許されない罪、救われる心
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31部分:第三話 歪んでいく心その九
第三話 歪んでいく心その九
そうしたものを見ながらだ。彼女は微笑んでいた。それは実に満ち足りた笑みだった。
「この賞状とか写真を見ないとね」
「一日がはじまらないっていうのね」
「そうなの」
台所にいる母に対して言う。
「お母さんとの写真もあるわよ」
「それもいつも見てるのね」
「そうよ、毎日ね」
実際に見ていた。今日もだ。
「見ないとはじまらないから」
「幼稚園の頃からね」
「お母さんだけじゃなくてお父さんも」
写真の中のまだ若い父も見る。
「それに睦月もね」
弟もだった。彼女は写真から見ていた。
「こうして一緒にいる写真を見ているとね」
「それにお友達もよね」
「うん」
見れば弥生もいる。それに長月達もだ。写真の中の彼女達は今の如月と同じく満ち足りた笑みを浮かべてそのうえで映っているのだった。
その写真を見ながらだ。如月はまた言った。
「学校に行く時と寝る前には絶対にね」
「見ないと、っていうのね」
「そうなの」
まさにその通りだった。
「だから。これからね」
「学校に行くのね」
「行って来るわ」
また母に告げる。
「これからね」
「行ってらっしゃい」
母の明るく優しい声が聞こえてきた。
「車に気をつけてね」
「うん、じゃあ」
「お姉ちゃん」
ここでだった。弟の睦月の声も聞こえてきた。
「行ってらっしゃい」
「行って来るよ」
「今日も遅いの?」
「部活があるからね」
弟に対しても明るい声で返す。
「だからね」
「そうなんだ」
「また早く帰る時があるから」
寂しそうな声を出す弟に対しても言葉だ。
「その時にまたね」
「ゲームしようね」
弟は姉に対して言った。
「新作のゲーム、またね」
「そうね。野球ゲームにする?」
「パワプロもいいけれど」
「パワプロじゃなくて?」
「野球ゲーム以外がいいな」
それだというのである。
「他のがいいよ」
「他のっていったら?」
「桃鉄がいいよ」
こう姉に話す。所謂双六系のゲームである。
「あれの新作、二人でしようよ」
「そうね。桃鉄ね」
桃鉄と聞いてだった。如月も笑みで応える。
「いいわね」
「そうでしょ?だから二人でね」
「やりましょう、今度ね」
「約束だよ」
弟の声は今度は切実なものになっていた。見れば台所のところのテーブルに小柄な可愛らしい顔立ちの男の子がいる。まだ小学生である。
「二人でね」
「いいわよ。それにしてもね」
「それにしても?」
「あんたも好きね」
笑顔でまた弟に言ったのだった。
「そんなにお姉ちゃんとゲームしたいの?」
「うん」
返答は簡潔だった。
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