めたように呟くとルイズは服を脱ぎだしたが、サイトは特に反応もすることなく壁に寄りかかり、ついこの間までふかふかのベッドで寝てたのにな、と思いながら目を閉じた。
その頭に何かが投げつけられた。反射的に受け止め、何かを確認すると白いレースのパンティであった。
「……」
「ちょっと! 何するのよ!!」
それを無言でわきに投げ捨てるとルイズが怒鳴り声を上げた。
「それはこっちの台詞だ」
「使い魔なんだからそれ洗濯するのよ」
「断る。これが使い魔の仕事だと言うのなら一つ聞かせろ、他の使い魔たちもそれをやるのか? 犬とかねずみが洗濯をやるのか?」
「う…そ、それは……あ、あんたは人間で他の使い魔みたいなことできないでしょ!
だからこれぐらいやりなさいよ!」
「他の使い魔がどんなことをやるのか知らないが、戦うことならできる。魔法使いだろうがなんだろうが、戦ってやる」
「あんたバカ? 平民が貴族に勝てるわけないわ」
「さぁ、どうだろうな」
話は終わったとばかりにサイトは再び目を閉じ、ルイズが何を叫ぼうとももう何も反応しなかった。
―――――――――――――――――
サイトは日の光を浴びて目を覚ました。
まず最初に体を軽く動かして調子を確認する。体の奥から軋むような痛み、手の中にいつの間にか握られた灰を見て顔をしかめる。自分の寿命を突きつけられたような不快感を感じた。
「使い魔ねぇ…
ライオトドライバーを返上して身軽になれたってのに今度はお嬢様のおもりか。つくづくついてないなぁ…」
立ち上がり、まだ寝ているルイズを残して部屋を出た。
(つまり、今後はこのお嬢様といなきゃなんないのか…最悪だな)
―――――――――――――――――――――――――
少しして戻ってくると不機嫌そうな顔をした寝巻き姿のルイズがいた。
「どこ行ってたのよ、あんたは!!」
「適当にブラブラと、水がどうこう言ってたから持ってきたぞ」
そう言って持ってきた水を適当なところに置いた。
「服」
椅子にかかった服を指差して命じるルイズを無視してサイトは窓に腰掛けた。
「服!」
「うるさいぞ」
「だから、服を取って私に着せなさい!! って言っているでしょ!!」
「言ってないし」
「言ったんだから言うこと聞きなさい!!」
「やだ」
「いうこときかない使い魔はご飯抜きよ!!」
「別に、適当なやつボコして奪う」
「な、なななんて野蛮なこといってんのよぉ!!」
「もらえないんなら自力で何とかするしかないだろ?」
「さ、最低…」
「最高の誉め言葉だ」
しれっと応えるサイトの姿に怒りを通り越して呆れてしまったルイズは自分で着替えた。
「……ご飯食べに行きましょう」
「抜きじゃなかったのか?」
「騒ぎを起こされたりしたら、たまらないわ」
朝から何故、こんなに疲れなきゃならないんだろう、と考えながらルイズは部屋を出ると、ちょうど同じように隣りのドアが開いた。中からは燃えるような赤い髪の少女が現れた。サイトと同じくらいの身長、褐色色の肌、ルイズと比べとルイズがかわいそうになるほど大きなバスト。すべてがルイズと対照的な少女だった。
「おはよう。ルイズ」
「おはよう。キュルケ」
ルイズが嫌そうに挨拶を返したが、キュルケと呼ばれた少女は大して気にしていないようだ。
「あなたの使い魔って、それ?」
「そうよ」
「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!
どうせ使い魔にするならこういうのかいいわよねぇ~。フレイムー」
キュルケの呼び声に応じて彼女の部屋から真っ赤で巨大なトカゲが現れた。サイトはそれに興味を引かれて歩み寄るとぽんと頭に手を乗せ、撫でてみる。熱を感じるも、暑すぎるほどではなかった。
「あら? あたし以外が触れるなんて」
どうせ威嚇されて終わりだと思っていたキュルケは驚いてサイトを見る。
「敵意がなければ平気みたいだぞ?」
そう言ってフレイムを撫でつづけるサイトの腕を取り、ルイズは突然歩き出した。
―――――――――――――――――――――
ぐいぐいとサイトを引っ張っていたルイズはふと立ち止まり、近くにあった窓のふちに手をおき、外に向かって力いっぱい怒鳴った。
「くやしー! なんなのあの女は! 火トカゲを召喚したからって!!」
「おちつけよ。あんなの水ぶっ掛けちゃおしまいなんじゃないのか?」
あくびをかみ殺しながら言うサイトをルイズが睨むつけた。
「確かに火トカゲは水に弱いけど、ちょっとやそっとの水じゃ蒸発して終わりよ」
呆れたように呟くとルイズは何で私にはこんなのが、とブツブツいいながら再び歩き始めた。その後ろについて歩くサイトはぺろっと舌なめずりをした。
(トカゲか、こっちは水龍だぞ…)
食堂で食事を済ませ(満腹にさせないとさっき言っていたことを実行するかもしれないとルイズは警戒したが、サイトはしっそなスープと硬そうなパン二切れだけだったにもかかわらず何も言わなかった)、教室に入った。
魔法学院の教室は大学の講義室を石で作ったようなつくりだった。ルイズが現れたとたん、生徒たちが一斉に振り向き、くすくすと笑い始めた。
ルイズはそれを気にしたそぶりも見せず、真中くらいの場所に座った。その隣りにサイトが座ると睨んだが、悟ったのか何も言わなかった。
少しすると、紫のローブをまとった中年の女性が教室に入ってきた。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですね。このシュヴァルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ。
あら? 変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
シュヴァルーズがサイトを見てとぼけた声で言うと教室中がどっと笑いに包まれた。
(ガッコウってのに興味があったんだが…なんかムカツクな……)
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いていた平民連れてくるなよ!」
「違うわ! きちんと召喚したもの!! こいつが来ちゃっただけよ!!」
太った少年の言葉にキレたルイズが立ち上がって怒鳴り返した。が、少年のほうも怒鳴った。
「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」
怒りに任せて机を叩こうとしたルイズの手をサイトが止めた。
「何すんのよ!!」
「授業を無意味に使うもんじゃないぞ?」
「無意味って何よ!」
「知識を身に付ける大切な時間を浪費してんだ、無意味以外何ものでもないと思うぞ」
静かに、うざったそうに言う彼の言葉にルイズも正しさを感じたのだろう。握っていた拳を解き、席に座った。
「ミス・ヴァリエールの使い魔の言うとおりですよ、みなさん。さあ、授業を始めましょう」
(こいつ、自分が原因だって自覚無いのか?)
この短い時間でサイトの中でシュヴルーズに無能という判が押された。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・グランドプレ」
「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」
そうです。シュヴルーズはうなずいた。
「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。その五つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを占めていると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私の単なる身びいきではありません。『土』系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。この魔法がなければ、必要な金属を作り出すこともできないし、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物の収穫も、今より手間取ることでしょう。このように、『土』系統の魔法は皆さんの生活と密接に関係しているのです」
(なるほど…)
ルイズが、魔法使いと言うだけで威張る理由がわかった。こちらの世界の『魔法』とは、サイトの世界でいう『科学技術』に相当するらしい。
「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生の時にできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることにいたします」
シュヴルーズは、石ころに向かって、右手に持った小ぶりな杖を突きつける。そして、短い呪文をつぶやくと、石ころが黄金色の輝きを放った。一瞬で光は収束。ただの石ころはピカピカと光る金属に変わっていた。教室内にどよめきが起こり、キュルケは身を乗り出した。
「そ、それってゴールドですか?」
「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」
ごほん、ともったいぶった咳ををして、シュヴルーズは続けた。
「『トライアングル』ですから……」
サイトはルイズをつついた。
「なあ」
「なによ。授業中よ」
「スクウェアとか、トライアングルとかって、なんだ?」
「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」
「系統を足せる?」
ルイズは小さな声で説明した。
「例えばね? 『土』系統の魔法はそれ単体でも使えるけど、『火』の系統を足せば、さらに強力な呪文になるの」
「フムフム」
「『火』『土』のように、二系統を足せるのが、『ライン』メイジ。シュヴルーズ先生みたいに、『土』『土』『火』、三つ足せるのが『トライアングル』メイジ」
「つまり、『土』一つだと“ストーン”が出せて、もう一つ『土』を足すと“ロック”、『火』を足せば“メテオ”ってところか?」
「なんで全部攻撃系なのよ……っていうかあんた本当は知ってんじゃないの?」
「記憶力と理解力は驚異的にあるらしい。恩師によく言われた」
こういう話になれば自然とこの質問が出てくるものである。
「そういえば、おまえはいくつ足せるんだ?」
ルイズは黙ってしまった。
サイトは深く聞かず、一つがやっとなのだろうと勝手に結論づけた。
話しているのをシュヴァルーズに見咎められた。
「ミス・ヴァリエール」
「は、はい」
「使い魔と仲がいいのは結構ですが、私語は慎みなさい」
「すいません……」
「おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」
「え? わたし?」
「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
ルイズは立ち上がらない。困ったように、もじもじするだけだ。
「どうした?」
「な、なんでもないわよ!」
いつまでも立とうとしないルイズに声をかけると怒鳴り返された。
「これも恩師からの受け売りなんだが、失敗は成功するために必要不可欠な材料だそうだ」
「……」
サイトの言葉のおかげかルイズが席から立ち上がった。
「先生」
「なんです?」
「やめといた方がいいと思いますけど……」
「どうしてですか?」
「危険です」
キュルケは、きっぱりと言い切った。教室のほとんど全員がうなずいた。
「危険? どうしてですか?」
「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ。でも、彼女が努力家ということは聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい」
「ルイズ。朝の事を根に持っているなら謝るから、お願いやめて」
キュルケが蒼白な顔でいった。
「やります!」
ルイズはつかつかと教室の前へと歩いていった。他の生徒たちの悲鳴や断末魔を背負って…
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
こくりと小さくうなずいて、ルイズは懐から出した小さな杖を振り上げる。教壇の近くにいる生徒たちは、机の下に避難していた。サイトもとりあえず、その生徒たちにならって机の下に潜る。緊張に微震する声が、短いスペルを詠唱する。
そして、杖が振り下ろされた瞬間、石が爆発した。
黒煙と粉塵が晴れ、衝撃で外れ落ちた黒板をバックに、人型がむくりと立ち上がった。
煤に塗れた顔で呆然としているのは、桃色の髪の少女。マントはボロボロ、ブラウスは破れかぶれ、スカートの裂け目から、パンツが見えている。見るも無残な格好ではあったが、ルイズは無事だったようだ。
そのすぐ近くにシュヴルーズが倒れ付している。サイトはとりあえずシュヴルーズの状態を確認する。
「気絶しているだけか…おい! だれか、このバアサン医務室に連れてけ、それと男子! 喚いてないで怪我人を後ろに集めろ! 女子で怪我を治せるやつがいるんなら、やれ!!」
サイトがすばやく指示を飛ばす。その怒鳴り声に生徒たちの視線がサイトに集まる。
「平民が威張るな!!」
「ゼロのルイズの使い魔のくせに!!」
こんなときでもこんな言葉が出てくるのかと内心感心してから、サイトは拳を振り上げ床に叩きつけた。次の瞬間、石畳の床に直径1m前後のクレーターが生まれた。
「いいから、やれ」
殺気のこもった視線を放った。クレーターとサイトの視線にビビッた生徒たちは慌ててサイトの指示どおりに動く。
重傷者は気絶したシュヴルーズ以外いなかったらしかった。
――――――――――――――――――――――――――――
サイトの的確な指揮により、教室は1時間授業をまるまる潰すだけで元通りに戻った。シュヴルーズが息を吹き返したが体調不良を訴え、午前中の授業は休講となった。もしかしたら、トラウマになったかもしれない。
部屋に戻ったルイズとサイトはお互い黙ったまま、ルイズは本を読み、サイトは外を眺めていた。
その沈黙に耐えられなくなったかのようにルイズは本を閉じ、サイトのほうを向いた。
「……なんなのよ、あんたは」
「あ?」
「あんなふうにみんなを動かして」
「慣れてるからな」
「……」
「……」
「聞かないの?」
「何を?」
「私のこと。私がなんでゼロのルイズって呼ばれているかってこと?」
「興味なし、おまえが話したいんなら聞くぞ」
「私、魔法が下手だから…一度もまともに成功したことが無いから……ゼロなんて名前がついたの」
ルイズはベッドに寝転び、顔を枕で隠した。
「二つ名ってそいつの態度を示すもんじゃないのか?」
「態度?」
ルイズが顔を上げた。
「おまえは自分がゼロだからって怠けたのか? 努力することを諦めたのか?」
「そんなことするわけないじゃない!!」
「そうだろうな。目が腐ってない。ならその努力で何にでもなれるゼロに誇りを持てよ」
そういったサイトの顔は笑っていた。
「なぁルイズ」
「何よ」
「俺に字を教えてくれ。ここの世界の字が分からなくてな。本も読めない」
ページ上へ戻る