提督はBarにいる。
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やっぱ冬は鍋でしょ!・その4
「はぁ~、スープがお酒のお陰かな?お腹の中からポカポカしてきたよ」
「熱燗も入ってますから、余計に温まりますね」
「美味しいから何でも良いよ!」
喜び方は三者三様、それでも全員満足してるみたいだから良かった良かった。……あ、美酒鍋のシメだが残った汁を溶き卵に混ぜて、それをご飯にかけて食べる卵かけご飯がオススメだ。おじやでもいいとは思うが、何せスープのベースが酒だからおじやにするぐらい残んねぇんだよな。
「……で?提督は今度は何作ってんのさ」
鼻のいい奴め。
「斥候は五感が武器だからね。特に、夜戦だと耳と鼻が大事だよ」
「そりゃあ接近戦主体のお前だからだろうが。普通の奴は夜目が重要だろう」
艦娘は人の形をしていても元は軍艦だ。砲撃や雷撃がメインの攻撃方法だからな、電探や航空機による索敵も重要だが、当てるには艦娘本人の視力が最も重要になる。いくら視力が効き難い夜戦だからって、嗅覚や聴覚を頼りに懐に飛び込んで接近戦を挑む奴は艦娘の中にはほとんどいない……まぁ、俺がウチの連中には接近戦での戦い方を仕込んでいるから例外中の例外だが。中でも川内は色々おかしい。海上を滑るように移動する艦娘の特性上、接近すればその航跡に気付かれて狙われたりするはずなんだが、どうやってるのか相手に察知されずに敵艦の視界の外に回り込んで、致命の一撃を与えて再び闇に紛れ込む。正に忍者……というよりNINJAだ。
「ほらほら、そんな事より何作ってるのか白状してよ!」
「これか?これは『いりやき鍋』だ。長崎の対馬辺りの郷土料理なんだとさ」
《炒って煮込んで!いりやき鍋》※分量2人前
・鶏モモ肉:1枚
・ブリ:刺身用のサクで1本分
・木綿豆腐:1/2丁
・こんにゃく:1/2枚
・白菜:1/8個
・長ねぎ:1/2本
・春菊:1/3袋
・シメジ:1/2袋
・サラダ油:大さじ1~2
(スープ)
・水:600cc
・かつおぶし:20g(またはほんだし小さじ2)
・醤油:大さじ4
・みりん:大さじ3
・塩:適量
・素麺:お好みで
『いりやき鍋』ってのは、先に肉や魚を炒る……つまりは炒めてからスープを加えて野菜を入れ、煮込む鍋らしい。本来は香り高い椿油で炒めるらしいが、んなもん一般家庭には存在しない。なのでサラダ油で代用する。まずは下拵えから。
鶏肉とブリは食べやすい大きさにカット。豆腐は大きめの賽の目に、白菜はざく切り。長ねぎは斜め切りにして、シメジは石附を取り除いて解す。こんにゃくは熱湯でサッと茹でて灰汁抜きをして、短冊切りにしておく。
スープに使う鰹だしを作るぞ。鍋に水を入れて強火に掛ける。沸騰直前まで沸いたら弱火にして、かつおぶしを入れて2分置く。ザルで濾したら出来上がり。ほんだしを使う場合は沸騰直前まで沸かしたお湯にほんだしを溶いたらOKだ。
「おっと、こいつを忘れてた」
「それは……素麺、ですか?」
「あぁそうだ。いりやき鍋のシメは茹でておいた素麺を残った汁に入れて絡ませて食べるのが定番なんだとさ」
素麺も袋通りの時間で茹でておく。量は自分で加減してくれ。
さぁ、鍋を仕上げていくぞ。土鍋にサラダ油を引いて中火に掛ける。油が温まってきたら鶏肉を入れて炒めていく。この時、鶏肉が焦げないように注意。鶏肉の色が変わったら鰹だし、醤油、みりん、塩を加えてひと煮立ちさせる。ここで一旦汁の味を見る。少し塩気が強いくらいで丁度良いぞ、後から入るブリや野菜から水分が出て味が薄まるからな。
汁が沸いてきたら白菜、こんにゃくを加えて煮る。白菜が柔らかくなったらブリ、長ねぎ、木綿豆腐、シメジ、春菊を加えて更に煮る。ブリに火が通ったら完成だ。食べる時にはお好みでもみじおろしやゆず胡椒を添えて。
「ハイよ、『いりやき鍋』だ。そっちにも今持ってくから、大人しく待ってろよ?」
川内達の前に置いてあるコンロの上に、鍋を乗せる。もう1つ仕込んでいた鍋は夕雲達の分だ。川内達はすでに器によそって食べはじめている。
「あふっあふっ……うん、こういうシンプルなのもいいね!」
「鶏肉も炒めてあって香ばしいですね」
「そして鶏の旨味が染み込んだスープ!たまんないね」
夕雲達も待ちきれない様子で、生唾を飲んでいる。そして俺が鍋を持っていくと、欠食児童かという位の勢いで鍋に襲い掛かった。具はあっという間に消え去り、シメの素麺を所望された。
「あ~、食った食った。ちょっち苦しいぜ」
げふっ、と長波がげっぷをしている。
「もう、お行儀悪いよ?長波ぃ」
そんな長波を巻雲が諫める。そういう所を見ると、幼く見えてもやっぱ次女なんだなぁと思うぜ。
「さてと、皆お腹一杯みたいだし私達はお暇しますね。先輩方、お先に失礼します」
「「「「「「失礼しますっ!」」」」」」
「お~、お休み~」
「お休みなさい」
「明日の集合に遅れないようにね~」
夕雲達を見送る3人。思わずにやけてしまう。
「……何よ?」
「いやぁ、しっかり上下関係染み付いてんなぁと思ってな?」
「司令官が厳しい方ですから、ね」
「おいおい、俺のせいかぁ?」
「少なくとも、私達は提督のおっかないの知ってるからね」
ニシシ、と那珂が笑う。この3人は鎮守府最初期からの付き合いで、俺が今のように余裕を持った艦隊運用をする前の時代を知っている。半ばブラック鎮守府へと転がり落ちそうな状況だったからな、あの頃は。
「……すまん」
「いいよいいよ、提督が上から戦果をせっつかれてたのは知ってるし、さ」
「それに、厳しくせざるを得ない状況下でも無茶な進撃等は絶対にさせませんでしたから。その頃から信頼してます」
「それに今の皆を見れば、この鎮守府の艦娘は幸せだって解るでしょ?」
「“皆”は救ってやれなかったがな……」
加賀、そして初期艦の五月雨。この大鎮守府へと成長させた中で失った艦娘が2人だけというのはかなり少ない筈だ。優秀だ、名将だと褒め称えられるだろう。だが、だがそれでも、全てを救う事は叶わなかった。
「あ~もう、しんみりした空気はヤメヤメ!」
川内が徳利に口を付けて、グビグビと飲み始めた。
「今日は飲むからね、付き合ってもらうよ提督!」
「へいへい」
それから数時間後、ペース配分を誤った川内が暴走気味に飲みまくり、早々に潰れてカウンターで突っ伏してイビキをかいていた。
「やれやれ、川内ちゃん寝ちゃったし私達もそろそろお開きにしよっか?神通ちゃん」
「そうね。……提督、何か持ち帰れる鍋物を作って頂けますか?」
「あ?別に構わんが……明日の朝飯か?」
「いえ、姉さんが警備班の娘達に何か差し入れようと言っていたので……代わりに」
「成る程、それで身体の温まる鍋か……よし、ちょっと待ってな。急いで作るからよ」
《お手軽簡単!白菜と厚切り豚バラのトロトロ煮込み》※分量4人前
・豚バラ肉(ブロック):400g
・白菜:1/2個
・ウィンナー(またはベーコン):200g
・塩(下味用):小さじ1/3
・コショウ(下味用):少々
・ニンニク:2片
・白ワイン:200cc
・水:400cc
・塩:小さじ1/2
・黒胡椒:少々
豚バラと白菜の組み合わせの鍋物と言やぁ薄切り肉を白菜と交互に重ねたミルフィーユ鍋が定番だが、今回は敢えて厚切りの豚バラと煮込んで食べ応えもある煮込み料理にしよう。豚バラは4~5cmの厚さに切って、塩・コショウを刷り込んでおく。白菜は芯を残して縦半分に切る。ニンニクも縦半分に切って、芽を取り除いておく。
フライパンに油を引き、豚バラの脂身を下にして強めの中火で2~3分焼いていく。脂が出てきて脂身に焼き色が付いたら肉を転がしながら、全体に焼き色がつくまで更に3~4分焼いていく。
肉が焼けたら取り出し、脂が残った状態で白菜を焼いていく。全体に軽く焼き色が付いたらOKだ。
白菜が焼けたら取り出しておいた豚バラと一緒に鍋に移し、ニンニクと白ワインを見送り火にかける。煮立ってきたら水、塩、黒胡椒を入れて加熱。再び煮立って来たらアクを取り、蓋をして更に20分程煮る。最後にウィンナーを入れて5分煮込んだら完成だ。ウィンナーと豚バラの旨味を吸ったトロトロの白菜。コイツが最高に美味いんだ。
「はいよ。食べる前にもう一度温めるように伝えてくれ」
「ふふ、了解です」
「……それと、こっちはお前らの分だ。ニンニクは少な目にして、代わりに生姜をいれてある。朝飯にでも食ってくれ」
「やったぁ、流石提督、スケコマシぃ!」
「オイ那珂、褒めてんのかそりゃ」
「もっちろん!よい……しょっと!じゃあ、私達の分は私が持つから、神通ちゃんは警備班の娘達に届けてあげてね」
川内を背負い、鍋を持つ那珂。流石は遠征で荷物を抱えてるだけあって、運搬はお手の物だな。
「じゃあ提督、まったね~♪」
「ご馳走さまでした」
「おう、お粗末さん」
翌日、知らない内に警備班の娘達に差し入れをしたことになっており、駆逐艦の連中に囲まれてお礼を言われまくって赤くなっている川内が見られたのは、また別の話。
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