魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第191話「薄れて行く境界」
前書き
ぶっちゃけ世界が混ざるってどうしろと言うね。
どこぞのスキマ妖怪でも一人では足りない事態です。
今回の話は、椿達が山菜取りをした翌日辺りです。
ちなみに、前回の時点で会談からそれなりに日にちが経っています。
=out side=
京都にて、日にちが経った事で、避難していた人達も外に出るようになった。
管理局による復興の手助けだけじゃなく、自分たちでも復興していた。
子供達は退屈を紛らすように、安全な場所で自由にしていた。
―――その時。
ズンッ……!
「きゃああっ!?」
「うわぁあっ!?」
唐突な地震のような衝撃に、人々は驚く。
「い、今のは……」
「地震……?」
ほとんどの人が地震かと勘違いしていた。
しかし、物などは揺れたり落ちたりしておらず、不可解な出来事だった。
「……なに、あれ……?」
そんな時、子供が木々の奥にあるものを見つけた。
それは、黒い霧のようなものだった。
「………」
「……あっ、こら!」
子供故の好奇心から、その子供は霧の方に近づいていく。
子供の親も、その霧が気になっていたようで、止めるのが少し遅れてしまう。
『それ以上近づくんじゃない!!』
「っ!?」
そこへ、突然頭に響くような声が聞こえる。
だが、声だけでは遅く、むしろ突然の声で子供は驚いてしまう
バランスを崩した子供はそのまま霧へ―――
「ッ―――!間に、合いました……!」
『……ふぅ……危なかった……』
突っ込んでしまう。その瞬間に、何かが子供の襟首を引っ張る事で助かった。
「……何……?」
襟首を引っ張ったその存在に、駆け付けた親は困惑した。
見た目は人の形をデフォルメしたような形の、小さな紙だったからだ。
しかも、聞き間違えでなければ声もしたため、困惑は大きかった。
「型紙だけでも飛ばしてもらって正解でした……!」
「あの……えっと……」
危なかったと溜息(?)を吐く不可思議な存在。
この場にいる一般人が知る由もなかったが、その存在は型紙そのものだった。
そんな型紙に、駆け付けた母親のほうが声を掛けようとする。
「おおっと、これは失礼。すみませんが、名乗る時間もないので注意事項だけ。……あの黒い霧には触れないでください。生者にあの霧は有毒です」
「え、あ、ちょっと……!」
「では私はこれにて!」
困惑が収まらないまま、型紙は言いたいことだけ言って飛び去って行った。
残された者達は困惑したままだった。
ただ、言われた事は確かにその通りだと思って、子供を連れて速やかに霧から離れた。
『お疲れ様』
親子から離れた型紙は、頭(?)に直接響く声に労りの言葉をかけられる。
「いえいえ!ご主人様の助けになるのならなんのその!……あ、本来の目的の方の報告もしておきますね」
『あ、そうだった』
声の主はとこよ。彼女が型紙の主だった。
「結論としては、少ししか違和感がありません。やはり、境界が薄まった事で行き来が容易になってきているのかと……」
『そっか……うん。調査はこれぐらいでいいかな。さっきの揺れの影響か、幽世の瘴気が現世にも出てしまっているみたいだし、そっちを何とかしなきゃ』
「そうですね」
型紙が現世に来ている理由は、境界が薄れた影響を調査する事だった。
だが、その途中で大きな影響が発生したため、調査はもう切り上げるようだった。
『じゃあ、戻って。国造』
その言霊と同時に、型紙……国造は幽世へと戻っていった。
「……今の、揺れは……?」
京都で起きた揺れは、海鳴市にいる優輝達の所にまで届いていた。
「……地震ではないわね」
〈空間そのものが揺らされたかのようです。……何かが起きたか、影響したのかと〉
「だろうね」
椿が即座に地震ではないと見抜き、リヒトが推測を述べる。
葵も同意見で、その言葉に頷いた。
「空間の揺れ……とも少し違うか?どうも、ただの揺れには思えない……」
「そもそも普通の揺れではなかったものね」
「どちらかと言えば、衝撃が走ったみたいな感じだよね」
揺れについて考察を述べるが、これ以上は調査なしではわからない。
そのために、行動する必要があった。
「クロノ達は既に向こうに向かっている。しばらくはこっちに来れないだろう」
「なら、独断で行動するしかないわね」
「それしかないね」
クロノ達は既に一度ミッドチルダに戻っている。
大体の局員は地球に残っているが、今回の揺れに関してはあまり頼れない。
「あ、監視はどうしよう」
「放っておいてもいいけど……」
「いや、政府側に報告しておいてもらおう」
優輝達は監視されている。
だが、優輝はそれを利用して速やかに今回の揺れについて伝えてもらおうとした。
「見つけておいたよー」
「じゃあ、伝えておいて。不可解なものを見つけても不用意に触れないように、全国に向けて注意喚起しておくように、って」
「りょうかーい」
葵が早速見つけ、椿が伝言内容を伝える。
ちなみに、監視していた人物は、あっさり見つけられた事に驚いていた。
「まぁ、不可解なものは不用意に触らないのが基本なんだがな」
「一応よ。一応」
「かやちゃん、心配性だねー」
「だ、誰が心配性よ!?」
素直じゃない椿の発言に、葵は笑みを浮かべる。
最近は、そんなやり取りもできない程、事情が混み合っていたからだ。
「まずは揺れそのものについて何なのか突き止めないとな」
「その影響とか規模もね」
「それなら、もうテレビでやってるみたいだよー」
情報をできる限り伝えるためか、テレビなどの一部の営業は既に再開している。
葵はそのテレビを見て、揺れについて報道している事を伝えた。
「揺れの規模は……少なくとも、ここから京都までか」
「……それに、幽世の瘴気が湧いているみたいね。こっちは影響かしら」
「皆気になっているみたいだねー。明らか地震と違うし、当然だけど」
放送で映っているのは京都。
映像には、黒い霧……幽世の瘴気が映っていた。
「……やっぱり、境界が薄れている事が関係しているのかしら……?」
「そう考えるのが妥当だろうね」
「早めに行動した方が良さそうだな。今はそこまででもないが、幽世に疑いの目が向けられるかもしれない。さっきの揺れの正体を確かめないと」
テレビを見ながら、優輝はそういう。
映像には、中継が終わってスタジオの人達が思い思いの感想を述べていた。
その中に、若干幽世の方を疑っている旨の感想があった。
だから優輝はすぐに行動するように促した。
「ええっ!?どうして?」
「揺れの直後に瘴気が発生している。原因と思われなくても、何かしら関係があると見られるのは至極当然だろう」
「……あー、確かに」
優輝の言葉になぜなのかと、驚く葵。
しかし、優輝が続けて言った理由に、あっさりと納得する。
「まぁ、この際疑われるかどうかは気にするだけ無駄だ。問題なのは、揺れの原因や正体が見当つかないことだ」
「……そうね。地震でもなく、空間が揺れたようなもの。……不可解ね」
「優ちゃん、先に言っておくけど、今回の揺れに関しては、あたし達にも心当たりがないよ。少なくとも、あたしとかやちゃんでは、この数百年生きてきて今回みたいなことは一度も遭遇した事がない」
未だに揺れについて放送するテレビを流し見しつつ、優輝達は会話を続ける。
残念ながら、揺れが厳密にどういったものなのか、優輝達は心当たりがなかった。
「……とりあえず、実際に確かめるか」
「そうね」
「母さん、父さん。ちょっと出かけてくる。遅くなる場合は念話で連絡を入れるから」
「わかったわ」
「いってらっしゃい」
結局自分の目で確かめるしかないと思い、優香と光輝に断りを入れて出かける。
転移系の魔法は、監視下においては使ってはダメなため、そのまま移動する。
「……京都に行く事は出来そうにないな。仕方ない、海鳴市内で我慢するか」
「まぁ、仕方ないわね」
会談で取り決められ、優輝達だけでなく地球在住の魔導師は監視がつく。
他にも取り決められた事から、転移魔法で移動は許可なしでは禁じられていた。
緊急時ならそれすら無視して使う所だが、今回は使う事はなかった。
「……状況から見て、さっきの揺れで幽世との境界が薄くなった可能性が高い」
「同感ね。揺れの直後に、瘴気が出てる事が判明していたもの」
「じゃあ、空間的な揺れだったのかな?」
葵が推測としてそんな言葉を述べる。
〈……いえ、空間の揺れであれば、それは次元震と似た性質を持つはずです。ですが、私が解析しても、今までにないケースでした〉
「……つまり、まったく未知の揺れって事だね?」
〈そうなります〉
しかし、その推測はリヒトに否定される。
同時に、リヒトも今まで経験した事がないケースの揺れだということがわかる。
「リヒト、本当に初めてのケースか?」
〈……はい〉
「………」
念を入れるように、優輝がもう一度聞く。だが、リヒトの答えは変わらない。
「……優輝?」
「“未知”という部分においてなら、初めてではないな」
〈どういう事でしょうか……?〉
少し優輝は考え込み、そんな言葉を漏らす。
「揺れと関係があるかは分からないが、正体が掴めないという点においては、以前襲撃した男の性質と似ている」
「まさか、今回も似た類だと?」
「さすがに短絡的すぎないかな?」
結びつけるにしては、あまりにも短絡的だと椿も葵も思った。
原因及び正体が不明なだけで同じ類だと思うには、理由としては確かに弱い。
「……次元震ではない、実際に揺れた訳でもない。しかし、確かに“揺れた感覚”があった。リヒト、“空間としての揺れ”はあったか?」
〈……一応は、空間に乱れが起きたと思しき形跡が解析で確認できました〉
「……裏を返せば、そこまでしか分からなかった訳か」
〈はい〉
確認するように、優輝はリヒトに尋ねる。
次元震ではないが、空間的な揺れは観測出来た。
その答えに、優輝は納得するように頷く。
「魔力も霊力もさっきの揺れからは感じ取れなかった。そして……」
〈マスター、返信が来ました〉
リヒトが優輝の言葉を遮るように伝える。
実は、家を出る時にクロノに向けてメッセージを送っていたのだ。
その返事が、ちょうど今返って来た。
「……やはりか」
「一体、なんなの?」
「クロノに対して揺れに関して聞いておいたんだ」
クロノに尋ねた事は、大きく分けて二つ。
優輝達も経験した揺れがあったかについてと、その揺れに関して知っている事。
答えの返事には、揺れは来たが未知の事象に慌てている事が記されていた。
「次元を跨いで揺れは起きていた。もしかすると、かなり広範囲かもしれん」
「次元を跨いで……!?それはとんでもないわね……」
まさか次元を超えて揺れが届くとは思わなかったのか、椿と葵は驚いた。
同時に、それほどの規模の揺れがなぜ起こったのか、さらに謎が深くなる。
「緊急で調査をしたが、分からなかったようだ。まだミッドチルダには着いていないが、もしかするとミッドチルダも……」
「……もしかして、これほどの規模だと思ったから、さっき……?」
「まぁな。推測の域を出ないし、短絡的なのは自覚していたが」
それでも、まだ以前のあの男と同じにするには、理由が弱かった。
そのため、推測の域は出ない。
〈マスター〉
「こっちも返信が来たか」
「今度は誰に……えっ」
もう一つ、メッセージを送っていた相手がいた。
椿はその名前を見て顔を引きつらせる。
「あの男にも送っていたの……?」
「研究者だからな。こんな事が起きたならば、真っ先に調べようとするはずだと思ってな」
メッセージの相手は、ジェイル。
マッドと頭につく科学者にも、優輝はメッセージを送っていたのだ。
「……確かに、こういう類では頼りになるだろうけど……」
「返信内容はどうなってるの?」
簡単に頼ってしまっていいのかと葛藤する椿をよそに、葵が尋ねる。
メッセージの内容はクロノに送ったものと大差ない。
「……ミッドチルダも同じ揺れを観測したらしい。いや、それどころかあいつの目が届く範囲内だけとはいえ、全ての地域、世界で揺れが起きた事が確認されていたようだ」
「なっ……!?」
優輝の言った通り、返信内容にはそういった旨のメッセージがあった。
ジェイルはガジェットを使っていくつもの次元世界を観測していた。
これは管理局からの追ってから逃れるための手段であるのだが、今回はそのガジェットの全てが件の揺れを観測したらしい。
メッセージには、その観測結果とそれに関する推測も載せられていた。
「ミッドチルダ、次元渡航中のアースラ、地球、他いくつもの次元世界……ここまでの規模の不可思議な揺れだなんて……」
「ここまでになると、原因や正体の前に、影響を知るべきかもね……」
これほどの規模となれば、普通のロストロギアにすら簡単に起こせない現象だ。
そのため、正体も重要だが、本当に揺れただけなのか確かめる必要が出てきた。
「地球で起きた影響と言えば……」
「……幽世の瘴気が出てきた事だよね?」
「と、言う事は……境界がさらに薄れた?」
偶然かもしれないが、状況的に見てその可能性は高いと椿と葵は考えた。
「とりあえず、ジェイルに何か異常が起きていないか調べるように頼んでおいた。こっちはあまり自由に動けないからな」
「そうね。……それはそれとして、私達はどこから調べるべきかしら?」
「妥当な所は八束神社だろう。霊脈もあるしな」
「そうだね。鈴ちゃんもいるかもしれないし」
転移なしですぐに行ける場所と言えば八束神社ぐらいだった。
霊脈が集束している場所はその周辺地域にとって霊的な意味で要となる場所。
霊術を扱う優輝達が重要視する場所なので、調べるのは当然だった。
「……やっぱり、来たわね」
「そっちこそ、来てたのね」
「用件はさっきの揺れに関して、かしら?」
「目的は同じね」
八束神社に着くと、そこにはやはりと言うべきか鈴がいた。
那美も手伝いのためかついてきていた。
「地震でもない謎の揺れだもの。こういうのは調べておかないと」
「手伝おうかしら?」
「大丈夫よ。昨日の内に大体把握していたから、それと比較すればいいだけだし」
既に、鈴は調査のために霊力を巡らしていた。
会話しながらもそれは続いており、程なくして調査が終わった。
「……霊脈が強くなっているわ」
「なんですって……?」
「今の所それ以外に変化はないけど……おそらく、境界が薄れた影響かしらね」
霊脈が強くなる。
それはつまり、八束神社の霊的価値が上がったと言う事になる。
そうなると、怪異の類を引き寄せやすくなってしまう。
霊脈の力を有効活用すれば、引き寄せられる程度の怪異は容易く退けられるが。
「霊脈が強くなるって……おかしい事なの?」
「人が一日で子供から大人に成長したようなものよ。霊脈は本来なら年月を掛けてゆっくりと変化していくもの。急激に変わる例もあるけど、その場合、霊脈は暴走するか死ぬわ」
那美が疑問に思い、その疑問に椿が答える。
霊脈は様々な要因からその存在を確立している。
そのため、地震などでも霊脈に変化は訪れる。
霊的干渉を行えば、霊脈を一気に強化できるが、暴走する危険もある。
現代においては、自然現象によって霊脈は弱くなるのが普通だった。
大きめの地震などで、新たな霊脈が出来たり強化される事もある。
しかし、それらは微々たるものなので、今回のような事例は異常だった。
「幽世の瘴気は出ていないの?」
「ここに来る道中はなかったわ。多分、大門がある京都だから瘴気も湧いたのだと思う。もしかしたら、門があった場所から湧くのかもしれないけど」
「門があった場所……葵!」
「了解!行ってくるね!」
八束神社から一番近い門があった場所は、緋雪の姿をした妖が現れた場所だ。
椿と葵は直接行っていないが、優輝から場所は聞いているため、葵が急行した。
「霊脈の変化による影響はあるかしら?」
「それも調べている所よ。妥当な所は、植物の生態系に変化がある程度だけど……」
「そっちは私が調べるわ。貴女は別の事を」
「草の神の貴女の方が適任だものね。任せるわ」
鈴と椿が、会話しながらも次々と作業を続けていく。
「優輝は霊的な分野を鈴に任せて、物理的な側面から霊脈周辺の影響を調べて。那美は……そうね、鈴の指示を聞いて動いて頂戴」
「私だけ具体的じゃない!?」
「調査系じゃ、那美はちょっとね……」
「うぅ……自覚してるだけに辛い……」
言っている事は正しいだけに、那美は肩を落としながらも鈴の手伝いをする。
優輝も言われた通りに調査を始めた。
「(さて、何かわかればいいのだけど……)」
「戻ったよー」
「ちょうどいいわね」
しばらくして、葵が戻ってくる。
それと同じくらいに、椿達も調査が終わる。
「瘴気は見当たらなかったよ。大門がある京都だったから、って考えは当たりだと思うよ。そっちは?霊脈の影響とかは大丈夫だった?」
「ええ。至って普通の影響よ」
瘴気はなかったと葵が告げる。
その事実に椿は驚く事なく、自分達の調査結果を伝える。
「霊脈が強化され、生態系がその影響を受けた。……それ以外にないわ。その影響も、至って妥当なものだから、揺れの影響は霊脈だけと見るべきね」
「そっかー。何かわかればよかったんだけどね」
「さすがに簡単には分からないわ。……まぁ、本来私一人で調べようと思ってたから、手伝ってくれただけでもありがたいわ」
霊脈が強化された事と、その影響があった事以外、収穫はなし。
揺れの影響は霊脈以外なかったのだ。……一つ分かっただけでも、儲けものだが。
「……とりあえず、霊脈を活用するのは断念した方がいいわね」
「まぁ、警戒するに越したことはないわ。歯痒いものはあるでしょうけど、妥当だわ」
揺れの影響がどこまであるか分からない。
そして、その揺れも一度とは限らないのだ。
そんな揺れの影響を受けた霊脈を活用するのを断念するのは、おかしい事ではない。
「……それで、どうなの?」
「どう、とは?」
鈴が優輝に主語抜きで尋ねる。
「今回の揺れの原因についてよ。心当たりはないのかしら?」
「ないな。パンドラの箱と同じくな」
「……そう。マーリンの言う通り、貴方達でも知らないのね」
鈴はここに来る前、優輝達……厳密には、管理局の関係者なら何か知っていると思っていた。しかし、マーリンにそれはないだろうと言われていた。
そして、実際にそうだと言われ、一人納得していた。
「やっぱり、地道に調べるしかないのね」
「今までにない事例だから、それが妥当だろう」
分かっている事の方が少ないため、地道になる事は仕方がない。
そう判断して、鈴は溜息を吐く。
「考えるのは家でやった方がいいわね。それじゃあ、私は帰るわ」
「私達も家で考えましょうか」
「そうだねー。……ところで、鈴ちゃんって今はどこに住んでるの?実家って別の場所にあるんでしょ?」
「今はさざなみ寮に居候させてもらってるわ。……あそこもなかなか人外魔境ね」
世話になっている寮を思い浮かべる鈴は、どこか遠い目をしていた。
傍らにいる那美は、心当たりしかないのか苦笑いをしていた。
「そういえばさざなみ寮って……まぁ、別に気にすることでもないわね」
「じゃあ、あたし達も帰ろっか」
さらっとさざなみ寮事情を流し、優輝達は帰路に就く。
「分かったのは霊脈が強化されていた事だけ……全然進展しないねー」
「その霊脈も境界が薄れた影響の可能性が高いわ。……実質、何も分かっていないも同然の調査結果よ。尤も、この程度で分かったら苦労しないけど」
全くの未知の領域。
それは手探りでないとわかるものもわからないものだ。
影響が出ている事がわかるだけでも、儲け物だ。
「……ジェイルから連絡が来た。調査が終わったらしい」
「あら、何か分かったのかしら?」
「不可思議な現象なら見つかったらしい」
そういって、優輝はジェイルから届いた調査結果をリヒトで投影して映し出す。
「とある無人世界に、火山の魔力版のような地帯があるらしい。そこから計測できる魔力が、今までよりも大きくなっていた」
映し出された映像には、火山地帯のように荒れた地帯が映されている。
溶岩等の代わりに、濃密な魔力がそこらに漂っていた。
「でも、火山のようなものなら、偶然って可能性は?」
「ない、との事だ。この地帯は、魔力が大きくなると大気が荒れ狂うらしい。しかし、その状態にならずに魔力が大きくなっている」
「……異常がない事が異常、ね」
それは、現世と幽世の境界と同じだった。
本来なら多大な影響を及ぼす事象のはずが、一切の影響を出していないのだ。
霊脈が強化されるなど、副産物の影響はともかく、致命的な事態にはなっていない。
それが、異常だった。
「境界と同じだね」
「次元世界中を探せば、同じような異常が他にもあるかもな」
同じ類の異常が見つかった。
それは大きな収穫だった。
例え、揺れそのものについて分からないままだとしても、影響しているものが他にもあると判明した事で、別の側面から考察出来るからだ。
「とりあえず、わかった事を整理して―――」
この後の行動について話しながら、家の前に着く。
……その時。
ドンッッッ!!!
「ッ―――!?」
途轍もなく大きな衝撃が、優輝達を襲った。
それは、今朝起きた揺れとは比べ物にならない程強かった。
「なっ―――!?」
声にならない衝撃。
まるで、自分達の真下に大きな穴が穿たれ、そこに落とされたかのよう。
そんな衝撃と感覚が襲い、椿と葵は大きく動揺した。
優輝も驚いた感情を僅かに見せ、目を見開く程だった。
「今、のは……!?」
衝撃はすぐに収まり、驚愕も冷めぬまま椿がそう呟く。
あまりの突然さと衝撃に、椿も葵も息を切らしていた。
「………」
「……え?」
そして、すぐに次の衝撃が椿達を襲う。
今度は揺れにではなく、目の前に現れた二つの存在に。
「(気配も感じなかった。今の揺れで現れた……!?)」
その二つの存在は、ボロボロの姿で気絶していた。
片方は、ボロボロだが煌びやかな雰囲気を持つ服に身を包んだ桃色髪の少女。
もう片方は、同じくボロボロとなった巫女服に身を包んだ、亜麻色の髪の女性。
まるで、命からがら辿り着いたのではなく、投げ出されたかのように横たわっていた。
「まさか、揺れに関係がある……?」
あまりに衝撃的な、立て続けに起きた突然の出来事。
その出来事が齎した一つの推測を、椿は呆然としながらも呟いた。
後書き
国造の容姿が判明しない限り、うつしよの帳でのカタちゃんとしてしか出せない……!
きっといつか実装されると信じています。(2019/1/16時点)
今回の話の際に、過去に登場したあるキャラの容姿(髪の色)を変更しています。まぁ、一回しか登場していない脇役にすら劣るキャラだったので、覚えている人はいないでしょうけど。
この設定の変更は今後発生するちょっとした矛盾を解消するためなので、今は特に気にする必要はありません。
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