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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第192話「現れた二人」

 
前書き
―――最後の猶予を与える。
―――……精々、束の間の平和を味わう事ね。

今回、展開が少し動きます。
尤も、次回次々回辺りはまだまだゆっくりですけど。
 

 






       =out side=





 その場にいる全員が、その存在に注目していた。
 突然の衝撃と共に現れた、二人の少女と女性。
 浮世離れした恰好と、ボロボロな状態である事が、普通でない事を表していた。

「―――――」

 揺れと突然の出現に、椿や葵でさえ驚いて動揺していた。
 だが、それは唐突に別の驚愕に塗り潰された。

〈マスター?〉

「ッ……!?」

 他ならぬ、優輝の行動によって。

「ちょっ……!?」

「優輝!?」

 二人の反応は動揺から完全に遅れていた。
 そんな二人の驚愕に意を介さず、優輝はリヒトを銃の形にし、発砲した。

「(どうして突然……!?)」

 気づいた時には、既に引き金が引かれていた。
 あまりに早い行動に、椿と葵ではその銃弾を止める手立てはない。
 そして、その銃弾はそのまま二人の女性へと吸い込まれていき……。

「………」

「……すり抜けた?」

 まるで、実体を持たないかのように、銃弾は体をすり抜けていった。

「なら……」

「っ、させないわ!と言うか、一度落ち着きなさい!」

「僕は十分に落ち着いている。だからこそ、奴はすぐにでも無力化を……」

 今度は直接斬りかかろうとした優輝を、今度こそ椿と葵で止める。

「冷静にトチ狂っているようにしか見えないわよ!」

〈同意見です。マスター〉

「発言からするに、優ちゃんはこの二人を知ってるの?」

 椿と葵が優輝と二人の間に立ち塞がり、リヒトも待機状態に自分で固定する。
 そうする事で、すぐさま攻撃をさせないようにして、会話へと持ち込んだ。

「……転生者については覚えているな?」

「ええ。優輝と緋雪、司、奏、帝……後神夜もだったわね?」

「ああ。その中でも僕と帝、そして神夜を転生させたのがそいつだ」

 その言葉に、椿と葵は思わず倒れる二人の方へ振り替える。
 そう。巫女服の女性はともかく、桃色髪の少女は優輝を転生させた神だった。

「神、それも世界を跨いで転生させる力を持つ存在だ。しかも、あいつの魅了が残っている可能性がある。そんな存在を無力化せずにいる訳にはいかない」

 以前帝との会話の中で、他の神が対処しているだろうと優輝は言っていた。
 しかし、実際目の前にすると、転生前に消滅させられそうになった事と、警戒心から咄嗟に体を動かしてしまったのだ。

「何をしてくるか分からないから、無力化を狙った……って事ね」

「裏を返せば、他の魅了に掛かっている人は何とかなるからそのままにしているって事なんだね。……確かに、今までも何とかしてきたけどさ」

 転生を行える神だからこそ。
 そして、優輝の記憶では自身に敵意を向けていたという事実から、敵意がそのままであれば、目覚めた瞬間にその力を自分に振るうだろうと考えて警戒していた。

「……いや……」

「違うの?」

「今言ったのが理由……ではある。だが、それ以外に何か……」

 歯切れを悪くする優輝。
 そんな優輝を、椿と葵は訝しむ。

「直感……予感か?とにかく、“ナニカ”が二人から感じられた」

「曖昧な感覚……だけど、くだらないと一蹴するには優輝のそれは当たるから否定しきれないわね。……結局その“ナニカ”は分からないけど、無力化するのに越したことはないと思ったのね」

「ああ」

 どの道突然過ぎた行動なため、呆れたように椿は溜息を吐いた。

「で、その結果がさっきのね。攻撃自体はすり抜けたけど」

「ああ。性質はおそらく、以前のあの男と同じだ」

「あらゆる攻撃が通じない……って訳ね」

 一応、未だに間に立ち塞がる椿と葵だが、既に優輝の敵意は薄れていた。

「……次善の行動だ。とりあえず様子を見る。ここまでボロボロになって現れた時点で、僕らの与り知らない所で何かが起きていたのだからな」

「そうね。……そもそも、その行動を取るのが普通よ。貴方のは極端すぎるわ」

「合理的……と言うか、衝動的に動いたよね?」

「……衝動を感じ、それに合わせたという所だ」

 優輝の様子から、もう即座に攻撃を起こさないと分かり、椿は溜息を吐く。

「はぁ……感情が消えた弊害ね。……でも、普通なら衝動は抑制できるものじゃないの?今の貴方は、判断してからの行動が誰にも止められないぐらい早いんだから、体が勝手に動いた、なんて事はあまりしないでよね」

「……悪い」

 さすがに自分に非があるのを自覚して、優輝は謝る。

「……とにかく、一旦家に帰りましょう。この二人を放っておく訳にもいかないし、明らかにさっきの揺れと大きな関わりがあるでしょうしね」

「そうだな」

「じゃ、あたしが背負うよ」

 とりあえず帰宅する。
 そう言って、三人は家に帰った。
 なお、念のために二人は優輝に任せず、椿と葵が背負って家に連れ帰った。







「……それで連れて帰ってきたのね……」

「ええ」

 家に帰り、客間に二人を寝かせる。
 その支度をする間に、優香と光輝への説明を椿が行った。

「……やっぱり、治癒も出来ないのね」

「え……?嘘、魔法が通じない……」

「攻撃だけでなく、治癒も通用しないなんてね」

 ボロボロだったために、椿が治癒の霊術を行使する。
 しかし、二人を癒す事はできなかった。
 そのことに優香は困惑し、自身も魔法を使うものの、それも通用しない。

「どうして……」

「存在の“格”が違うのよ」

 椿の言葉に、優香と光輝は理解できずに首を傾げる。

「どういうこと?」

「物語の登場人物が、作者に干渉することはできないでしょう?そういう事なのよ」

「え、それって……」

「例えよ。でも、“格”の違いはそういう認識でもおかしくはないわ」

 説明をしつつ、椿は眠っている少女に直接触れる。

「(普通に触る事はできる……でも、僅かにでも敵意を持てば)」

 その瞬間、椿の手は少女をすり抜ける。

「簡単な、常識的な干渉程度なら容認してくれるみたいね。でも、敵意や干渉する意思を持てば、たちまち干渉できなくなるようね」

「だから、治療できないんだね」

「そうね」

 幸いにも、二人は治療しなければいけない程の状態ではなかった。
 安静にしておけば自然治癒するため、無理に治そうとする必要はなかった。

「……この子達は、一体……」

「神よ」

「……椿ちゃんのような?」

「いえ、私達八百万の神とは比べ物にならないわ。さっき言ったように、存在の“格”が違うの。何というか……領域外?の神と言うべきかしら……?」

 椿自身、そこまでわかっている訳ではない。
 優輝の言葉から、地球に存在する神話の神ではない事ぐらいしかわかっていなかった。

「つまり、よくわかっていないのね?」

「……そうね。でも、人を世界を跨いで転生させるどころか、力を授ける事も出来る存在だから、人からすれば神に他ならないわ」

「そう……」

 優香と光輝からすれば、椿達以上に理解が及んでいない。
 本人が眠っている今、漠然としか判断するしかなかった。

「……そんな存在が、どうしてこんな事に……」

「分からないわ。でも、単純に考えれば、同等以上の存在にやられたのでしょうね」

「揺れと共に現れた所から見るに、あの揺れとも関わっているだろうね」

 普通の攻撃は一切通じない神のような存在。
 そんな存在がボロボロになっている原因を考え、優香は戦慄する。

「揺れ……そういえば、さっきのはとんでもない衝撃だったわね」

「まぁね。……一度だけでなく二度も。そして、二度目にはこの二人が。……普通に考えてもこの二人なら何か知っているわ」

 そのためにも、二人の保護は必然だったと、椿は語る。

「こちらからは治療することさえ出来ないから、しばらく安静にしてもらいましょう」

「攻撃どころか治療関係の干渉もできないからねー」

 結局、安静にさせて見守るという事に方針が決まった。









『……そうか。俺達を転生させた神が……』

 とりあえず、二人を安静に寝かせている間、優輝達は帝と司に説明しておいた。
 二人以外にも報告はしたが、そちらは揺れと共に二人が現れた程度の情報しか伝えていない。神がボロボロな状態で現れたなど、混乱する情報でしかないからだ。

「『奏や他の皆には揺れと共に現れたとだけ伝えている。干渉できない所を見るに、あの“天使”に関わりがあるかもしれないから、お前と司には話しておこうと思ってな』」

『特に奏やなのはには伝えられないって事か……。でも、椿と葵も一緒にいたんだよな?それに、お前の両親も』

「『そこは仕方がない。一応、目が覚めて事情が聞けるまではあまり口外しないようにしてもらっているけどな』」

『目を覚ましたら、どの道広まるか……』

 不安そうな声色になる帝。
 それを感じ取ったのか、優輝は疑問に思って尋ねる。

「『どうした?』」

『……いや、なのはと奏が、どんな反応をするのかと思ってな』

 なのはと奏に宿っているであろう、“天使”の存在。
 それは、二人の精神にも影響を及ぼしている。
 実際、以前に神夜のステータスにあった“■■”の文字を見て、無意識に嫌悪感を示す程には影響を受けている。
 その反応をした場所に、優輝は居合わせていないが、後で司達から経緯を聞いていたため、それらの出来事については知っていた。

「『……以前襲撃してきたあの男と同じ性質だ。“天使”があの男を倒したならば、何かしら反応するかもしれない……か』」

『ああ』

 反応するだけならまだマシと言える。
 だが、二人……特に奏の場合、その後が肝心になる。
 以前影響を受けた時、錯乱してしまう程狼狽したのだ。
 もし、同じような存在を見てしまえば……。そう、帝は考えた。

「『だが、僕らの与り知らない所で何かが起き、今ここにボロボロになって現れた。……隠し続けるのは、至難の業だぞ』」

 当然だが、二人が現れたのは予想外の出来事だ。
 自分達の知らない所で何かが起こっており、それに巻き込まれた可能性もある。
 そんな状況で、いつまでも奏となのはに隠し続けるのは難しい。

『わかってる。……どうにかしないといけないのは、わかってる』

 優輝と違い、帝は元々ただの一般人に過ぎない。
 そんな身で、人智を超えるであろう事態に向き合うのは、精神的に辛い。

「『幸い、二人共自分の中に何かが宿っている事は自覚している。上手く向き合える覚悟を持ってもらえば、何とかなるかもしれない』」

『……当の本人にすりゃ、なかなか酷だぞ、それ。……でも、それが一番マシな対処法になるのか……?』

「『今思いつく中ではな』」

 優輝の持つグリモワールには、いくつか対処できそうな魔法はあった。
 だが、そのどれもが記憶改竄や精神干渉など、非人道的なものだった。
 おまけに根本的な解決にもならないため、それらの案が出る事はなかった。

「『とにかく、目が覚めるまでは家に寝かせておくつもりだ。……様子を見たいなら直接見に来てくれ』」

『わかった』

 念話を切り、優輝は一息つく。
 現在、椿と葵は鈴のいるさざなみ寮や、学校などに説明に行っている。
 優輝の両親も同じ理由で外出していた。
 現れた二人の事はともかく、再度起きた揺れについては説明が必要だからだ。

「………さて」

 今家には寝ている二人以外に、優輝しかいない。

「確かめられる事は、確かめないとな」

 一人でいる内に。そう考えて、優輝は寝ている二人の下へ行く。

「椿が少しばかり検証したみたいだけど、深入りはしていなかったしな」

〈……マスター、傍から見れば、寝込みを襲う変質者にしか見えませんよ?〉

 優輝の行動に、リヒトが思わずツッコミを入れる。
 いくら調査のためと言えど、明らかに変態の所業にしか見えない。

〈そもそも、マイスターではなく椿様や葵様にやってもらった方が倫理的にもいいと思うのですが。マイスターが行う必要はありませんよね?〉

 さらにシャルにもそう言われる。
 はっきり言ってこちらの方が正論にしか聞こえない。

「二人は外出しているのに対し、今の僕は手持無沙汰だ。なら、時間を無駄にしないためにも、僕がやってもいいだろう。それに、別に変な事はしない」

 今の優輝は感情がないため、性欲も完全に抑制されている。
 別にやましい事をしないのは確かなのだ。

「……絵面的にまずいのは自覚しているがな」

〈合理的思考がここで……。まぁ、時間を無駄にしたくないのは分かります。今の状況下では、いつ緊急事態になるか見当もつきませんからね〉

 一日に二度の原因不明の揺れ。
 そして、二度目には神の思しき存在が二人、ボロボロになって現れた。
 そんな、予想外な出来事が連続して起きたのだ。
 また間もなく“次”が起こらないとは、限らない。

「魔法、霊術、科学、物理……今できるあらゆる干渉を試す」

〈神力では試さないのですか?〉

「さすがに神降しの力はもう残っていない」

 神降し直後ならいざ知らず、女体化も解けた今では神力は用意できない。
 椿がいれば何とかなったが、結局今はいないので意味がなかった。

「……尤も、試さずとも予想は出来るがな」

 そう言って、優輝は今自分の持ついくつもの手段を使って、二人の解析を試みた。





〈……何も成果出ず、ですね〉

「予想の内だ。感情があれば、その上で予想が外れて欲しかった。なんて、思っていたりもしただろうな」

 ……結論から言えば、全て無意味だった。
 解析は一切通じず、当然のようにすり抜けた。

「分かった事と言えば、干渉する意思を見せなければ、触れる事は可能と言う事か」

〈椿様と葵様もお二人を背負っていましたからね〉

 魔法でも、霊術でも、“触れる”と言った簡単な事なら干渉出来た。
 だが、僅かにでも何か思う事があれば、それすら出来なかったのだ。

「なんて都合のいい性質だ」

〈全くですね。存在の“格”が違うだけあります〉

 一方的な干渉が可能。
 まさに“神”にふさわしい性質とも言える。
 そして、それは一度敵として対峙した事がある優輝達にとって、最悪過ぎる性質だ。

「……やはり、宝具か何かでこっちの“格”を底上げしないとダメか」

〈ですが、体が耐えられません〉

「分かっている。それも、ただ体を鍛えればいい訳じゃない。……あれは体だけじゃなく、魂さえも耐えられない。“神”に匹敵する“格”に引き上げるんだから、当然と言えば当然だけどな」

 実際無事だったのもあり、今まで口に出していなかった事を優輝は口にする。
 あの時、リヒトを使用不可にしてでも行った行為は、魂さえも負荷がかかっていた。
 まさに自分の存在そのものが罅割れて行くような代償を、あの時支払っていたのだ。
 それでも無事に済んだのは、その時間がごく僅かだったからだろう。

「結局、僕らだけじゃ、対処法として成り立つモノを用意する事は出来ないな」

〈……そのようですね〉

 結論として呟かれた優輝の言葉に、リヒトは同意する。
 だが、優輝からすれば、その同意の言葉は何かを言いたそうにしていた。
 それを見抜いてか、リヒトはそのまま言葉を続けた。

〈―――ですが、諦めるつもりは毛頭ないのでしょう?〉

「………」

〈感情を失っても、マスターはマスターのままです。無茶を顧みず、自分の求める良き結果のためならば、最後まで諦めようとしない。……でしょう?〉

「……よくわかっているな。さすが、ムートの時からの相棒だ」

 まだ、窮地にまで行っていない。
 そんな状況下で……否、例え窮地に陥ろうと、優輝は諦めが悪い。
 故に、打つ手がなかろうと、何もしないという選択肢は、優輝の中にはない。

「その通り、諦めるつもりはない。直接解析出来なかったのなら、それでも構わない」

 大きな手掛かりになりそうな存在が、実はそうでなかっただけ。
 優輝は言外にそう言いながら、二人が眠る部屋を後にする。

「それに、僕らでは手を打てなくとも、僕より頭の切れる奴には何かしらの打てる手立てがあるのかもしれないからな」

〈……なるほど〉

 二人を調べるために時間を割いたとはいえ、未だに他の皆は帰ってきていない。
 改めて手持無沙汰になった優輝は、とりあえずとばかりに自室に戻る。

〈……例えば、彼のような……ですね?〉

「……タイミングがいいと言うべきか。いや、さっきの揺れに関してか?」

 その時、リヒトに通信が入った。

「一応、監視の目があるからあまり不用意に通信してこないでほしいんだけどな。……ジェイル。一体、何の用だ?」

 通信相手はジェイル。
 二度目の揺れが起きる前はメールとしてメッセージを送るだけだったが、今回は直接通信を繋げてきたようだ。

『ふむ、ようやく繋がったか。何、安心したまえ。魔法関連の監視の目は消えているさ。それに、君の事だ。他の監視の目も一応対策しているのだろう?」

「まぁ、現状監視どころじゃないからな。一応簡易的な結界も張ってあるし」

 揺れが再び起き、神二人が現れてから優輝は簡単な認識阻害の結界を張っていた。
 優輝達を監視していた者達には、一応二人が現れた事は伝わっている。
 しかし、優輝が魔法等で解析を試みた事や、今通信している事は伝わっていなかった。

「……魔法関連の監視も消えている、とはどういう事だ?」

『二度目の揺れはそっちでも遭遇しただろう?その影響だよ。現在、地球を中心としたいくつかの次元世界は、停電したかのように一度魔法の効果が途切れたのだよ。君達の扱う霊力は生命そのものと深く結びついているから、大丈夫だったようだけどね』

「魔法の効果が……?」

 思わぬ影響に、優輝はつい聞き返す。

『私が張り巡らしていたガジェットは魔力があまり関係ないから、座標を割り出して通信を繋げるだけで済んだが、影響を受けた次元世界はまさに阿鼻叫喚と言った所だね。次元渡航中の船もなかなか危ないんじゃないかい?』

「それほどまでの影響か……電波の類も一度途切れたと見て間違いないか?」

『うむ。言い損ねていたがその通りだとも。だからこそ、ガジェットとの繋がりが一度断たれた。尤も、君のいる地球は、停電と変わりないと推測できる』

 実際、優輝達は気づいていなかったが、地球上の全ての電波を扱う物は、一度その電波を断たれていた。そして、すぐに復活もしていた。

「地球を中心に、と言ったな。つまり、二度目の揺れは……」

『ご明察と言った所だね。そう、私の調べた所、二度目の揺れは地球が震源地になっていた。……暫定的な呼び名だから、“震源地”と言う呼び方が合っているとは限らないがね』

「……そうか」

 二度目の揺れは、地球が中心になっていた。
 実際、それほどの衝撃だったから、優輝もすぐに納得する。

『こちらからも聞かせてほしい。君達の所に、“何”が現れた?』

「………」

 その問いに、優輝は正直に答えるべきか僅かに迷う。
 だが、すぐに答えはでる。……秘密にした所で、手詰まりなだけだと。

「僕が転生した事は知っているな?……その転生をさせた“神”が、現れた。それも、何者かによって昏睡する程ボロボロな状態にされてな」

『なんと……何かが起きているとは思っていたが、まさか“神”と呼べるような存在が追い詰められていたとはね……』

 “何かが起きた”ではなく“何かが起きている”と、ジェイルは言った。
 すなわち、今もまだ異常な状況が続いているのだと、完全に理解していた。

「本題に入れ。……いつものテンションではいられない程、お前が真剣になっているのは理解している。……何かわかったのか?」

『……さすがだね。私とて、今回ばかりはテンションが上げられない。……さて、本題についてだが……“何かわかった”と言える程、わかった情報は少ない』

 “それでも”と、ジェイルは前置きして言葉を続ける。

『一つ、君には伝えておかない事があるのだよ』

「それはなんだ?」

『幽世の大門……とか言ったかね?それを閉じたすぐ後から、異常が起きているのだよ』

 ジェイルは、研究の傍ら優輝達の様子を見たりもしていた。
 その際に、幽世の大門の事件に関して知ったのだ。
 そして、同時に“異常”にも気づく事となった。

「………」

『時空間の歪み……と言うべきか。地球を中心に、“特異点”と化している。そして、その特異点の範囲は、揺れに応じて広がっているのだよ』

「……そうか」

 冷静に相槌を返す優輝だが、感情があればどういう事なのかと困惑していた。

「時空間……時間に関して観測出来るとはな。こちらでも、表裏一体のはずの現世……こちら側の世界と幽世との境界が薄れていたが……」

『原因は同様と見てもおかしくはないだろう。タイミングがあまりにも良すぎる。時間観測については、私も研究者なのでね。何より、未来から来た存在がいたという、時間遡行の実現者もいた。確かめずにはいられなかったのだよ』

 やはりマッドサイエンティストか、本題の傍らで語った時間観測の経緯について語る時、ジェイルは本来のテンションが少しばかり戻っていた。
 尤も、本題が本題なので、そのテンションはすぐに真剣なものに戻るが。

『時空間の歪みに気付けたのは偶然だが、そのおかげで揺れとの関連性も見つける事が出来た。……今は時空間だけだが、今までの法則から外れ始めている。気を付けたまえ』

「……重々承知だ。ただでさえ異常事態が続いている。警戒しない理由がない」

 世界が変わり始めていると、ジェイルは言う。
 その警戒が必要なのは、優輝もよくわかっていた。

「情報、感謝する」

『少しでも役に立てたならば何よりだ。では、こちらも忙しい身なので、ここらで通信を切らせてもらうよ』

 そういって、ジェイルは通信を切る。

「(……ジェイルも、ジェイルなりにどうにかしているようだな)」

 “忙しい”とジェイルが言った事から、優輝はそう推測する。
 尤も、今はお互いの事で手一杯なため、すぐに思考を切り替えた。

「時空間の歪み……か」

〈規模では幽世との境界よりも大きい問題ですね〉

「ああ。まぁ、タイミングからして、どちらも同じ原因だろう」

 境界が薄れる事は、言い換えれば空間の歪みとも言える。
 そのため、境界に関しても時空間の歪みと同じだと考えられた。

「……問題は、地球を中心に特異点と化している事と、そこから従来の法則から乖離し始めている事だな」

〈法則の乖離……それによって境界も薄れていると?〉

「本来起きないはずの事象が発生し、起きるはずの事象が発生しない。……法則が変わっていると見てもおかしくないだろう」

 ジェイルは“想定外の事ばかりが起きている”と言うつもりで、法則から外れ始めていると発言したが、優輝は別の意味で捉えていた。
 解釈の違いでしかないのだが……優輝のその推測は間違いとも言い切れなかった。

「………」

〈マスター?〉

「少しばかり、頭の整理ついでに精神統一する。結局の所、今打てる手はないに等しい。なら、今できる事をするしかないだろう」

 情報を得ても、何をすればいいのか分からないのは変わらない。
 そのため、優輝は情報を整理するついでに、自分の今ある力を磨く事にした。
 感情があれば、これしか出来ない事に歯痒さを感じるであろう、何も打つ手がないという事実を、受け止めながら。















 
 

 
後書き
転生について、誰がその事情を知っているのか作者でも把握できなくなっていたり……。
一応、転生者それぞれの身内と、アリシア達霊術使いとはやてぐらいは知っている設定です。

真面目に優輝達には打つ手がないです。まず情報も足りませんし、時空間に対して個人がどうすればいいのか、と言う話ですから。 
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