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提督はBarにいる。

作者:ごません
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やっぱ冬は鍋でしょ!・その3

「結局、何だかんだと文句垂れながらもシメまで完食したなぁ?」

「しょ、しょうがないだろ!美味しかったんだから」

 ニヤニヤと意地悪な笑みを向けると、膨れっ面のタシュケントが反論してくる。だが、苦しくなるまで食べなくてもいいとは思うんだが。ヴェールヌイもタシュケントも腹がポコンと膨れて妊婦みたいになってんぞ。

「で?まだ食うのか」

「……止めておこう、これ以上食べたら出てはいけない物が出てきそうだ」

「そうだね。同志提督、今日はもう帰るよ……うっぷ」

「寮に戻るまでに吐くなよ?」

 口を開けたら出そうなのか、2人ともコクコクと頷いてヨタヨタ歩きながら店を出ていった。入れ替わりに3人の客が入ってきた。

「いらっしゃい……って、おぉ!3人揃っては珍しいなぁ」

 その瞬間、店内にいた駆逐艦達に緊張が走る。何せ入ってきたのは……

「う~っ、寒い寒い……提督、熱燗3人前ね!」

「姉さん、席に着く前からはしたないですよ?」

「神通ちゃんはホットカクテルでもいいんじゃな~い?」

 川内型の3姉妹が揃って入ってきたからだ。それぞれが駆逐艦を鍛える鬼教官と恐れられている3人。入ってくりゃあそりゃビビるってもんよ。……え、俺?俺はホラ、組織のトップとしての威厳的なアレで尊敬されつつビビられてる奴だからノーカン。

「で、何であんた達は立ったまま敬礼してんの」

 面倒臭そうに川内がジト目を向ける。

「……私達にだってオンオフの区別くらいはあります。怒りませんから、楽になさい」

 神通にそう言われてようやく、力を抜いて席に座り直す夕雲達。

「恐がられてんなぁ、鬼教官殿?」

「提督にそんな風に言われるのは……心外ですっ」

 ぷぅ、と頬を膨らませて機嫌を損ねた事を伝えてくる神通。

「そうだよねぇ、神通ちゃんはぁ……甘えん坊のネコちゃんだもんねぇ?」

 那珂がケラケラと笑ってからかう。

「猫にマタタビ、神通に洋酒ってか?」

 川内もそれに乗っかってニヤリと笑う。

「それな!」

「……姉さん、那珂ちゃん?」

 神通は笑顔だ。笑顔だが……その背後に阿修羅が見える。

「じょ、冗談だって……なぁ?那珂」

「そ、そうだよぅ!場を温めるちょっとしたジョークだよぅ!」

「はいはい、トリオ漫才はそれくらいにしとけ。はいこれ熱燗ね」

 徳利とお猪口を3つずつ手渡してやる。川内が少し焦りながら神通のお猪口に熱燗を注ぐ。神通は那珂に、そして那珂は川内に。日常の中でちょっとした喧嘩はあれど、仲の良い姉妹なのには変わりがないらしいな。

「「「乾杯」」」

 お猪口を打ち鳴らす事はせず、軽く杯を掲げての乾杯。そこからグッと中身を煽る。喉をするりと熱を持った液体が通り抜け、その酒精が喉を焦がす。その熱気をぷはぁと吐き出せば、心地よい甘露がやってくる。

「さてお三方、ご注文は?」





「今日のオススメは?」

「北方海域での仕事帰りが多いからな。今日は鍋を薦めてるぜ」

「お鍋、ですか……」

 何が良いか、と右手を顎の所に当てて思案を始める神通。

「はいは~い!どうせだったらぁ、ご当地鍋が良いでーす!」

 那珂が先んじてアイディアを出してくる。

「お、流石は自称アイドル。地方営業は得意だもんねぇ?」

 川内がニヤニヤと笑いながら那珂をからかう。

「む~っ!自称じゃないもん!それに地方営業じゃなくて遠征任務だし!」

 実際姉の川内や神通に比べて、那珂は鎮守府にいるのは少ない。遠征部隊の旗艦として、東奔西走駆けずり回っている事の方が多い。その道中で、色んな土地のグルメを食べ歩くのを趣味にしている。ご当地鍋、と一口に言ってもそれこそ全国津々浦々に存在する。その中から選んで作れというのは意外と難題だ。

「で?どんな鍋が良いんだ」

「う~んとねぇ、石狩鍋とかきりたんぽ鍋みたいなメジャーなのじゃつまんないから……あんまり皆が知らなそうな鍋が良いな!」

 メジャーなのじゃなく、マイナーな奴ね。

「勿論、お酒に合うのにしてよ?」

 川内からも注文が入る。ふむふむ、マイナーでお酒に合う鍋と。

「神通は?何か注文ねぇのか」

「わ、私は……提督の作られるお料理なら、何でも」

 畜生、そんな可愛く微笑まれたら頑張るしかねぇじゃねぇか。



《酒だけで煮る!美酒鍋》※分量2人前

・鶏モモ肉:1/2枚

・砂肝:120g

・豚バラ肉:100g

・厚揚げ:1/2枚

・こんにゃく:1/2枚

・白菜:2~3枚

・ニンジン:2~3cm

・エノキ:1/2袋

・長ネギ:1/2本

・ピーマン:1個

・ニンニク:1片

・ごま油:大さじ1

・塩:小さじ1弱

・コショウ:少々

・酒:200cc

・粗挽き黒胡椒:お好みで




 さて、今から作るのは美酒鍋(びしょなべ又はびしゅなべ)と呼ばれる鍋料理だ。広島の一部地域で食べられてる宴会料理でな、元々は酒蔵の賄い飯だったらしい。イメージとしては……すき焼きが一番近いのかな?味付け塩コショウだけども。

 まずは肉。豚と鶏の2種類を使う。これは絶対。砂肝も絶対入る。モモ肉は3~4cm角の食べやすい大きさにカット。豚バラは5cm幅に切り揃える。砂肝は厚みを半分にしてから5mmの厚さでスライス。

 お次は野菜。これは食べやすいようにカットすればOK。ニンニクは芽を取り除いてスライス。厚揚げとこんにゃくには熱湯をかけて灰汁抜き(厚揚げは油抜きだな)をして、食べやすい大きさにちぎるなり切っておいてくれ。

 さぁ、鍋を仕上げていくぞ。鍋にごま油を引いて中火にかける。ニンニクを入れて炒めて香りが立ってきたら、モモ肉、砂肝、豚バラを入れて白くなるまで炒める。肉の色が変わったら塩コショウで味付けをして、一旦取り出す。

 肉を取り出したら野菜、厚揚げ、こんにゃくを入れて全体を大きく混ぜて肉から出た水分と馴染ませる。馴染んだ所で取り出しておいた肉を野菜の上に広げ、酒を全体に回し掛けて蓋をし、蒸し煮にする。これが美酒鍋の最大の特徴で、水は使わず酒と具材の水分とで蒸し煮にしていくんだ。酒は水に比べて揮発性が高いから、蓋を忘れずに。それと、煮込んでいる間もちょいちょいチェックして水分が足りなさそうなら酒を注ぎ足す。

「お酒で煮込むなんてちょっと豪勢ですね」

「まぁ、見た目にはな。別に高い酒を使う必要はないし、最悪料理酒でいいからその辺は上手く調整できるだろ」

「でもさぁ、何でこれ美酒鍋って書いて“びしょなべ”って読むの?」

「諸説あるらしいが……元々はすき焼き鍋みたいな鉄板とかで焼きながら作ってたらしい。そこに具材がびしょびしょになる様に酒を注ぎ足しながら作ってたからびしょ鍋、らしい」

「まさかのダジャレ!?」

「んな事言われてもなぁ」

 俺は地元の人間じゃねぇから、詳しくは知らんさ。……おっと、野菜にも火が通ったな。仕上げに粗挽き黒胡椒を散らしてやれば完成だ。

「ほいお待っとうさん、『美酒鍋』な。そのまま食っても良いが、すき焼きみてぇに溶き卵に付けて食っても美味いぞ」

「「「じゃあ卵ください」」」

「だよなぁ、そう来るよなぁ」

 取り分ける器に卵を入れて手渡してやる。卵を溶いて、鍋をつついて食べたい具材をつまみ上げ、溶き卵に潜らせて頬張る。すき焼きって日本人大好きだよな、ホント。

「ん、美味っ!」

「すき焼きの甘辛醤油味とは違うけど……これはこれでアリだね!」

「黒胡椒のピリッとくるアクセントがまた良いですね」

 味のイメージとしては、タンメンが近いかな。肉の旨味を野菜がたっぷりと吸っていて、それをシンプルな塩味が引き立てつつ、胡椒がそこにアクセントを加える。それを卵と絡ませれば……後は自作して試してみてくれ。 
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