『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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SS13 ルールブレイカー
前書き
vsキャスター。二回目。
士桜でラブラブ書きなかったが、筆者の技量ではこの程度……。
学校が臨時休校した朝。
「桜、どうだ?」
「うーん…、あと、お砂糖を少し欲しいですね。」
「じゃあ、ちょっと甘めにするか。」
「うふふ…。」
「どうした?」
「もし…、先輩と結婚したら、毎日こんな日を過ごせるのかもって…。」
「桜…。」
「先輩…。」
「しろーーう、私、朝はパンだからねー。」
「今準備をしている。待て。」
アーチャーがそう言った。
ところで、アーチャーもエプロン姿だ。この男、見た目に似合わず、料理をたしなむらしい。凛曰わく、主夫。
三人で並んで料理しているため、ちょっと台所が狭かった。
せっかくのラブラブな雰囲気を壊され、桜は持っていたお玉をギリッと握りしめた。
そして、朝ごはんが出来た。
トースト、コーンスープ、ベーコンエッグ、サラダ。いつも和食だが、今日は洋風にした。
「あら? このコーンスープ美味しい。」
「味付けは桜がした。」
「ふ~ん。やるじゃない。」
「先輩のおかげですから。」
「へ~…。」
「姉さんには家があるんですから、無理にこの家に来なくていいと思うんですよね?」
「あ~ら、姉がせっかく心配してあげてるのになに? その態度は。」
「心配ご無用です。私は先輩のお嫁さんになるんですから。」
「認めないわよぉ?」
ゴゴゴゴ…っという感じで、桜と凛の背後に黒いオーラのような物が燃え上がっていた。
あまりの空気の悪さに、マイペースにトーストを噛んでいる士郎以外は、ゲッソリだ。
ちなみに士郎は、身体作りのため他の者達の倍以上食べる。もちろんプロテインも忘れていない。
「あの……、シロウ?」
「ん?」
「止めなくていいんですか?」
「なんでさ?」
「ダメだ、セイバー。そいつの鈍感さはレベルを逸している。」
アーチャーが机に両肘を置き、頭を支えてため息を吐いた。
「シロウは、マイペースですね…。なんというか、ドッシリとしている。」
ライダーは、桜の隣で士郎の様子を見ながらそう言った。
「筋肉がだろ?」
「いいえ、精神的にもです。」
うんざりしたように言うアーチャーに、ライダーがそう言った。
アーチャーは、額部分を机に置いた肘と組んだ両手で支えながら、その下で歯を食いしばった。
この世界線の士郎は、何もかもが、自分を超えているかもしれない。それが何より歯がゆいのだ。
アーチャーは、悟られぬよう凛をチラリと見る。そして思う。
絶対に……、自分がエミヤシロウだということを知られてはいけないと。
もし知られたならば、同一人物だとまず思われないし、この世界線の士郎と比べてなぜこうも弱いのかと言われかねない。それだけは!なんとしてでも避けたかった……。
血反吐を吐いて吐いて…、それを遙かに超える苦難を乗り越えて、やっとの思いで抑止の守護者になったというのに、それを平然と越えるようなのが、筋肉バカという思考回路をした別次元の自分だとという現実を受け入れたくないし、認めなくない!っと……アーチャーこと、エミヤは心の中で大泣きした。
「桜の夫となれば、素晴らしい家庭を築けるでしょうね。」
「認めないからねぇぇぇぇぇ!!」
ライダーの言葉に凛が爆発した。
***
食後、昨日のことで駆けずり回っていた大河は、お腹がいっぱいになってスピスピと机の上で寝てしまった。
凛は、冬木の管理者として仕事があるといってアーチャーと出て行った。
「ったく、食べたら牛になるぞ、藤ねえ。」
「ムニャムニャ…、もう食べられない…。」
「仕方ありませんよ。」
桜が薄い掛け布団を持ってきて、大河の上にかけた。
「先輩、ほんとうにすみません…私のせいで姉さんまで来ちゃって家が狭くなりましたね…。」
「いや、だいじょうぶだ。桜は気にしなくていい。あっ、そうだ、桜。コレ…。」
「これは?」
「できるだけ同じようなのを探したんだけど…。」
綺礼に包装されたそれを開けると、リボンが入っていた。
「前の奴…ボロボロになっちまっただろ?」
「先輩。ありがとうございます。」
「ほら、付けてやるから、こっち来い。」
「は、はい!」
桜は、膝立ちで士郎に近づき、目の前にちょこんっと座った。
士郎は、透明なプラスチックの箱に入っていたリボンを取り出し、髪ブラシを片手に桜の髪の毛を触った。
桜は、ピクッと反応しつつ、されるがままになった。
サラサラと指通りのいい髪の毛を丹念にブラシですきながら、整え、リボンを巻く。
「ほら。できたぞ。」
そう言って士郎は、手鏡を渡した。
「わあ…。ありがとうございます。」
「なあ、桜。」
「はい?」
「それ買った店…、いろんなの売ってたんだ。今度、見に行かないか?」
「えっ?」
「イヤか?」
「そ、そんなことないです! 行きます! 行きたいです!」
桜の脳内に、凄まじい勢いで、士郎とのデート風景が妄想された。
お店を回って、喫茶店に行って、それから公園とか橋で良い雰囲気になって…それからそれから……っと、グルグル考えた。
「あぁ…。」
思わず恍惚の声が漏れてしまった。
士郎は、そんな桜を見つめて、ニコニコしていた。
「可愛いな。」
「えっ?」
「桜は、可愛いなぁ、って思ってな。」
「そ、そんな…。」
「なあ、抱きしめていいか?」
「えっ!」
「イヤだって言っても抱きしめるぞ?」
「よ、喜んで!」
「桜…。」
士郎のたくましい腕が、桜を抱きしめた。
桜は、身を任せ、士郎の胸に手を置き、顔を寄せた。
「先輩…、私……、幸せです。」
「俺もだ、桜。」
「先輩…。」
「桜…。」
お互いに目を閉じ、顔を近づけようとした。
ガシャーーーン!
その時、居間の窓ガラスが突き破られた。
ハッとして見ると、そこから骨の兵隊達が入り込んできた。
「キャスターか!」
「あら? よく分かったわね。」
「藤ねえ!」
見ると、キャスターがいつの間にか、寝ていた大河を抱えて首を掴んでいた。
「シロウ! キャスター、貴様!」
駆けつけてきたセイバーが叫んだ。
「この女の命が惜しければ、動かないことね。」
「てめぇ…。」
「だいじょうぶです、先輩。」
「桜?」
「隙だらけですよ。」
キャスターの背後に回ったライダーが、キャスターを背後から殴り、大河を奪い返した。
「よくやったな、ライダー!」
「これくらい…、っ! セイバー、後ろです!」
「えっ?」
ライダーの近くにいたはずのキャスターが、セイバーの後ろにもいた。
次の瞬間、セイバーに向けて、キャスターが、奇妙な形の刃を突き刺した。
「ぐっ…!?」
「ルールブレイカー。」
「セイバー!」
「ホホホ…。これで、セイバーは私の物よ。」
キャスターは、そう言い、自身の手に移った令呪を見せびらかした。それと同時にライダーの傍にいたキャスターが消えた。
「なっ!」
士郎は、自分の右手の甲を確認し、令呪が奪われたことを知った。
「我、令呪をもって命じる。セイバー。我が傀儡となりなさい。」
「ああああ!」
セイバーが令呪の強制力を受け、膝をついた。
「セイバー!」
「さあ、セイバー! そこの筋肉ダルマを殺しなさい!」
「くっ…!」
令呪の強制力に操られたセイバーが剣を出現させて、士郎に斬りかかった。
「ふんっ!」
士郎は腕の筋肉を膨張させて防いだ。
「し、シロウ…、逃げ…。」
「馬鹿野郎! そんなことできるか!」
「ならば…、セイバー! 宝具をもって、殺しなさい!」
「う、ぐ…、うぁあああ!」
セイバーの剣に光が集まりだした。
「うおおおお!」
「ご、ほっ…!!」
「なっ!?」
セイバーの鳩尾に士郎が拳をめり込ませ、気絶させた。
「キャスター! 令呪を返せ!」
「ちっ…! こんな狭いところじゃなければ…。」
「ライダー!」
「はい、桜。」
「おまえは、邪魔よ。」
キャスターが周囲に光の球を出現させ、ライダーと士郎に放った。
ライダーは、機動性を生かして避け、士郎は筋肉を膨張させて桜の盾になり、防いだ。
「ガンド!」
「っ!」
魔力の弾丸を受け、キャスターが膝をついた。
「遠坂!」
「逃げるわよ!」
「セイバーが!!」
「仕方ないのよ! 今は逃げることを優先しなさい!」
「逃がさないわ…。」
キャスターが魔力をほとばしらせ、大きな一撃を放とうとした。
「ピストル拳!」
「はああ!」
小さめに撃ち込まれた士郎の拳の圧を、キャスターが魔術で相殺した。
そのすきに、士郎達は家から逃げ出した。
キャスターは、すぐさま霊体化して、外に飛び出し、ローブを翼のように広げて周りを見回し、逃げる士郎達を見つけた。
「逃がさないわよ!」
「令呪を返せぇぇぇぇぇ!!」
「えっ…?」
宙を舞っていたキャスターのところに、士郎が空気を蹴って、宙を跳び、キャスターがいる高さまで来た。
「ピストル…。」
「ひっ!」
「拳!」
「いやあああああああああ!!」
放たれた拳の圧が直撃する直後、キャスターは、消えた。というか、逃げた。
「マジで…?」
凛は、空気を蹴って空を跳ぶという離れ業をやった士郎の姿に呆気にとられた。
地上に降りた士郎は、悔しそうに地団駄を踏んだ。
「ちくしょう! 令呪を取られた!」
「士郎…、残念だけど、あんたは脱落よ。」
「まだだ! 令呪を取り返せれば…。」
「じゃあ、どうやって令呪を奪い返せるか、方法を知ってるの?」
「それは…。」
「いいえ! まだです!」
桜が叫んだ。
「私とライダーがいますから! 私が勝ち上がって、聖杯を先輩に渡します!」
そう力強く宣言する桜。
「桜…。」
「だいじょうぶですよ。先輩。」
「そう…せいぜい頑張りなさい。」
凛は、そう言って手を振った。
アーチャーは、黙ったまま、キャスターが消えた空を見上げていた。
後書き
キャスターにセイバーを奪われ、士郎脱落。
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